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第29話「向かい合う者たち」【Eパート 華世の奮闘】

 【5】


「こんっ……のおっ!!」


 キャリーフレームサイズのナイフを斬機刀で受け止めつつ、受け流す容量で威力を殺す。

 返しに義足からヒートナイフを発射するものの、装甲の斜めになっている部分で受けられ無情にも刃は空へと放られる。


 凄腕パイロット操る高性能キャリーフレーム相手に、普通であれば華世であっても勝負にはならない。

 この状況で一見でも対等に渡り合えているのは、相手のクライアントがあのオリヴァーだからだろう。

 経緯はわからないが華世へと執着心、あるいは独占欲をもつオリヴァー。

 あの御曹司が華世の生け捕りを双子に命じている故に、体格を生かして一気に潰すというキャリーフレーム側の有効戦術が潰れている。

 アーミィの凄腕とはいえ常識の範疇であるレオンの無事は気になるところだが、今はなんとか目の前の〈カストール〉へのヘイトを高めるのか先決だった。


 要塞内の人間用通路か。

 華世は高さ2メートルほどの通路へと逃げ込み、義手のビーム銃で牽制射撃をする。

 いくら人間サイズといえどビームの弾幕は装甲を徐々に蝕んでいく。

 痺れを切らした〈カストール〉が、手に握るナイフの一本を通路へと投げつけてきた。


(……ビンゴッ!)


 華世は通路から飛び出し、飛来するナイフへと空中で義手の手のひらからVフィールドを発生させる。

 対キャリーフレーム戦で何度もやってきたフィールドによる投げ返し。

 華世を軸としてUターンさせる要領で、巨大ナイフを相手へと放った。


 けれども流石はExG能力者。

 投げ返されたナイフを最小限の動きで回避する。

 しかし、華世にとってはそれこそが狙いだった。

 投げ返す瞬間、華世は義手でナイフの柄を掴んでいた。

 そして放つと同時に手首のワイヤーを伸ばし、一瞬だけ相手に「手を離した」と誤認させる。

 遠くの細いワイヤーが、キャリーフレームのモニター越しに映るはずもない。

 いくらExG能力であっても視認できない情報から判断を下すことはできない。

 ゆえに、ワイヤーを巻き取ることで起こる華世の急接近には、反応が遅れるのだ。


 ナイフを掴んでいた手を離し、背中のスラスターで位置を調整。

 そのまま、〈カストール〉のコックピットハッチへと華世は取り付くことに成功した。

 斬機刀を握り、突き刺すようにハッチに向けて刃を装入。

 ガチンと止まる感触を確認してから引き抜いた。


「これでクロノス・フィールドが展開したはず……」


 キャリーフレームに搭載されている搭乗者保護フィールド。

 外部からの影響を完全にカットする球状の膜は、同時にコックピットからのすべての信号を機体からカットしてしまう。

 その隙に頭部へと駆け上がり、確実にフィールドが発生し続けるよう〈カストール〉の頭部へと斬機刀で一閃。

 なんとか相手の1機を無力化することに成功した。


「待ってなさいよ、ウィル。くたばってたらタダじゃおかないから……!」


 機能停止した敵機を尻目に、華世はウィル達のもとへと急────ごうとして、背後から聞こえた音に振り向かざるを得なかった。


「……嘘でしょ?」


 開いた〈カストール〉のコックピットハッチから飛び出すのは、パイロットスーツ姿の少女。

 その両手に握ったナイフの刃を光らせながら、彼女は華世へと飛びかかる。

 鋭い突きを義手で受け止め、もう片腕を生身の腕で抑える。

 壁を背にして組み合った状態で、ヘルメットのバイザー越しに見える少女の顔は、以前に顔を合わせた相手。

 髪の長さと得物から双子の妹の方、リウシー・リゥだということがわかった。


「マスターをたぶらかす女っ……!」

たぶらかすって……あたしは勝手に付きまとわれてる側だってのに!」


 言って通じる相手ではないのはわかってる。

 けれどもリゥの背後で動き始めた無人のはずの〈カストール〉を見て、それどころではなくなっていた。

 華世は相手の腹部を蹴りつける形でリゥを引き剥がし、直後に伸びてきたキャリーフレームの巨大な腕を背部スラスターを吹かせた移動でかわす。

 その瞬間に開きっぱなしのコックピットを覗き見るが、やはり中は無人。

 キャリーフレームの動きに合わせてひとりでに動く操縦レバーやフットペダルが、やたらと不気味だった。


(双子はどちらも高レベルのExG能力者……。そして二人が深く通じ合ってるなら……)


 一人の少女とキャリーフレームの猛攻をかわしながら、華世の中に一つの仮説が浮かぶ。

 もしもこのキャリーフレームが双子のために作られた専用機であるならば、いま無人で駆動している〈カストール〉は現在、もうひとりの双子リゥシー・スゥによって動かされているのではないか。


 詳しいシステムや仕組みは分からないが、頭部はさっき華世が破壊したので機体側は視覚を失っているはず。

 なので、おそらくリウが目で見た情報をテレパシー的な能力でスゥへと送信しているのだろう。

 その情報をもとに無人誘導兵器ガンドローンを動かすシステムの応用で、スゥが遠隔でキャリーフレームを動かしている。

 高度なExG能力者であれば、複雑な並列思考も軽々と行えてしまうからこそできる芸当。

 それが今、目の前で起こっている手品のタネなのでは。


 つまり今、スゥは同時に2機のキャリーフレームを操縦していることになる。

 しかし、いくら双子の能力が高くても同時にふたつの場所の別々の機体を動かそうとすれば、多少なりとも無理が生じるはず。

 華世は一人と一機の攻撃をかいくぐりながら、ウィルとレオンが戦う向こうの好転を願った。





    ───Fパートへ続く

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