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第29話「向かい合う者たち」【Dパート 三者三戦】

 【4】


 まるで遠くで爆発があったかのような振動が、接地した脚部越しにホノカを乗せたパイロットシートを震わせる。

 それは別の隊が何者かとの交戦を開始したことに他ならないが、広い空間でラドクリフと合流したてのホノカにとって今はそのことを気にかける余裕はなかった。


「ラヤ……と、ミオスなのよね」


 以前の戦いで戦艦〈アルテミス〉を苦しめたステルスタイプのエルフィス。

 前方で立ちふさがるその機体と、ラヤ機を守るように構えるもうひとつの機体を見て、ホノカには嫌な予感がよぎっていた。

 修道院で妹・弟のように仲が良かった子どもたち。

 その二人がいま、ホノカの前に敵として現れていた。

 コンソールに映るのは、見慣れた……けれども見たことのない真顔をしたラヤの顔。


『ホノカお姉ちゃん……私たちに協力して……! 一緒にアーミィを倒そう……!』

「く……」


 華世に出会う前のホノカであれば、即答していたであろう問いかけ。

 しかし、アーミィは決して悪辣なだけの集団ではなく、その温もりを体感してしまった今では答えようがなかった。

 沈黙を否定と捉えたのか、ラヤ機を守るようにして立っていたエルフィスが、無骨で巨大な鈍器を振り上げながら襲いかかってくる。


『ラヤ、ホノカは敵だよ。もう姉さんは姉さんじゃない』

「ミオス……! 違う、私はそんなつもりじゃ……」

『ラヤには触らせないよ』


 感情のない声と共に、手にした棒状のハンマーで鋭いスイングを放つミオス機。

 精神の動揺もあり、徐々に追いつかなくなる回避運動。

 ホノカをめがけて鉄塊の一撃がついに捉えた……という瞬間に、ラドクリフの〈ブレイド・ザンドール〉のショルダータックルがミオス機を弾き飛ばした。


『ホノカの嬢ちゃんよ。知り合い相手でもやれるのか?』

「はい……とは言えませんけど、ここで立ち止まるつもりはありません」

『だったらあの殺意高いハンマー野郎は引き受ける。保たせてる間に一人くらい説き伏せるかなんとかしな! うおおおっ!!』


 心強い声と共に斬機刀を抜きながらミオス機へと向かうラドクリフ。

 ホノカは言われたとおりに、改めてラヤの機体を正面へと捉える。


「聞いて、ラヤ。私はあなた達と戦いたいわけじゃないの……!」

『じゃあなんでお姉ちゃんは言うことを聞いてくれないの? 嫌だよ、お姉ちゃん……私、お姉ちゃんを殺したくない。けどね……!!』


 画面から消えるラヤの機体。

 高度なステルス機能だが、危険なれど対応策は前に編み出している。

 咄嗟にコックピットハッチを開き、ヘルメットのガラス越しに肉眼で相手を確認。

 すぐにハッチを閉じて盾から放射状の熱線を発射した。


『うっ……くっ!』

「ラヤ、お願い聞いて!」

『お姉ちゃんは私にこんなことしない……お姉ちゃんじゃない……!!』


 通信越しに興奮状態に陥っていくラヤの声。

 戦いの中では話が通じないと思ったホノカは、まず戦う力を削ぐのが先だと判断した。



 ※ ※ ※



 ハンマーの重い一撃が斬機刀に触れるたびに、眩い火花が空中に散っては消える。

 勿論、斬機刀はプレート状ゆえに真っ向から受け止めているわけではない。

 ましてや明らかにパワーに勝る敵機と、まともに勝負などできようがない。

 間一髪で攻撃をいなし続けながら、ラドクリフは通信チャンネルを開けた。


「その機体……前にクレッセント社の流出情報で見たことがある。〈エルフィスバッサード〉だったか? どこで手に入れた、ボウズ?」

『…………』


 通信の先の少年は、まるで戦闘マシーンのように真顔、無言を貫きながら攻撃を続ける。

 多少でも精神を揺らせればと思ったが空振りに終わり、大きく後方へと退きながらラドクリフは思案する。


(こんな年齢だってのに、まるで熟練パイロットだ。V.O.軍の連中、子供にいったい何しやがった?)


 考える時間を稼ぐために、ラドクリフは腕部のガトリング砲を発射して接近を拒もうと試みる。

 しかし、〈エルフィスバッサード〉は弾幕の中の薄い部分を掻い潜るように回避し接近。

 振り下ろされたハンマーの一撃がかわしそこねた〈ブレイド・ザンドール〉の片腕をえぐり取った。


(……まずいね、こりゃあ)


 ラドクリフの頬に、冷たい汗が一滴だけ通り過ぎていった。



 ※ ※ ※



 戦闘機形態の〈ニルヴァーナ〉が、キリモミ回転をしながら無数の追尾レーザーを放つ。

 ウィルは巧みな操作で迫りくる光の線を掻い潜るように回避するものの、一息つく間もなく空色の〈ボルクス〉が槍による薙ぎ払い攻撃。

 〈ニルファ・リンネ〉を瞬時に人型へ戻しながらバーニア噴射をかけるが、先を読まれたかのようにスイングが追従。

 けれども別方向から〈レオベロス〉が放ったビームによって、相手の退しりぞきという形で攻撃を受けずに済んだ。


(流石にキツいか……!)


 ただでさえ数で負けているのに、更に相手はパイロットも常人離れしている。

 テルナ先生の話によれば、あの一対の機体に乗る双子はどちらも高レベルのExG能力者。

 高度な並列思考と未来予知にも見える瞬間的な判断能力は、厄介という言葉では片付けられない。


「ウィル、あたしを降ろしなさい!」

「華世!? それは無茶だよ!」

「あたしは人間兵器よ。少なくとも数だけでも五分五分にできるわ」

「でも……、くっ。死なないでよ……!」

「あったりまえ! ドリーム・チェェエンジッ!!」


 このままジリ貧を続けるよりも華世を信じたい。

 危険を承知で魔法少女へと変身した華世を、開いたコックピットハッチから解き放つ。

 彼女はすぐさま義手から細かいビーム弾幕を展開。

 敵機体のうち双子の片方、橙色の〈カストール〉を引きつけることに成功した。


『ウィリアァァァムッ!!』


 直後に人型へ変形しながら飛びかかるフルーラの〈ニルヴァーナ〉。

 彼女が振り下ろしたビーム・セイバーを同じ武器で受け止め、干渉しあう光の刃がバチバチとスパークしながら弾き合う。


『堕ちたものね、ウィリアム! 生身の人間を囮なんてねぇ!』

「フルーレ・フルーラ! 俺は華世を信じてるだけだっ!」

『信じる……? あんたが言えるセリフじゃあないわっ!!』


 ほぼ同時に両機が変形し、戦闘機形態同士で始まるドッグファイト。

 逃げつつ避けつつ、時折レオンの助けになればとミサイルを放出。

 フルーラが自分に執着してくれれば、彼女に対してだけ勝てる見込みがある。

 なんとかしてこの状況を打開するために、ウィルは全神経を研ぎ澄ませた。




    ───Eパートへ続く

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