第29話「向かい合う者たち」【Fパート 反撃の狼煙】
【6】
先を読まれているような激しい攻撃に、機体をボロボロにされながら持ちこたえていたレオン。
すでに〈レオベロス〉は満身創痍であり、獣形態から人型への変形は損傷で不可能。
メイン武器のひとつであるタテガミ状のビーム発振器も半分以上が欠損していた。
一方で相手のキャリーフレーム〈ボルクス〉は今だ無傷。
とはいえExG能力を持たないレオンがここまで粘れているのも、ひとえにウィルのおかげだった。
同じ空間の別の場所で、変形機同士で激しいドッグファイトを行っている2機。
その戦いの合間にマイクロミサイルによる支援攻撃をレオンに向けてしてくれていた。
(子供の身でよくやるぜ、あのウィルって野郎はよ……!)
〈ボルクス〉による光の刃を持つ槍、ビーム・ランサーを構えた突撃。
その攻撃にタイミングよくウィルの放ったミサイルが重なった。
とっさに攻撃を中断し、回避運動に入る〈ボルクス〉。
「何……?」
これまで完璧な回避と迎撃によって無傷を貫いてきた相手。
しかし今回のミサイルに関してだけ、目に見えて動きが緩慢だった。
回避しきれず、腕部に数発の被弾をする〈ボルクス〉。
これをチャンスと捉え、レオンは〈レオベロス〉の残ったタテガミ状のビーム発振器から光線を発射。
回避こそされたがこれまでの理不尽すぎる避け方とは異なる、常識の範囲内の回避タイミング。
理由はわからないが、相手の動きは明らかに鈍っている。
確実ではないにしろ訪れた勝機に、レオンは奮起した。
※ ※ ※
『舐められたものねウィリアムっ! 私の相手は片手間でいいっての?』
「そんなんじゃ……ないっ!」
人型への変形と同時に振り下ろされたビーム・セイバーを同じ武器で受け止め、ウィルは機体ごと押し返す。
フルーラも負けじと2度3度と光の刃を振るい、交差する2つのビーム剣がぶつかるたびに激しい光を放つ。
『ウィリアム、あなたはいつもそうよね! いつも私の上を行って、いつも私を見ていなかった!』
「俺が、フルーラを見ていない……?」
『一緒の時に生まれて一緒に訓練してたのに! そうして、私に黙って出て行っちゃってさ! 裏切り者のウィリアム!』
「フルーラ……君はあの時、接ぎ木手術を受けたときに何を感じた!?」
『あなたを超えられる力……! あなたに勝てるという自信よ!』
「そんなだから……俺は君を連れていけなかったんだ!」
ビーム・セイバーの弾かれあう斥力への抵抗をやめ、後方へと退く。
その離れた瞬間にウィルは〈ニルファ・リンネ〉を戦闘機形態へと変形。
直上へ向けてスラスターを吹かせた。
間髪入れずに変形し追ってくるフルーラの〈ニルヴァーナ〉。
要塞ツクモロズ内の広大な空間で、高速で追いかけっこの形を取る。
「フルーラ……戦いは恐いことなんだ!」
『は!? 今さら弱音に命乞い!?』
「違う! 戦いは傷つけ合うことだ、どちらかが傷つくまで終わらないんだ! 俺はそういう戦いをしたくなかった!」
『でも今はこうやって殺し合ってるのよ! おかしくなったのね、ウィリアム!』
「華世に出会って、俺は知ったんだ! 俺は守るための戦いをするって……! 誰も傷つかないまま、戦いを終わらせるって!」
『わけのわからない理屈! ウィリアムなんて……ウィリアムなんて、華世って女と一緒に、あの世にいくといいのよ!』
「俺も華世も、ここで終わる気は無いっ!!」
キャリーフレームサイズの通路へと突入するウィル機、後を追うフルーラ機。
少しでも操縦方向を誤れば翼が壁に激突する狭さの中、ウィルはキリモミ回転と同時にミサイルを放った。
狭い空間の中放たれた弾頭は即座に壁に当たり爆発。
その際に発生した黒煙が、一瞬で通路を埋め尽くす。
『ウィリアム、何をっ……!?』
「フルーレ・フルーラぁぁぁっ!!」
黒い煙の中で一瞬のうちに人型へと変形した〈ニルファ・リンネ〉の手に、ビームセイバーを握らせる。
ウィル機が変形したことにフルーラが気づいたとき、既に発振されたビームの刃が〈ニルヴァーナ〉の片翼を切り裂いていた。
狭い通路でバランスを失ったフルーラ機は間もなく壁へと激突。
ウィルの背後遠くで、キャリーフレームがメチャクチャに転がる音と振動だけが煙の中に響き渡った。
「フルーラ……。俺の言うことが少しでも分かってくれたら、君も……」
あえて背後を振り返らず、その場で変形しもと来た道を戻る〈ニルファ・リンネ〉。
キャリーフレームの搭乗者保護機能で、フルーラは死にはしないだろう。
今は守るべきもののため、ウィルは元の場所へと急いだ。
───Gパートへ続く




