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第27話「想いの架け橋」【Eパート 菜乃羽の相談所】


「結衣先輩! 携帯、みつかりました?」

「親切な人が拾ってくれてた!」

「携帯電話を落とすなんて不用心ッス。拓馬が心配するわけッスよ」


 駆け寄ってきたももとカズに向けて、結衣はエヘヘと照れ笑いを浮かべた。

 脳裏に浮かぶのは、携帯電話を拾ってくれた名も知らぬ青年の顔。

 彼の端整な顔立ちと、どこか陰のある雰囲気は楓真への恋を諦めた結衣にとっては、魅力的な出会いだった。


(でも……楓真さんもあんな雰囲気だった。あの人も、もしかして私達の敵……じゃないよね?)


 よぎる予感にまさか、そんなと心のなかで首を振る。

 ただ落とし物を拾っただけの人を疑うなんて。

 そもそも通りすがりに等しい人物と関係が築けるわけないじゃないか、と自己完結。

 ふと我に返ると、すぐ目の前にももの顔があったので思わず「ひゃっ」と声が出た。


「なな、なにかなももちゃん!?」

「大丈夫ですか結衣先輩。顔赤くしてボーッとしてましたよ?」

「なんでもない、なんでもない! ささっ、早く菜乃葉ちゃんの所に行こっ!」


 結衣はお花畑だった頭の中をさとられまいと、目的地の喫茶店へ向けて足を早める。

 もはや一種の定番となった、情報屋である菜乃葉とのお茶会。

 彼女に会うために出かけてきたのだが、今日の目的はいつもとは違う。


「ボクに相談事……かい?」


 オープンテラスの席に座り、遅れたことを謝罪した直後に切り出した本題。

 その内容を聞いた菜乃葉は、額を抑えながら目を細めた。


「あのさ……ボクは情報屋であって、子供相談室のお姉さんじゃないんだけど?」

「でも他に相談できそうな人もいなくて……菜乃葉ちゃんなら気持ち、わかってくれるかなって」

「他に頼れそうなあねさんやホノカは例の巡礼真っ最中ッスからねぇ」


 ホノカ、という名前を聞いた瞬間に眉をピクッとさせる菜乃葉。

 直後にピポンとカズの携帯電話から着信音。

 画面を見たカズが顔を赤らめたので、思わず結衣は菜乃葉とともに画面を覗き込んだ。


「あっ、ホノカちゃんの……」

「水着写真……っ!!」


 送られてきたのは「たまにはご褒美」というメッセージに添付された、おそらくコロニー・サマーで撮られたとおぼしきホノカの水着姿。

 送り主は華世となっていたので、こっそり撮影したか何かだろう。


 カズの照れ具合を微笑ましく思いながら、結衣はチラリと菜乃葉の顔を見た。

 露骨にホノカへのライバル心を剥き出しにした表情の菜乃葉は、ドンと腕組みで背もたれにもたれかかった。


「カズの頼みならしょーーがないなーー! この優しくて頼れる菜乃葉さんが、相談に乗ってやろーーじゃないかーーー!」


(やっぱり菜乃葉ちゃん……カズくんのこと好きなんだ)


 やけっぱち半分な菜乃葉の発言にフフッと笑ってしまう結衣。

 初めて会ったときからなんとなく感じてたこと。

 カズと甘酸っぱい関係をしているホノカへと彼女が向けるのは、恋のライバルへと向ける嫉妬の眼差し。


 ともに学校生活を送る彼女と違って、菜乃葉は頼られた時にしか会うことができない。

 付き合いの長さで優位と思っていたところに、明らかに女の子を見る目でホノカを見つめるカズへと危機感を抱いたのか。

 動機がヤケクソでも今の結衣たちにはありがたいので、好意に甘えることにした。



 【6】


「……この子が、自分がわからなくなる時がある?」


 結衣から菜乃葉へと打ち明けられた相談とは、目の前にいるももという少女についてだった。

 彼女は時々、前にショックだった事を思い出しては感情がぐちゃぐちゃになって、我を失ってしまうという。

 取り繕った言葉の裏に潜むのは、大蛇へと変貌する彼女の体質。

 いや、ツクモロズであり魔法少女であるというももの存在が起こす怪現象のことだろう。


(……とはいえ、ボクはこの子らが魔法少女やってることを知らないていだし、ボクが魔法少女やってることも秘密だしなぁ)


