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第29話「向かい合う者たち」【Gパート 増援】

 【7】


「はぁっ……はぁっ……」

「参ったね……こりゃあさ……」


 ラヤの操るステルス機体〈エルフィスフトゥーロ〉の攻撃に、ホノカの〈オルタナティブ〉もラドクリフの〈ブレイド・ザンドール〉も傷だらけになっていた。

 ラヤだけではない、彼女の兄貴分ミオスの冷酷な攻撃も合わさり、ろくな反撃もできないまま機体だけが消耗していた。

 戦いの最中に何度も声をかけたが聞く耳持たず。

 相手側が身内ではホノカも派手な攻撃ができず、完全にジリ貧の状況。

 そんななか、ホノカのもとへラヤの通信が入る。


『ホノカお姉さん、最後です。私たちに協力をしてください……!』

『無駄だよラヤ。もうこいつは俺たちの知ってるホノカ姉さんじゃない。……トドメだ』


 振り上げられる〈エルフィスバッサード〉のハンマー。

 回避しようにもスラスターは噴射剤切れ。

 機体の状態は限界。

 もうダメだ、と半ば諦めかけた……その瞬間だった。


『おっけー、ロックオン完了だよ!』

『発射準備完了です、咲良!』

『いっけー! フェザー・レイザー!!』


 聞き覚えのある声と共に後方から放たれたのは、無数の細いビームの列。

 それらはラヤとミオスの機体、その武器を握る手の部分だけを的確に貫いた。

 直後にホノカ達の前へと舞い降りる、まるで巨大な天使を思わせるひとつのキャリーフレーム。

 それは華世が捕まった施設から脱出するときに見た、翼を持つエルフィスだった。


「ラヤ、ミオス……!」

『く……これじゃあ戦闘は続行できない。退くぞ、ラヤ』

『うん……』


 機体から煙幕を吹き出し、姿を消す二人の機体。

 ホノカは助かった安堵感と二人を止められなかった悔しさ、そして咲良がここにいる理由がわからない混乱が折り混ざって、頭が真っ白になっていた。



 ※ ※ ※



「うううっ……!? ぐぅぅっ!!?」


 華世をしつこく追っていたリゥシー・リウとリゥシー・スゥ操る〈カストール〉。

 そのふたつが同時に動きを止め、頭を抱えて苦しみだしたことに華世は困惑した。


「いったい、何が……?」

『私が少し刺激の強いイメージを送ったのだ、葉月華世』


 華世の背後にいつの間にか現れた一機の〈ザンドール〉。

 その開いたコックピットハッチの奥に座っていたのは、テルナ先生だった。

 イメージを送った……というのは具体的な方法は分からないが、双子と同じ人造人間ナンバーズの一人である彼女ならできる芸当なのだろう。


「私も昔、姉に同じ手で動きを止められたことがあってな」

「それはどうも。それよりもどうしてここに先生が? クーロンに帰ったんじゃなかったの?」

「いろいろあって、お前たちと合流することになったんだ。内宮も別の場所にいるぞ。それより……」


 テルナ先生がコンソールをなにやら操作したかと思うと、華世の義眼にひとつのイメージデータが送られてきた。

 それは、この要塞型ツクモロズのコアへと向かう、最短経路の地図。


「これは?」

「ある協力者から送られたものだ……が、生身でしか通れない通路が多々あるみたいでな」

「つまり、あたしの出番ってことね」

「ふたりは私が面倒を見る。葉月華世はコアの破壊へ急げ」

「……ええ」


 おそらくリウを通じてスゥも同じく苦しんでいるはずだ。

 それに内宮も応援に駆けつけたとなれば、ウィルたちは大丈夫だろう。

 華世はテルナ先生から送られた地図を頼りに、人間サイズの通路へと向かった。


 上へと登り、広い空間を通り抜ける。

 キャリーフレーム大の通路から人間サイズの通路へと入り、抜けた先でまた広い空間を通る。

 大きさの違う様々な回廊を駆け抜け、華世はコアのある場所へとつづく広い通路へと出た。


「この先にあるコアを壊せば、ミッション完了ね」


