第3話「地球から来た女」【Fパート VSキャリーフレーム】
【6】
コックピットの内側を覆うように張り巡らされたモニター越しに、眼下へと過ぎ去っていく町並みを見る。
いま、華世が操縦者である咲良と共に同乗しているのは、白を基調としたキャリーフレーム〈ジエル〉。
パイロットシートの脇に用意された簡易シートに腰掛けながら、華世は現場への到着を待っていた。
「華世ちゃん、そろそろ教えて欲しいんだけど~……あなたって何者かな?」
「あたしはあたしよ。大元帥アーダルベルトの書類上の娘で、人間兵器試験を受ける女の子」
「本当に生身で……しかもその刀ひとつで、キャリーフレームに勝てるの?」
「確信があるから挑んでるのよ。心配は不要だし、手出しはギリギリまで厳禁よ」
今ここで、魔法少女うんぬんの話をしても説明が長くなるだけだろう。
それゆえ、心配しているのはわかっているが、あえて何も説明せずにいた。
《目的地到達まで、あと1分です》
「……この声は?」
不意に聞こえてきた音声に、華世は周囲をキョロキョロ見渡す。
華世の態度を見てか、咲良がふふっと軽く笑う。
「この機体の制御AIよ~。ほら、自己紹介なさい」
《こんにちは。キャリーフレーム操縦支援AIのELと申します。以後お見知りおきを》
「……こりゃあどうも。お、あれが例の現場ね?」
やがて、前方に事件現場となっている収容所が見えてくる。
けれども倒れたポリス用キャリーフレームが転がっている場所を見るに、その手前にある広場が戦場になっているようだった。
咲良の足がフットペダルを踏む力を緩めたのか、〈ジエル〉の高度が徐々に下がっていく。
「本当に華世ちゃんが死にそうだと思ったら、横やりは入れさせてもらうからね」
「はいはい。それじゃあ、コックピットハッチ開けてもらうわよ」
「でも、まだ高度が……」
「良いから、あけなさい」
華世に強く言われ、渋々といったふうに咲良がコンソールを操作する。
目の前のモニターが外側に持ち上がるようにして、外界への扉が開いた。
高度・速度・風圧は足りている。
コックピットの床を蹴って、少女は飛び降りた。
「華世ちゃ────」
「ドリーム・チェェェェンジッ!」
空中で呪文を唱え、まばゆい光に包まれる華世。
落下しながら変身を完了し、広場の芝生へと受け身を取りつつ着地。
斬機刀を構え、正面で暴れまわる1機のキャリーフレームを見据えた。
パトカーを連想させる、白と黒の装甲を身にまとった機体。
コロニー・ポリスが運用していると思われる同型機を押し倒し、頭部へとリボルバー状の銃器を射撃。
たしか、記憶が正しければ〈クロドーベルⅡ〉という名前だったはずだ。
「抵抗をやめろ! お前は、すでに包囲されている! おとなしく投降をすれば、悪いようにはしない!」
どこからか、拡声器で放たれるポリス側の勧告。
しかし凶悪犯の乗る〈クロドーベルⅡ〉は、先ほど倒して動かなくなった機体を持ち上げ、声のする方へと投げ捨ててスピーカー越しに声を張り上げた。
「悪いようにはしない、だと!? どうせ捕まれば極刑だ! ならば一人でも多く、地獄の道づれに……!」
「ほんと、こういう悪党は……後腐れがなくていいわ!」
敵がまだ気付いてないうちに、華世は〈クロドーベルⅡ〉へと接近し跳躍した。
突如前方で飛び上がった少女に驚いたのか、一歩後ずさる機体へと斬機刀を振るう。
相手が下がったことで直撃はさせられなかったが、肩部の装甲に深い切れ込みが刻まれた。
「なん? だ? 妙な格好した子供? だと!?」
「初撃は外したけど、さすがの切れ味ね。……よし!」
一旦、華世は〈クロドーベルⅡ〉から離れるように距離を取る。
魔法少女に変身することで、身体能力の強化および耐久性の強化がかかることはミュウから聞いている。
しかし、具体的にどれほど強くなれるかまではわからないため、ここで恐れるべきなのは質量を生かした相手の攻撃である。
生身で8メートルもあるキャリーフレームと対峙した場合、驚異となるのは相手の攻撃に当たることだ。
武器を用いないパンチや蹴りですら、時速100キロの鉄塊をぶつけられるようなもの。
たとえある程度強化された変身状態でも、くらえば無傷では済まないだろう。
だが、一方的に不利というわけではない。
基本的にキャリーフレームは軍用であっても、生身と対峙することはあまり想定されていない。
それはキャリーフレームというものが同じキャリーフレームを制圧することに特化した作りになっているからである。
つまりは、常人離れした動きを行う華世へと攻撃を的確に狙いをつけるのは構造上不可能なはずだ。
華世へと狙いを付けられたリボルバーが火を吹き、周辺の芝生を土埃とともに吹き飛ばす。
けれどもデタラメな射撃は高速で走り回る少女へと当たらず、小さな体躯の接近を止めることはできなかった。
「まずは、その手を止めさせてもらうわよ!」
敵機の前で、再び跳躍する。
一度のジャンプで身長の5倍近く飛び上がった華世は、〈クロドーベルⅡ〉のリボルバーを握る右腕、その肘関節へと斬機刀を突き立てた。
刺さった刀をそのまま薙ぎ払うと、力なく垂れ下がる巨大な右腕。
伝達線を切られれば、その先が動かなくなるのは機械の弱点だ。
「腕が動かねぇだと!? この、小娘ごときに!?」
「次は、脚よ……! えっ!?」
華世が着地し、脚部へと攻撃を仕掛けようとしたその時だった。
動かなくしたはずの〈クロドーベルⅡ〉の右腕が、力を取り戻したかのように持ち上がる。
同時に放たれた蹴りを、後方へ飛び退くことで回避する華世だったが、その蹴りの鋭さに目を見張った。
「さっきとは動きが違う!? 一体何が……?」
「な、何が起こってるんだ!? 勝手に? 機体が動く!?」
なおもスピーカー越しに響き渡る凶悪犯の困惑した声。
勝手の動いているらしい機体の右腕が、自らのコックピットハッチへと手をかける。
そして、強引に搭乗者を守るその扉を引き剥がした。
───Gパートへ続く




