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第28話「青春の回顧録」【Fパート 二人きりの対面】

 【6】


「それで、どうなったのだ? そこから二人の仲が進展する流れが来るのだろう?」

「……艦長まで来るなんてね」


 回想が一息ついたときに増えていたギャラリー、その中についに遠坂艦長まで入ってきた。

 優秀な人材を束ねる敏腕艦長も、人間としては若い女。

 いわゆる恋バナというものに、興味が惹かれるのだろうか。


「艦長席を離れてもいいの? まだもうちょっとかかるわよ?」

「夕食を食べる時間くらい席を外していても問題はない。緊急があればその時は到着まで副長が保たせる」

「すごい信頼関係ね」

「カドラとは長い付き合いだからな」


 照れることもなく言ってのける艦長。

 遠坂艦長と副艦長カドラが男女の仲である、というのは艦内クルーには公然の事実だ。

 聞いた話だと十年前の黄金戦役のときから既に親交があったらしいふたり。

 それが本当なら遠坂艦長が11歳……つまりは小学生のときから付き合いがあることになる。

 もちろんカドラ本人も若かったのだろうが、それでも外見だけで10ほど歳の開きがある。

 そんなカドラが陰口で「ロリコン」と呼ばれても堂々としているのは、かえって清々しい。


「それで、君たちはそれからどうなった?」

「えっと。俺が夕食を食べ終わったあとに、華世の様子が変だったから部屋を訪ねたんだ」

「ウィル、あんたが喋ると何いいだすかわからないからあたしが。それで、その日の夜────」



 ※ ※ ※



「ねえ、華世……少しいいかい?」


 コンコンとノックをしてから扉越しに響く、ウィルの声。

 明らかに心配するような声色の問いかけに、華世は「いいわよ」と言いながら自己嫌悪した。


「華世……大丈夫かい? ずっと元気がなさそうだけど……」

「……あんたって、優しいのよね」

「え?」

「今日……見ちゃったの。あんたと田村が一緒にいるところ」


 華世の言葉にウィルは慌てるわけでも言い訳を並べるわけでもなく、ちょっと顔を赤らめて視線をそらした。

 その仕草が示すのは、他の女生徒と一緒にいたのがバレたという焦りではなく、彼女にした惚気話を聞かれたかもという羞恥心。


「その……あの会話を聞いちゃってたり?」

「ええ……一通り聞いたわ。あんたがどれほど、あたしを信頼しているかって」

「華世……」

「あたしは、あんたのことを信じきれなかった。他の女になびいたかもって疑って、追っかけて監視してた。でも、あたしは……」

「華世は悪くないよ。俺だって、黙って田村さんの練習に付き合ってたのは事実だ」

「……そういうとこ。本当に優しいのよねぇ、あんたって」


 はぁ、とため息がこぼれる華世。

 華世に落ち度があるのに、あくまでも責任は自分だと言って聞かない。

 そういう自己犠牲の精神は、ウィルが他の女子たちからモテる理由のひとつだ。


「でも……嬉しいな」

「何がよ? あたしはあんたを疑ったってのに」

「いや、華世が俺をそこまで気にかけてくれるのが嬉しいなって。何でもないような男相手だったら、君はここまで落ち込まないだろう?」

「……そうね。そうよね」


 何でもない相手、というのからはとうに離れている。

 けれども華世には恋愛感情というものが理解ができない。

 異性間の好きだ嫌いだがどういう感覚で、どのような心の働きかけをするのか。

 それがわからないため、華世にはウィルに対してどういった対応をすればいいのかわからなかった。


「正直……本当に俺が華世を惚れさせられるかって、不安だったんだ。ほら、いつも華世に助けられてばかりだしさ……」

「これが惚れなのかはわからないわよ。でも、そうね……今日のことで少しあんたへの認識が改まった。これを惚れだというのなら、少し進歩したのかもしれないわね」

「俺、頑張るよ。いつかきっと、君から『好き』の言葉を言わせてみせる! だから、それまで……俺を信じて待っていてくれ」

「……わかったわ、待ってる。あんたがもっとあたしの中の認識を何度も改めたら……その時は応えてあげるわよ。……その前にっ!」


 華世は机の上にあるチョコレートの空き箱を、扉の隙間へとまっすぐに投げ込んだ。

 直後にスコーンという子気味いい衝突音とともに響くのは、「あひんっ!?」というミイナの声。


「ひどいですお嬢様ー……」

「除き見してるやつの言うことじゃないわよ。……まあ盗み聞きっていうことに関してはあたしも偉いこと言える立場じゃないけどね」

「私だって、私だってお嬢様に好きって言ってもらいたいですー! ウィルさん、その場面になったら録音しててくださいね! 私、何度もリピートで聞き続けますから!」

「えっ? ろ……録音!?」

「ウィル、こいつのアホ話に付きあわなくていいわよ。ほら、解散解散!」


 半ば強引に追い出すようにして、二人を部屋から退出させる華世。

 けれども、その心の中は澄み切った水のように晴れやかになっていた。


(期待してるわよ、ウィル。あんたが……どれだけあたしの感情をかき乱してくれるのか)




     ───Gパートへ続く

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