『そうは、させねぇぞ……女ぁっ!!』


 通信越しの低い声。

 キャリーフレームが床を踏みしめる振動に振り向くと、立っていたのはレッド・ジャケットの指揮官機〈ペンネ・リガーテ〉。

 そして華世の視線は、その機体が持つ一振りの武器に吸い寄せられていた。


 火花をちらしながら、回転する円盤状の刃。

 華世の中に眠る恐怖を呼び起こす、殺人兵器に酷似した武器。


「ひ……」


 途端に華世は声を失い、全身から力が抜ける。

 脳内に溢れ出す無数の死のイメージ。

 人間が肉塊へと変わる感覚が、全身を駆け巡る。


『このまま失敗じゃ……ぼかぁ終わりなんだよ……!』


 一歩ずつ近づいてくる〈ペンネ・リガーテ〉。

 しかし恐怖に呑まれた華世は未動き1つ取ることができない。

 華世の命を刈り取ろうとする機体が、目の前で足を止める。


『せめてお前だけでも……僕の手柄になれぇっ!!』


 甲高い駆動音を唸らせながら振り上げられるビームソー・ブレード。

 目の前に迫る回転する光の刃を、華世は見ることしかできなかった。


 その瞬間だった。


 轟音とともに、空間に電撃が走った。

 同時に〈ペンネ・リガーテ〉の手から離れるビームソー・ブレード。

 また音が鳴り雷が走り、回転ノコギリの刃がバラバラに砕け散っていく。

 それが対キャリーフレーム用レールガンが発射した弾頭によるものだと華世がわかったのは、華世の背後に立つ人物がその武器を構えていたからだった。


『お前ぇっ!! じゃ、邪魔をするなんて、なん……何なんだよ!!』

「人のトラウマ掘り起こすような武器使う卑怯者に、名乗る名前なんて無いね。そらっ!」


 レールガンを構える人物……獣の耳のような飾りの付いたフードをかぶった少女が、手に持つレールガンを再び唸らせる。

 高速で発射された弾頭がキャリーフレームの肩、その付け根を的確に貫いて腕の機能を奪う。

 伝達ケーブルを射抜かれた腕はだらんと力なく下がり、巨大なはずのキャリーフレームが一人の少女を畏怖するように後ろへあとずさる。


「次はコクピットハッチの緊急開閉装置を撃とうか? その後はキミ自身が的になるよ?」

『うっ……ぐぬぬぬぬぬぅっ……!』


 遠回しな「諦めて撤退しろ」という勧告。

 〈ペンネ・リガーテ〉のパイロットは任務遂行より命を優先する小物だったのか。

 少女の放った脅しに屈するように、機体ごと何処かへと去っていった。


 静かになった通路で、華世は立ち上がる。

 命の恩人とはいえ、華世にとっては素性のわからぬ存在。

 その人物が自分と同じように、空気のないこの空間で生身でいると気づけば、警戒をせざるを得なかった。


「助けてくれてありがとう……だけど。あなた、何者よ?」

「そういえば初めましてだったね、マジカル・カヨ。ボクの名前だったら、キミの魔法少女的な力で読み取れるんじゃないかい?」


 言われて、少女から感じ取った名称が脳裏に浮かび上がる。

 その名は────マジカル・ナノハ。


「ナノハ……? あなたも魔法少女ってことよね?」

「そうだよ。ツクモロズを敵とする魔法少女、その一人ってとこだね」

「ツクモロズを……そうだ、早くコアを破壊しないと」


 ナノハに背を向け、駆け出そうとする華世。

 そのとき、先程テルナ先生がしたのと同じ要領で、義眼にデータが送られてきた。


「このデータは、何……?」

「キミが探し求めていた情報さ。信じるか信じないかはキミ次第……だけどね」

「ちょっとまって、それって……!」


 華世が振り返ったとき、すでにマジカル・ナノハの姿は無かった。

 データのことは気になるが、今はコアの破壊が先決だ。

 そう考えを切り替えてから、華世は地図の示すゴールへと駆け出した。




    ───Hパートへ続く

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