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第27話「想いの架け橋」【Dパート 二人の出会い】

 【4】


 咲良が楓真と初めて会ったのは、高校に入学してから間もないとき。

 偶然にも同じキャリーフレーム部へと所属したふたりは、部活動という空間の中で出会ったのだった。


「キャリーフレーム部?」

「キャリーフレームに乗って、スポーツとして競い合う部活動やな。といっても試合は実戦形式で激しいもんやけど。うちも昔はキャリーフレーム部のエースやったんやで?」

「へー」

「そこで二人は恋に落ち……?」

「ううん。その時は全然、そういう気持ちはなかったのよね~」


 異性同士といえど、偶然同じ部活動に所属しただけの男女。

 日頃つきあう知り合いも異なる二人には、接点らしい接点は皆無。

 二人の関係が進んだのは、秋の終わり頃に行われた別学校との模擬戦だった。


 模擬戦の日、咲良たちのチームはエースが欠席していた。

 そこで助っ人として招いたのは、とある女学生パイロット。

 彼女の持つハイスペックな機体によって、5対5の模擬戦は一瞬で5対2となり、咲良側が大幅に有利となった。


「圧勝じゃないですか! それでそれで?」

「私もこれは楽勝だなって思ったの~。でもね……」


 大勢たいせいは決したと思った矢先。

 光の矢のような動きで次々と僚機を吹き飛ばす、ひとつの敵機があった。

 咲良と楓真も一年生にしてレギュラーに入っている実力者。

 けれどもその敵は咲良たちを一瞬のうちに撃破。

 4機目と相打ちになる形で退場し、戦況は1対1へと持ち直された。


「ひえっ……とんでもないパイロットがいたんですね」

「学生でそないな無茶苦茶やるやつおるもんなんやなぁ。一度でええから手合わせしてみたいわ」

「……内宮隊長ですよ、その無茶苦茶なパイロット」

「ほへ?」


 すっとぼけた声で首を傾げる内宮。

 咲良はその時の瞬殺劇にショックを受け、相手が誰だったのかを調べていた。

 まさかその相手が後に上司になる人物だとは、露とも思わずに。


「……もしかしてその時の助っ人って、ナインの姉貴の」

「そうだったんですか? 世間って狭いですね~……」

「あん時は初恋が失恋になった日でもあったからなぁ。色々ありすぎて、すっかり忘れとったわ」

「まあ、とにかく……その敗北が元で私と楓真くんは連携のために、チームメイトとして交流を始めたんです」


 その後は、あくまでも同学年の部員同士として仲を深めていった咲良と楓真。

 高校生活最後の大会では、日本大会で好成績をおさめるほどに成長。

 その活動から将来の夢をキャリーフレームの腕前で人々を救いたいという方向性が決まり、それは二人をコロニー・アーミィへの就職へと導いていった。


 しかし、アーミィ養成学校にて咲良と楓真の関係は断たれてしまう。

 訓練過程で別々のコースへと別れた二人はその後も会うことなく、連絡も自然と途絶えてしまった。


「……そして、研究ステーション事件のときに、私と楓真くんは再会したんです」

「なるほどな。あとは、うちらが知る流れの後に今に至ると」

「だから、楓真くんに何かがあったとすれば、養成学校で別れてから今年までの間だと思います」


「……葵少尉、事情はわかった。あとはこちらで地球圏アーミィの情報を洗っておこう」


 無言で咲良の話を聞き続けていたドクターのその言葉で、ミーティングはお開きとなった。

 再会するまでの間に、楓真の身に何が起こったのか。

 いまの咲良は、何でもいいから情報が欲しかった。

 彼を、ツクモロズという呪縛から解き放つために。

 そして、気づかない間に膨らんでいた想いを伝えるために。

 楓真がいなくなってから、咲良の中の彼への感情は、どんどん大きくなっていた。



 【5】


「ランス兄さん、ついにCABボックスの在り処が判明したのですか!」

「ああ、そうだ。我が弟スピアよ、これよりドラクル隊はコロニー外への脱出を行う。そのための陽動……任されてくれるか?」

「わかりました兄さん。僕にお任せください!」

「よし。同志ツクモロズの一人と、私の〈バジ・クアットロ〉を託す。うまくやってくれよ!」


 昨日に行った会話を、街なかを歩きながらスピア・ランサーは思い返していた。

 アーミィとの戦いの趨勢すうせいを左右する物体「CABボックス」。

 金星宙域の様々な場所に潜伏していたV.O.軍の者たちは皆、その情報を得るために活動していた。


 スピアとその兄・ランスもまた、アーミィ大元帥の娘が住むということで情報が存在する有力候補として、ここコロニー・クーロン内にて暗躍。

 けれどもその必要も無くなったため、次の目的はコロニーから脱出し本隊と合流すること。

 そのためにいま陽動作戦の前の視察として、スピアは民間人に成りすましてアーミィの動向を探っている真っ最中だった。

 だというのに平和そのものな町並みを見て、スピアは少なからず驚きを隠せないでいた。


(我々による襲撃が度々起こっているというのに……アーミィは平和ボケしすぎているのではないか?)


 外出禁止令も無く、哨戒にでてるキャリーフレームもいない。

 あるのは休日を謳歌する人々の姿の、平和な生活。

 アーミィという組織の愚かさに呆れていると、スピアは歩道の上で音を鳴らす携帯電話に気がついた。


「見た感じは少女が使うような装飾をしているが……?」


「あっ、すみませーん! それ、私のですー!」


 拾い上げてから間もなく、汗だくの顔をした少女がスピアのもとへと駆けてきた。

 走ったことで息を切らす彼女へと、スピアは拾った携帯電話を手渡す。


「拾ってくれてありがとうございます! よかったー……無くさなくて」

「……む」


 安堵する少女の顔を見て、思わず頬が赤くなるスピア。

 平和という環境下でのみ咲く可憐な野花。

 彼女の存在は、スピアの中でそう感じられた。


(……アーミィが雇い使う人間兵器にも、これくらいの歳の少女がいたな。女子供ですら戦力とするとは、やはりアーミィという組織は許しておけん)


 何度もお礼を言う少女へと背中を向けたスピアは、そう考えながらもと来た道を引き返した。




    ───Eパートへ続く

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