 菜乃葉がママと呼び慕う琴音と交わした約束。

 それは、血はつながらずともかけがえのない家族を守るために必要な秘密。

 これまで何度か、魔法少女たちが危ない場面を長距離狙撃でアシストした菜乃葉。

 その最初のアシストこそ、大蛇へと変貌したももを倒すことだった。

 

(……とりあえず、引き受けたからには気の利いた返答を返さないと。じゃなきゃ、カズくんに────)


 菜乃葉の脳裏に浮かび上がるのは、愛しいカズの姿。

 その彼は「友達の悩みも解決できないんッスか?」と蔑むようなまなこで菜乃葉を見下す。

 その隣には、ももの頭をなでて彼女の不安を払拭し、抱きつかれる恋敵ホノカ。

 頭の中のカズは「さすがホノカは母性あふれるッス、素敵ッス!」とホノカを褒め称え、二人は手を繋いで女神聖教の教会へと駆けて────


(────負けられないんだからねっ!!)


 対抗意識を深層に燃やしつつ、頭の中で言葉を整理。

 秘密を遵守じゅんしゅしつつこの悩みを解決できるような語彙ごいを選択。

 短くない情報屋の仕事と、裏方仕事の経験をフル回転させてつなぎ合わせた言葉。

 それを、菜乃葉は自らの口でつづった。


ももくん。君は過去に嫌な思いをして、それを引きずっているんだね?」


 菜乃葉の問いに、黙ったまま頷くもも

 彼女の桃色の前髪の間から覗く、青く輝く瞳。

 サファイアの様な輝きを放つそれを、真っ直ぐに見つめ言葉を続ける。


「君は優しい子だからきっと、悪意をぶつけられたことがショックだったんだろう。でもね、君はその事について気に病む必要はない」

「……そうですか?」

「ほら、カズに結衣さんに。君には君のために動いてくれる素敵な友人がいる。忘れろとまでは言わないけど、悪いことの何倍も良いことに恵まれているんだ。だから、心無い言葉を気にする必要はないんだよ!」


(……完璧だ、ボクって!)


 誇らしい気持ちで心が一杯になる菜乃葉。

 悩める少女への、周りの環境をも考慮したパーフェクト・フォロー。

 次の瞬間にはももは元気よく頷いて、あたりを駆け回るはずだ。

 そうすれば、カズから菜乃葉への評価も上がる。

 ……とまで考えていた菜乃葉の予想は、次の一言で砕かれた。


「菜乃葉さん。どうすればももに酷い事言った人と、仲良くできるかな?」


(できるわけ無いだろっ!)


 心のなかでツッコミをしながら、表情は崩さず微笑みのまま。

 この子は世界の人々がみんな、ラブアンドピースで仲良くなれると思っているのだろうか?

 眉をヒクヒクさせながら、菜乃葉は再度脳内会議。

 ここで投げ出しては、愛しのカズの前で面目が立たない。

 必死に考えて絞り出した言葉を、再度口から吐き出していく。


「もしもその人が言葉を悔いて謝ったら、許してあげればいい。でも、君からは何もしないほうがいい。君に非はないからね」

「謝って、許す……謝って、許してもらう」


 反唱しながら、うんうんと首を動かすもも

 口から出る言葉から(本当にわかったのかなー?)と不安を覚えつつも、とりあえず悩みは解決したようだ。

 ドッと精神が疲弊するが、ひとまずこれで格好はついた。

 けれどもタダ働きになるのはしゃくなので、菜乃葉はタブレット端末の画面をカズ達へと見せる。

 ここからは、本業の売り込みだ。


「君たちに今、新鮮そのものな耳寄り情報があるんだ。それはね────」




    ───Fパートへ続く

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