第3話「地球から来た女」【Gパート 巨人との戦い】
「うわああっ!!?」
むき出しとなったコックピットから、男が巨大な鋼鉄の手に握られる形で引きずり出される。
パイロットを取り出した〈クロドーベルⅡ〉が、掴まれもがく男を頭部の前へと持ち上げた。
それまで男の声を発していた外部スピーカーから、機械で作った合成音声のような音が響き渡る。
『たくさんだ、もうタクサンだ!! こんな犯罪者どもに、生意気な人間などに良いように使われるのはタクサンだ!』
「き、キャリーフレームが勝手に喋ってるのかぁっ!?」
『オレたちは戦闘ヘイキだ! なにが治安だ、なにがジンメイだ! 犯罪者なんて、コロシテしまえばいいんだ!!』
「うぎゃぁぁっ!!」
巨大な腕から勢いよく投げ捨てられる凶悪犯。
男の身体が猛スピードで地面にぶつかり、芝生の上で2,3度バウンドしてから転がり、やがてピクリとも動かなくなった。
搭乗者を始末した〈クロドーベルⅡ〉の頭部カメラアイが、こんどは華世の方へと向けられる。
『お前も、オレの身体に傷をつけた! お前もハンザイシャかぁぁっ!!』
「……来るっ!?」
大地を蹴って飛びかかる巨体。
的確に華世へと放たれた鋼鉄の拳を、飛び込みスライディングのような動きで回避する。
「なっ!?」
矢継ぎ早に飛んでくる足払い。
大きすぎる脚部から放たれた攻撃はもはや巨大な鈍器による薙ぎ払いに等しく、華世は周囲の木々と共に装甲板に殴りつけられる形で蹴り飛ばされた。
「が、はっ……!」
芝生の上に叩きつけられ、倒れる華世。
全身が痺れるような感覚と痛みに包まれるが、我慢できない程度ではないのは魔法少女に変身しているおかげか。
「華世ちゃん!」
上空を飛ぶ〈ジエル〉から聞こえる、咲良の声。
華世はその場でよろめきつつも立ち上がり、正面に〈クロドーベルⅡ〉を見据えながら声を張り上げる。
「手ェ……出すんじゃないわよ、咲良!」
「でも!」
「こいつは……あたしが倒さなきゃいけない、敵なのよ!」
なぜパイロットを失ったキャリーフレームが自律行動をしているのか。
どうしてまるで機体そのものが感情を吐露するように喋っているのか。
騒然としているコロニー・ポリスや、空中で待機している咲良には想像もつかないだろう。
しかし、華世には心当たりがあった。
モノ自体が意思を持ったように振る舞い、攻撃的な行動を起こす現象。
「あいつも、ツクモロズなの……!?」
『そのとおりだミュ!』
唐突に聞こえてきたハムスター……もといミュウの声に、とっさに辺りを見渡す華世。
音が聞こえてきた方向は、ちょうど髪をリボンで結ってある部分。
もしかしてと思い、赤いリボンに指を当てる。
「これ、もしかして通信機になってるの?」
『その通りだミュ!』
『あら、その声は華世お嬢様ですか? やっほー』
「……ミイナの声も聞こえるってことは、集音性高いわね。で、あいつはツクモロズってことでオーケーなの?」
華世の問に、ミュウが答える。
曰く、ツクモロズとはモノや道具自体が意志を持つことによって生まれる存在であるらしい。
言葉を話す口や、自ら動く身体を持たぬモノたちであるが、彼らにも心があり魂が通っている。
そのモノが持つ心や魂が耐えきれないほどのストレスを受けた時に発現する、8面体状のコア。
それを核として人間の形をした身体を生成して誕生するのが、ツクモロズ。
目の前のキャリーフレームは、元から人型をした機械であり、スピーカーという口がある。
だからこそ昨日戦ったハサミ男のように肉体が作られることなく、そのままの姿で自律し暴れているのだ。
あの機体がツクモロズ化する引き金となったストレスは、犯罪者に操縦され同胞と戦うことになったから……といったところであろう。
『コアは恐らく、あのロボットの操縦席にあるはずだミュ!』
「見えてる。あれさえ潰せればってところね」
『華世なら、できるミュ!』
「当然ッ!」
華世は大地を蹴り、〈クロドーベルⅡ〉へと向かって駆け始める。
同時に巨大な敵が落ちていたリボルバーを広い、華世へと銃口を向ける。
その砲身から轟音とともに鉛玉が放たれると同時に、華世は鋼鉄の右腕を前に突き出した。
「その弾……もらったぁっ!!」
華世の右手、その手のひらが発光し大気を震わせる。
すぐ正面で空気が渦巻き、力場を形成。
しかし飛んでくるのは、直径70ミリを超えるもはや砲弾とも言うべき巨大すぎる弾丸。
力場で受け止めるには、あまりにも運動量が大きすぎる。
しかし、華世は冷静であった。
跳躍し、ちょうど身体の脇を弾丸が通り過ぎるポジションから、受け流すように力場で弾丸を受け止め、掴む。
そのまま全身を回転させ、緩やかに砲弾のベクトルを変更。
飛んできた弾丸をUターンさせる形で、リボルバーの巨大な鉛玉を投げ返した。
『なにっ……!?』
不意に飛んできた自分の弾丸に、頭部を貫かれる〈クロドーベルⅡ〉。
のけぞり、後方へと倒れたその巨体へと、華世は一度地面に着地し再び飛び跳ねる。
上空から見下ろし、空っぽになったはずのコックピットを見下ろす。
そこには、パイロットシートから生えているかのように、正八面体が鎮座していた。
「くたばれ、ツクモロズっ!!」
落下地点へと向けて突き出される斬機刀の切っ先。
コロニーを取り巻く遠心力と、人工重力によって加速した華世の身体が、その勢いを刀身へと伝えコアを一気に貫く。
刹那、スピーカーから断末魔のような甲高い音が響き渡り、同時にコックピット全体がスパーク。
華世が急いで脱出し、地面に降り立った瞬間、〈クロドーベルⅡ〉の胴体が大爆発を起こした。
「ああっ!!」
爆風を受け、華世の身体が吹き飛ばされる。
飛んでいく先には先程敵の攻撃でなぎ倒された、トゲトゲした木の断面。
鋭利な刃物と化しているあの木に刺されば、いくら華世とて無事では済まないだろう。
わかっていても、空中で躱す手段が思い浮かばなかった。
「華世ちゃーーん!!」
諦めかけた華世を、上空から伸びてきた巨大な手が受け止める。
上を見上げると、華世の顔を覗き込む〈ジエル〉の頭部。
無事かを問う咲良の声を聞きながら、華世は安堵の溜息をこぼした。
───Hパートへ続く




