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第28話「青春の回顧録」【Dパート 追跡】

 【4】


「3年1組の田村蘭子……ねぇ」


 カズから電話越しに聞いた名前を、復唱する華世。

 上級生だったことには少し驚いたが、口に出して発音してみてもその名前には聞き覚えはない。


『家族構成は両親の他に成人済みの兄がいるッス。他の情報としては成績は並、部活も帰宅部……言い方は悪くなるッスけど、これといって特徴のない女生徒ッスね』

「よく訊いて数分ですらすら情報が出るものね」

『情報屋たるもの身近な人間、特に学校の生徒の情報を持ってるのは当り前ッスよ。なんなら電話番号やメッセージアプリのアカウントでも教えようッスか?』

「結構よ。……ウィルに繋がりそうな情報は無いの?」

『家族関係を洗えば出てくるかもッスが、いわゆる普通の中流家庭って感じッスからねぇ。無駄骨になる可能性のほうが高いかもッスよ?』

「じゃあいいわ。あとはコッチで調べてみるから。ありがとね」

『はいッス~』


 通話を切りながら、携帯電話の画面を切り替える。

 画面に表示されるのは、コロニー内の地図。

 監視も兼ねてウィルの携帯電話には、華世の端末へと位置情報を送るプログラムを仕込んでいる。

 学校でノンビリとカズの情報を待っていたのも、これで後からでも行き先を特定できるからだ。


「それで、後をつけますの?」

「リン……。結衣はともかく、あんたも首つっこむ気?」

「もちろんですわ。予定もなく暇……ゲフンゲフン、このコロニーの防衛の一端を担うコンビにヒビが入るかの瀬戸際ですもの!」

「いいけど……邪魔しないでよね。えっと、あいつの居場所は……」


 地図を頼りに学校を出て、街の中を3人で歩く。

 たどり着いたのは大通りに面したゲームセンター。

 かれこれ一時間ほど、ウィルはその中から移動はしてないようだ。


「ね、ね! 華世ちゃん、フルダイブ型のVRゲームだって!」

「結衣、あんた目的忘れるんじゃないわよ。確かアイツはこの辺に……」

「あそこじゃありませんの?」


 リンが指差した先には、確かにゲーム筐体の座席に座ったウィルがいた。

 そしてその隣の筐体には、例の女生徒・田村の姿も。


「ゲームセンターデートかな……?」

「ウィルのやつ、そういう趣味だったのかしら?」

「華世、あのゲームはキャリーフレームの操縦シミュレーションも兼ねた対戦ゲームですのよ。パイロットの彼ならやってもおかしくありませんわ」

「なるほどね……」


 義眼でズームし、ウィルと田村の二人を交互に見る。

 ゲームセンター特有の騒がしさのせいで会話は聞き取れないが、ウィルの表情はいつものおとなしい感じではなく真剣な顔をしていた。


(あんな顔……戦闘中くらいしか見たことないけど)


 余裕がないほどよっぽど手強い相手なのだろうか。

 真剣そのものな二人はその後も数十分間も筐体から動かず、何度も携帯電話からクレジットを支払いつつ何度もゲームに挑んでいた。


「……ふたりとも、帰りましょ」

「えっ、いいの華世ちゃん? これから映画館とかカフェとか行くかもしれないよ?」

「どのみちデートコースは地図から確認できるし、もう夕暮れ時。帰って夕食の支度もしなくちゃいけないから」

「華世の家はあなたが料理担当でしたわね……。家で彼に直接聞きますの?」

「……まあ、そういうとこ」


 とは言ったものの、結局のところ華世は帰宅したウィルに対してこの事については聞けずじまいだった。

 帰りが遅くなった理由についても「ちょっと用事がね」とはぐらかし。

 食事を終えて夜になっても、最後までウィルに尋ねることすらてきなかった。

 いや、尋ねることをためらっていた。


(あいつが他の女になびいて、あたしに何の損があるのかしら。別にあたしはあいつのことなんて何も……)


 そう考えてみても、言葉は出ない。

 聞くことによって結論が出てしまう。

 そのことを、恐れている?


 どうして?

 なぜ?


 華世は自分の中に渦巻く、これまで抱いたこともない感情にただただ困惑していたのだった。

 


 ※ ※ ※



「うっわー! めっちゃ若いねー! いかにもなラヴ感情! ねぇお兄ちゃん!」

「ユウナ、俺に聞かれても困るぞ。俺そういう色恋沙汰とか縁がなかったんだから」


「…………またギャラリーが増えてる」


 気がつくと、食堂には新たにレオンとユウナの兄妹が現れていた。

 結衣みたいに恋バナに目を輝かせる妹と、目を逸らし呆れる兄。

 話すのを止めたい感情が浮き上がるも、この話はレスから情報を得るための取引材料。

 彼が満足するまでは、話しきらないといけない。


「ふたりとも、しー……ですわ。しー……」

「ゴメンゴメン! 私にもあったなぁ、淡い恋に渦巻く複雑な乙女心……!」

「なに、ユウナ誰に恋い焦がれたことがあるんだ!?」

「言いませんー! いまカレシいないことから察してくださーい!」


「……続きを話していいかしら?」


 華世が睨むと、無言で椅子に座るふたり。

 このままギャラリーが増え続けるんじゃないかという懸念を抱きながら、華世は再び言葉をつづる。


「それから数日間。ウィルの奴ったら田村って子と何度も一緒に下校してたのよ。でも、ふたりが行く場所はいつもゲームセンターだった……」




     ───Eパートへ続く

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