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第29話「向かい合う者たち」【Bパート 要塞級への突撃】

 【2】


 戦闘配備命令に従い、パイロットスーツを着込んだウィルがコックピットに腰を下ろす。

 その横の狭い空間へと体を滑り込ませた華世は、通信越しに聞こえる艦長の声に耳を傾けた。


『現在、前方5キロ先の地点から当艦は砲撃を受けている。その砲撃の発射地点と見られる位置の望遠画像がこれだ』


 ブォン、という音とともにコンソールへと表示される一枚の写真。

 そこに写っていたのは、端に金星の曲面が映る黒い宇宙の中に浮かんだ、ひとつの建造物だった。

 立方体を集めて重ねたような、ゴツゴツとした輪郭。

 その表面から伸びるのは大小さまざまな幾多もの砲身。

 その中でもひときわ大きいものは、まるで腕にも見える細長いユニットの先から伸びていた。

 腕だけではない。

 注視すれば輪郭を帯びてくる全体の形状。

 巨大な要塞のはずであるそれは、まるで巨大なロボット……いや、人型をしていた。


『ここ数日間の情報に、あの施設に該当する情報は無かった。つまりあの要塞は、突然あらわれ人型をとったものとみられる。そのような現象が起きる理由は、1つしか考えられない』

「……ツクモロズね」


 ツクモロズは、魔法の力だかなんだか知らないが、周囲の物体を吸収し人型を取ろうとする傾向がある。

 元から人型のキャリーフレームがツクモロズ化した場合はコックピット部にコアが形成されるのみだが、他の物体が依代になった場合は違う。


『あの要塞のツクモロズ化が自然か人為的かは不明だ。しかし、航路の安全と当艦の目標達成のために、無視することは不可能と判断した。そこで────』


 表示される部隊表。

 ラドクリフを隊長に、ウィル、ホノカ、レオン、クリスを入れた高性能機による精鋭部隊。

 これまでの戦いで何度も実績を出した者たちが、リストに並んでいた。


『当艦と直掩ちょくえんキャリーフレーム部隊で要塞の攻撃を引き連れている間に、突撃隊は要塞へ突入。核晶コアを破壊することで無力化をはかってもらう』


 要するに、少数精鋭で内部に入り込んでの急所の破壊。

 それによる速やかな要塞の無力化が、ウィル達に課せられた任務だった。

 どんなに大きなツクモロズだとしても、心臓たる核晶コアを破壊されれば機能停止するのは、コロニー・ウィンターで実践済み。

 相手がツクモロズということで、華世もウィル機に同乗する形で作戦に参加することになった。


 ウィルが操縦する〈ニルファ・リンネ〉が発進カタパルトへと足を乗せる。

 すでに次々と直掩ちょくえんの〈ザンドール〉たちが発進する中、最後に残された突撃隊の面々。

 格納庫ハッチの外では、既に無数の光線が交差し、要塞の攻撃を引きつけている。


「怖い……わけないよね、華世は」

「当たり前でしょ。足役、しっかりやんなさいよ」

「もちろんさ……」

『ようし、いいか嬢ちゃん坊っちゃんたち。決して油断はするなよ……! ラドクリフ隊、発進!』


 ラドクリフの声とともにカタパルトが火を吹き、ウィルの機体が前方へと投げ出される。

 目標は、要塞級ツクモロズ。

 その方向へ向けて、〈ニルファ・リンネ〉はバーニアを全開に噴射した。



 モニター越しに見える宇宙の風景。

 向かって右手に金星の曲面が映る中、放たれた光線のいくつかがそばを通り過ぎていく。

 けれども数秒もすればその数は減り、やがて散発的な細かいビーム程度しか放たれなくなってきた。


「艦長たちの陽動、うまくいってるみたいだ」

「要塞級といってもツクモロズなら、驚異の大小で優先順位つけるでしょうね」


 周囲で速度を合わせて進んでいる、ホノカたちの機体を横目に華世は呟く。

 ツクモロズには知能の差異はあれど、総じて生き物としての習性は表れていた。

