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第28話「青春の回顧録」【Gパート あばかれる秘密】

 【7】


「……というわけで、その時からあたしはウィルへの認識を少し改めたの。おしまい」

「すごく感動的ないいお話ですわ~~~!!」


 落ち着き払っている傭兵団クルーたちを尻目に、ややオーバーに感嘆の声をあげるリン。

 その反応に面食らっているのか、話を聞きたがっていたレスの目玉が、少し呆れているようにも見えた。


「リン、あんた半分までは関係者だったじゃない」

「最後の日のとき、わたくし暑さにやられて早退していましたもの! だから結果は今はじめて聞きましたの!」

「気づかなかった……。それで目玉野郎、これで満足かしら?」


 そもそも今回の話をするきっかけは、レスが人間の色恋について聞きたい……というのが始まりだった。

 今は擬態能力をリンに取られ、彼女の身体に間借りしている形の人造生命体。

 かれはアホ毛みたいに頭頂部から飛び出した目玉姿を、頷くように縦に動かした。


「やっぱ面白いな、ニンゲンってやつは。相手の性別が違うだけで、鉄面皮だと思ってた女のこうも感情が揺れ動きまくるものなんてさ」

「誰が鉄面皮よ。それで、あたしは取引材料を出したわ。話してもらうわよ、ツクモロズのこと」

「……わかったよ」


 観念したかのように目を閉じるレス。

 これまで謎のベールに包まれていた、組織としてのツクモロズ。

 その謎がようやく、少しだけでも明らかになる。


「鉤爪たちは、ツクモロズという集団について……どこまで知ってるんだい?」

「どこまで……ねえ。モノに意思を宿らせ暴れさせることで、人間社会に混乱を招こうとする連中……って認識よ。あんたとか爺さんとか三度笠とか、ボスキャラみたいに強いのか何人かいるのはわかってるけど」


 これまで華世が経験してきたツクモロズとの戦い。

 その中で明確に「仕留めそこねた」と認識しているのがその3人である。


「バトウにセキバクのことだね。確かにアイツらは手練てだれだし、発言力も持っている。そいつらを束ねているトップに、ザナミって名前の女がいることは知らないみたいだね」

「女?」

「僕自身はそいつの能力だとか強さは見たことないんだけど、他のツクモロズ全部がその言葉に言い従うくらいの存在さ。恐ろしい何かでも持ってるのか知らないけど、あいつ以上に偉いツクモロズはいなかった。君たちの言葉を借りるなら、ラスボスって言葉が似合うかもね」


 ここに来て初めて出てくる名称、ツクモロズ首領ザナミ。

 レスの言うことが本当ならば、ツクモロズとの戦いで最後に相対する存在になるだろう。


「レス、つまりですわね。ツクモロズというのは一人のリーダーが支配する、トップダウン式の組織ということですの?」

「リンは賢いね。ザナミの命令を聞いて、僕とかセキバクとかがいろんな作戦を考えて実行する。そういう構造だったよ」


 トップがひとり、というのはある意味では救いである。

 司令塔となる絶対的なリーダーは、イコール組織のアキレス腱となる。

 何も正面から彼らの流儀に乗らずとも、居場所のわかったトップを暗殺さえできれば、一気に人類側は優位に立てるだろう。

 暗殺が通用するような存在なのか、という問題は置いておいて。


「質問いいかしら、レス?」

「何だい鉤爪」

「単刀直入に聞くけど、ツクモロズの本拠地……言い換えればそのザナミの居城がどこにあるか、教えてくれない?」

「それは……無理だね。恥ずかしながら僕、その場所を知らないんだ」

「知らない? あんたザナミって女に何度も会ってるんでしょう?」


「確かに会ってるし、基地の中に何度も出入りもしてた」

「じゃあ……」

「実は言うと僕、いやツクモロズたちはドアトゥ粒子という物質の力を借りて基地と目的地を行き来してたんだ」

「ドアトゥ粒子……?」


「……その名がツクモロズから聞けるとは思わなかったな」


 単語に驚き、反応したのは意外な人物。

 遠坂艦長が神妙な面持ちで立ち上がり、その粒子についての説明を始めた。


「ドアトゥ粒子とは、散布領域内の物質を任意の場所へと転移。平たく言えばワープさせることのできる……地球外物質だ」

「地球外物質? 艦長さん、そんな便利なものがあるなら、どうして移動手段として普及してないのかしら」

「私も又聞きなので真偽は保証できないが……転移に使う亜空間、これが整備をし続けないと縮小していくものらしい」

「なるほど、わかりましたわ。つまりはそのトンネルのようなものを誰も整備していなかったというわけですわね」

「そうだ。昔はキャリーフレーム数機くらいは余裕で転移させれたんだが、空間の整備技術が地球には存在しない故に……今は」

「……人間大の存在くらいしかワープできないということね」


 失伝による技術の消失、というのは珍しい話ではない。

 後継者の不在、唯一の知識人が伝播でんぱせずに死亡など、そういった理由で伝統文化などが消えた例はごまんとある。

 それが地球外物質によるテクノロジーなら、なおさらあり得る話だ。


「ドアトゥ粒子による移動は、転移する者ひとりが思い浮かべた行き先の風景のイメージによって行うことができるんだけど……」

「連れてこられた基地の内装はわかるけど、その施設を外から見たことはないというわけね」


 一言一句、レスの発言に注意はしている華世。

 リンと一体化したとはいえ、かつて敵だった存在を信用し切るには時間が足りない。


「僕は身体構造を作り変えれば粒子の生成自体はできる。だからもっぱらツクモロズからは移動手段みたいな扱いをされてたよ」

「今もできるの?」

「鉤爪……まさか、ツクモロズの本拠地に殴り込むつもりじゃないだろうね?」

「違うわよ。数人程度だとしても、知った場所に移動できるなら行動の幅が広がるからね」


 華世の返答を聞いて、少し黙るレス。

 数秒の重い空気を生み出した黒目玉は、ため息のような音を漏らした。


「僕の記憶を一部、リンに渡せば不可能ではないよ」

「その口調……嫌そうね」

「記憶を他人に渡すのは、抵抗があるからね。自分の言えない秘密……それを他人に知られるのは嫌だろう?」


 彼の言うことは、筋が通っている。

 誰だって秘密を他人に暴露するのは抵抗があるし、暴露されるのも困るだろう。

 

「……なぁ? レッド・ジャケット総帥ハルバート・エストックの息子。ウィリアム・エストック」

「え……!?」


 今まさに、レスがウィルに行ったことのように。



──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.28


【ザニック】

全高:不明

重量:不明


 キャリーフレーム同士の戦いを体感できる対戦ゲーム「フレームファイターⅩ8」に登場する架空キャリーフレーム。

 ゲームそのものは操縦シミュレーターの代わりになるほど出来がよく、実際に操縦資格を取る前にプレイを推奨されているほど。

 この機体はJIO社製キャリーフレーム・ザンクと同じ操縦感となっているが、デザインは大きく異なっている。

 これは、ザンクの開発元であるJIO社がゲームなどにおける実在機体の登場に高額のライセンス料を取っているためである。


 【次回予告】


 暴露されるウィルの出生。

 コロニー・オータムを前に決戦の構えを取るドラクル隊。

 困惑を抱えながらも、見知った相手との戦いに少年少女は向かってゆく。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第29話「向かい合う者たち」


 ────皮肉な運命は、若者たちを闇へ誘う。

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