表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/321

第27話「想いの架け橋」【Gパート 苦しむ少女】

 【8】


「うっ……うっ……」


 目を塞がれ手は縛られ、声の一つも発せない状態で少女、望月は泣いていた。

 何者かに拉致され、見知らぬ場所で何日も監禁されている恐怖もある。

 その恐怖と同じくらい、自分がこんな目に合う原因、そしてそのことを利用して悪事が行われているという悔やみが、彼女に涙を流させていた。


(ミミが死んじゃったこと……乗り越えたつもりだったけど、まだ心のなかに残ってたんだ……)


 華世という魔法少女に、愛するぬいぐるみを殺された望月。

 その悲しみが少し癒えたときに出会った、華世そっくりの少女へと、望月は心無いことを言った。

 言ってしまった。


 それから望月は、ずっと不登校を続けていた。

 望月という少女は元来、善良な心を持つ優しい少女である。

 肉親を奪われたに等しい恨み悲しみをぶつけてしまった相手が、そっくりだったとはいえ似ているだけの別人に吐いてしまったこと。

 それは心の中に強い後悔として確かに残っていた。


(もしもう一回学校に行って、あの子に謝れてたら私……もう少し憎しみを消せてたのかも)


 時折連絡をくれるクラスメイトから、あの時に暴言を吐いてしまった相手であるももという子が、時折り望月の言葉に苦しんでいるらしいということは聞いていた。

 友達になれるかもしれなかった相手への人違いによる恨み節。

 それが罪となって尾を引き、今ここで縛られている。

 望月は深い恐怖と悲しみの中で、自分がここに居る理由をそう結論づけた。


「キヒヒ、見なよ。魔法少女どもに、アーミィの小娘だ」

「……お前も出るのか?」

「冗談! 僕は種を巻き終わったから、あとは君が好きにするといい。チャーラの奴がやられた手前、僕まで魔法少女どもにやられるのはまずいからねぇ!」

「おい待てっ!」

「生きてたら会えるかもね捨て駒くん! キヒヒッ!!」


 甲高い声の男と、少しは良識がありそうな男の会話が終わり、部屋がまたしんと静かになる。

 自分のせいで、また誰かが苦しんでいる。

 その事実が望月に、重くのしかかった。



 ※ ※ ※



 じりじりと近寄ってくる、うつろな顔をしたアンドロイドたち。

 彼らは行方不明になっていた個体であり、持ち主がいる存在。

 どう対処していいか咲良が思考を巡らせていると、アンドロイドの一人が飛びかかってきた。


 すかさず前に出たデッカー警部補が襲い来るアンドロイドへと背負い投げ。

 地面に伏せた格好の相手、その首の中心を拳銃で撃ち抜いた。

 バチバチと首元をスパークさせアンドロイドが機能停止する。

 

「破壊するなら首を狙え! 伝達ケーブルを断てば修理できる範囲で機能を止められる!」

「わ、わかりました!」


 ゾンビのような動きで次々と向かってくるアンドロイドの首へ向けて、拳銃を放つ咲良。

 警部補の連れていたビットという浮遊ロボットも、伸ばした細いアームから放つ電撃で子どもたちを守っている。


「ビビッ……このままでは守りきれません!」

「私達が足手まといになってる……! ドリーム・チェンジ!」


 変身呪文と共に後方から放たれる閃光。

 光の翼を広げた結衣が、ヘレシーの手を握って飛翔する。


ももちゃん、どうしたの? 変身しよ!」

「いや……私は……あ、あ……」


 何かに怯えるように顔を引きつらせ、頭を抱えてへたり込むもも

 そんな彼女へとアンドロイド達が近寄り、彼女を守ろうとしていたビットが殴り飛ばされた。

 咲良は正面から飛びかかってきた女性アンドロイドを蹴り倒しつつ、上空へ退避したヘレシーを見上げる。


「ヘレシー、なんとかできない!?」

「できるかわからないけど……えーい!」


 ヘレシーが空中で念じるように目をつむると、バチバチッというショート音とともに咲良たちを囲むアンドロイドが次々と倒れ込んだ。

 とはいえ遠くの個体へは影響が薄かったのか、依然として問題の解決には至っていない。


「ハッキングしたんですけど、どうですかー!」

「近くのは機能停止したけど……そうだ、ももちゃん!」


 うずくまり震えるももへと駆け寄り、彼女の身体を揺する咲良。

 ただ事ではなさそうなうめき声を上げじっとしている彼女には、咲良の声は聞こえていないようだった。


「違う……私は……ももは……ももは……」

「どうしたの? 大丈夫!? ねえ、ももちゃん!?」

「やだ……また……自分が、自分じゃなくなっちゃう……!」


 ほんのりと、身体を発光させ始めるもも

 その光はまるで、魔法少女たちが変身する時の輝き。

 けれども彼女は、変身の呪文を唱えてはいない。

 普通じゃない状態に思考が停止していると、デッカーに腕を捕まれももから引き剥がされた。


「ちょっと、何を!?」

「オレの勘がヤベェって訴えてんだよ! 巻き込まれるぞ!?」

「巻き込まれるって、何に?」

「ヤベェことだよ!」


 輝くももから離れた瞬間、地響きと共に光が肥大化。

 長く巨大な何かに変異していくももだったものは、緑地の木々をなぎ倒しその高さを超えていく。


 咲良は思い出した。

 ももという少女の身に、過去2回あった現象。

 巨大な白い蛇のような怪物、通称マジカル・ヴァイパーに変身することを。


「キシャァァァ!!」


 天高く咆哮する白き大蛇。

 いま、みたびももは人であることを失った。




    ───Hパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