 そこで、要塞から見て小さくとも戦艦が激しい攻撃を仕掛けていれば、注意は自然とそちらへ向く。

 砲撃も敵を近づけさせないというよりは、威嚇や追い払いの意味合いが強いだろう。

 だから攻撃せずに近づいているラドクリフ隊に、要塞級ツクモロズは攻撃をあまりしないのだ。


「……ウィル、操縦しながらで良いから、続きを聞かせなさいよ」

「続き?」

「あんたがレッド・ジャケットの総統の息子って話。後でみんなに話すときに、あたしがフォローしてあげるからさ」

「うん……」


 遠くの要塞が徐々に大きく見えてくる中、ウィルが暗い声色で返事をする。

 孤立無援より、信頼できる仲間に先に事情を知ってもらいたい。

 秘密を抱える者としては、ひとつ肩の荷を降ろすためにも欲しいアプローチだ。

 決して狙ったわけではないが、ウィルはおとなしく口を開いた。


「俺は……俺の本当の名はウィリアム・エストック。聞いたように、父さんはレッド・ジャケットを統べる総統だ」

「……そうね」

「物心がついた時から俺は、傭兵として戦うための技術を教え込まれていた。といっても戦い一辺倒じゃなくて、最低限の社会勉強とかもさせられてたけど」

「……そうよね。じゃなきゃ、他人を見れば敵か味方かって騒ぐようなやつになりかねないわ。それで?」


 華世の相槌に、少しずつウィルの語りが軽やかになっていく。

 ウィル本人の気持ちが固まったのは一年前。

 能力強化のためにグラフト手術を行ったときだった。


「……接ぎ木(グラフト)手術?」

「脳に別の人間の脳細胞を埋め込むことで、脳細胞から経験を得る手術……らしいよ」

「それって……まるで人間の改造じゃない」

「経験の薄い子供でも、高い能力を発揮できるようにする技術……俺はそう教えられてた。けど、その手術には副作用があったんだ」


 副作用、それは埋め込まれた脳細胞が持つ記憶が脳へと流れ込むこと。

 手術後のウィルの中へと、激しい戦いの記憶が流れ込んだのだった。

 キャリーフレームで生身の人間を殺す感触。

 焼け焦げる人間の匂い、響く悲鳴、耳をふさぎたくなる無数の断末魔。


 リアルな戦場の記憶は少年を恐怖に駆り立てるのに十分すぎた。

 戦いの道具として使われることを恐れたウィルは、半ば衝動的に機体を奪って脱走。

 コロニー・ネイチャーの無人島へと流れ着き、そこでひとり生活を始めた……。


「なるほどね。それから1年くらい経って、あたしが漂着したと。でもあのとき、ツクモロズ相手に戦えてたじゃない」

「一人でいる間に、色々考えてたんだ。自分には戦う力がある……その力をどうしたらいいんだろうって。そして、君が現れた。あの島でツクモロズが現れたとき、俺は君を守るためにその力を使おうって思ったんだ」

「そう……だったのね」


 ウィルの話を聞きながら、華世はウィルが言っていたグラフト手術について考えていた。

 他者の経験を吸収し、記憶が引き継がれることがあるという人体改造。

 それはまるで知らないはずのことを知り、子供の身で並の人以上の能力を持つ自分に対する辻褄の合う説明ではないか。

 ウィル本人が人為的な手段で高い能力を与えられていたのも驚いた。

 けれどもそれ以上に、自分の謎の一つにつながる情報に、華世は思考を割かされていた。


「……とにかく、事情はわかったわ。これであんたがその事で不利になりそうになったら、フォローしてあげられる」

「ありがとう、華世……むっ? 高熱源反応!?」


 唐突にウィルが叫んだと同時に、正面から巨大なビームが接近する。

 とっさの変形とキリモミ回転により回避に成功したものの、そのビームの一撃は部隊の陣形をバラバラに引き裂いた。



    ───Cパートへ続く

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