第27話「想いの架け橋」【Iパート それぞれの決意】
「くそっ、あの道化め……。ここまで想定内だと言うのではあるまいな……!」
眼の前で光に飲み込まれ部屋の半分が消し飛ぶのを見たスピア。
彼は無責任なツクモロズへと悪態をつきながら、柱に少女を縛りつけるロープにナイフを突き立てていた。
えぐり取られたように消し飛ばされた小屋の断面から飛び火した火の粉が、徐々に小屋に炎を広げようとしている。
通信によると、兄ランス達のコロニーからの脱出は無事に成功したらしい。
その理由が一連の騒動でアーミィの警戒が緑地へと向いているためだと聞けば、もうじきここへとアーミィの部隊がなだれ込んでくる。
そうでなくとも、このまま巻き込まれた少女を放っておくわけにもいかないためスピアは今、行動していた
パキン。
力を込めて突き立てたナイフの刃が、無慈悲にも折れる。
出所不明の古めかしい物だと思っていたが、まさかこんなに脆いものだとは。
他にロープを切れる道具はないかと周囲を見渡していたところで、それは眼前に舞い降りた。
「……天使、なのか?」
「あなたは、携帯電話を拾ってくれた……」
光り輝く翼を羽ばたかせ降り立ったのは、見覚えのある顔をした一人の少女。
彼女は街中で拾った携帯電話の持ち主であり、しきりにスピアへと感謝の言葉を述べていた可憐な少女。
そんな女の子が魔法少女のような衣装に身を包み、この危険な状態にある小屋の中へと斧のようにも見える武器を携えて現れたのだった。
「その……僕は」
「わかっています。その子を助けに来てくれたんですよね!」
「え、ああ。まあそうなるな」
少し天然が入っているのか、都合のいいように解釈をしてくれた魔法少女。
説明をする義理もないため彼女にロープの切断を頼み、彼女の一撃で綱が切れると同時に少女ごと後方へと飛び退く。
直後に崩れてきた天井に魔法少女が飲み込まれるが、彼女は光の翼で身を包みながら炎の中からスピアの隣へと移動してきた。
「君は無事なのか?」
「はい、魔法少女ですから。この子、ひどい縛られ方ですね。でも、もう大丈夫ですよ!」
少女に付けられていた目隠しを外し、猿轡をちぎり取る魔法少女。
解放され咳き込む眼鏡の少女はお礼を言いかけて、窓の外に見える景色を見たのか言葉を失った。
「なに、あれ……」
震える手で指さした先には、巨大な白い蛇の怪物。
その怪物がこの小屋めがけて放つ光線を、1機のキャリーフレームが正面から受け止め防いでいた。
「わからないけど、杏ちゃんがああなっちゃって……って、言ってもわかんないか」
「杏……? 杏ってもしかして葉月杏のこと!?」
「そうだけど、知ってるの?」
スピアをよそに話が進む二人の少女。
いつあのキャリーフレームが防ぎそこねないかという渦中で、のんびり話をしている場合ではない。
スピアは無理やり二人の腕を引っ張りつつ、小屋の裏口から外へと飛び出した。
「のんきに話している場合か! 小屋が焼け落ちそうというのに!」
「そうでした! それであなた、杏ちゃんを知ってるの?」
「私、あの子にひどいこと言っちゃって……あの子が悪い事したわけじゃないのに、八つ当たりしちゃって……」
「……じゃあ、謝りに行こう! 悪いことをしちゃったなら、ゴメンナサイを言うの! 絶対に許してくれるよ!」
「謝る……、謝る……!」
何をバカなことを、とスピアは呆れていた。
強大な力を振るう怪物へ向けて、謝罪をする。
この二人の少女は、それをしようとしていた。
どう考えても早くココから離れて、アーミィ共が怪物を鎮圧するのを待った方がいい。
けれども、二人はまっすぐに怪物の方を見ていた。
本気で謝罪をしに行くというのか?
そんな童話のような方法で、怪物を鎮めるというのか。
「じゃあ、行こう! あうっ……」
飛び立とうとしたのか、翼を広げようとした魔法少女が膝をつく。
見れば光の翼の先端が、崩れたように途切れていた。
さっき天井が落ちた時に傷を負ったのか。
それでも健気に歩き出そうとする少女たち。
ふたりの姿にいても立ってもいられず、スピアは声を張り上げた。
「そんなザマでたどり着けると思うな! 付いて来い、僕がキャリーフレームで運んでやる!」
「えっ、いいんですか?」
「このまま君たちに死なれたんじゃ、寝覚めが悪くなるからな。来い!」
そう言いながら、スピアは自らの愚かさを脳内で嘲笑した。
敵地であるアーミィの管理下で、魔法少女を乗せてキャリーフレームでフライト。
しかもその目的が、怪物への謝罪。
バカバカしい。
バカバカしいが、どうせ自分は捨て駒として残った身。
この後はアーミィに怯えた暮らしを強いられ、見つかれば拷問の果てに殺されるだろう。
惨めな死に方をするくらいより、可憐な少女たちの無茶に付き合うほうが、命の使い方としては百倍マシだ。
そう自分を納得させ、スピアはふたりの少女を森の中に隠してある〈バジ・クアットロ〉の元へと誘った。
「ふたりとも乗れ。段差に気をつけてな」
「は、はい! ほら、手握って」
「うん……」
眼鏡の少女を引っ張り上げ、コックピットに乗せる魔法少女。
スピアは二人がパイロットシートの両脇に立ち、背もたれ掴んでいることを確認してからハッチを閉じる。
操縦レバーを握り、指先を通して神経をマシンと接続。
画面が光を灯すと同時に、ペダルに乗せた両足へと力を込める。
唸り声を上げながら、〈バジ・クアットロ〉は赤い装甲を纏った藍色の機体を森の上空へと持ち上げた。
───Jパートへ続く




