第28話「青春の回顧録」【Cパート 初夏の熱】
【3】
人の手と環境管理システムによって、天気や気候すらも自由にコントロールできるスペース・コロニー。
その中における季節とは、人々が現在という日が一年のどの位置にあるかを忘れないためにあるという。
また、季節の変化による様々な商品の需要の変化。
行楽や行事など、経済面においても季節という存在は大きい。
そういった変化が煩わしい人々のために、様々な社会実験を兼ねた季節固定型コロニーも存在はする。
けれども、やはり人間という生き物は地球の再現環境に喜ぶものであり、30℃を超えた気温に汗を掻く学生たちも幸福なのだろう。たぶん。
「あづいですわ~~~……!!」
暦の上では7月の半ばとなる日。
本格的な夏気候がスタートし始めた頃。
放課後になりクラスメイトが次々と教室を出る中、リンが机の上に倒れ込むようにしつつ文句を吐いた。
「暑い暑いと言っても涼しくなるわけじゃないでしょ、リン」
「そうは言いましても暑いのは暑いんですの! お父様に頼み込んで今年だけ気温を下げてもらいますわ!」
様々な統計と計算の果てに適切な気温が設定されているのに、聞き入られるわけないだろう。
そう思いながら、華世は結衣から投げかけられた話題に耳を傾ける。
「ねーねー、華世ちゃん。どうしてアニメとかの魔法少女って、正体を隠してるんだろうね?」
「そりゃあ……身バレによって身内を人質にされるとか、リスクはいくらでも浮かぶでしょ」
「でも、華世ちゃんたちは堂々と魔法少女できてるよね?」
「バックにアーミィがついてるからね。あんたが知らないところでしっかり彼らがバックアップしてて、あんたたちに危険が降り掛からないようになってるの。感謝しなさいよ?」
「そうだったんだー」
生身で時にツクモロズと戦い、時にキャリーフレームを倒している人間兵器こと魔法少女たち。
ファンタジックな世界から飛び出したかのような存在は、異星人や宇宙生物が跋扈しているこのアフター・フューチャーの時代でも奇異な存在だ。
前に雑誌のインタビューを受けたことがある華世であるが、そんな立場にあっても日常を謳歌できるのは理解あるアーミィの人たちのおかげなのだ。
「────ところでですわ」
「何よ、汗かきお嬢様」
「わたくしのことより! 華世、あなたのカレ、いませんけどよろしいですの?」
「カレって。ウィルとはまだそんな関係じゃ……いない?」
半分くらいのクラスメイトがいなくなった教室を見渡す華世。
確かに、その中にいつも居るはずのウィルの姿が見当たらない。
いつもなら一緒に下校し、途中で買った夕食の材料を荷物持ちさせるところなのだが。
「ウィルくんだったら、校門の前にいるよ?」
「本当に? あいつ……何のつも、り?」
開きっぱなしの窓から身を乗り出して、結衣が指し示した方向を見る。
こめかみを軽く叩き、義眼を望遠モードへ移行。
生身の目を手で塞ぎながら、校門の前に立つ夏服の男子へと視界をズームさせていく。
確かにそれは、ウィルその人。
ただ、その彼が手を振った方向は、決して華世の方ではなかった。
「誰よ、あの女……?」
下駄箱の方から駆けてきた少女がひとり、ウィルと合流して頭を下げる。
そのまま何か一言二言と話してから、歩き始める二人。
その様子を見て、華世はなぜかわからないが強い不快感を覚えた。
「おや、おや、おやぁ?」
「あら、あら、あらですわ?」
「何よ二人して気持ち悪い」
ニヤニヤする結衣とリンへと、睨みを利かせる華世。
二人はその視線を意にも介さず、好き勝手なことを言い続ける。
「ウィルくん、モテるからねぇ」
「華世は彼に対して少々どころではなく冷たい態度ですから。そろそろ愛想が尽きたのかもしれませんわよ?」
「でもウィルくん、華世ちゃんに一途じゃなかったっけ?」
「わかりませんわよ? この学校はわたくしを始めレベルの高い女子生徒が多いですもの。目移りが過ぎることも不思議ではありませんわ」
「あーっ、もう!」
華世は不可思議な苛立ちのままに椅子から立ち上がり、義眼で映した映像を携帯電話へと送信。
ウィルの隣にいた女の顔を切り抜き拡大したものを、メッセージアプリでカズへと送信する。
「何してるの?」
「あの女の情報を集めるわよ。何もわからず苛ついてるのもバカバカしいし……!」
※ ※ ※
「……それって、どう聞いてもヤキモチにしか思えないがねぇ?」
「ラドクリフ隊長……!?」
食堂にいつの間にか現れていたラドクリフに、オーバー気味にホノカが驚く。
華世は話を遮られたのと彼が手に持つ皿を見て、無意識に睨みつけた。
「それ、あたしが仕込んだミネストローネでしょ。つまみ食いしないでくれるかしら」
「料理長は良いって言ってくれたぜ? ……この味、昔に知り合いの子が作ってくれた料理と同じだ」
「昔の知り合い?」
ラドクリフの発言に首を突っ込むホノカ。
話の続きはまだかという視線をむけるレスの目玉をよそに、ラドクリフは語りだした。
「何年前だったかね……地球にいた頃に隣にいたアスカって女の子が───」
「あのさぁ。今あたしが昔話してるんだから、回想を被せないでもらえる?」
「っとと……悪いね。それじゃあ、続けて続けて。ジェラシーに駆られた君は、その後どうしたんだい?」
ミネストローネを啜りながら催促をするラドクリフに、華世は呆れのため息をつく。
少しギャラリーが増えたが、とりあえず続きを話すことにした。
「それで、あたしはカズにウィルと一緒にいた女生徒の情報を洗ってもらったのよ。そしたらね────」
───Dパートへ続く




