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第27話「想いの架け橋」【Cパート 狂気の博士】

 【3】


「────というのが、今朝起こったことの顛末だ。結衣くんが襲撃に怯えて騒がせたようで、心配をかけたな」


 監視カメラで撮影された映像を交えた説明を終え、椅子に座り直すドクター・マッド。

 その話を聞き終わった内宮は、咲良の隣でうんうんと大きく頷いた。


「そうかそうかぁ。小さなケガひとつで済んでよかったなぁ……って、アホかーーっ!!」


 ミーティングルームの中に響く、内宮の叫び……もといツッコミ。

 彼女の発言の意図が掴めないといったふうに、ドクター・マッドは額に絆創膏を貼った頭をかしげる。


「ドタマ拳銃でぶち抜かれて、なんで切り傷と軽い脳震盪のうしんとうで済んどんねん! いや、無事やったのはなによりやけどな!?」

「内宮、では逆に聞くが……なぜ君たちは人体の急所を急所だとわかっていて、何の守りも施さないのだ?」

「ほへ?」

「私はこのような事態に備え、脳を囲む頭蓋骨部分にはチタン合金を埋め込んでいるのだ。無論、内臓器官を守る骨と皮膚には防弾加工を施している」


 ドクター・マッドは続けて、自らに施している人体改造について語りだした。

 筋肉密度を常人の十数倍に盛ることで、細身のシルエットを崩さず百数キロの重さをも持てる怪力を得たこと。

 視覚・聴覚も強化され、視力は10近く、聴力は意識して集中すれば数キロ先の声を聞けるらしい。

 更には顎の噛む力、脚力、握力に加えて頭脳面にも幾多もの人体改造を幼少の頃から施しているという。

 ドクターの話す壮絶な改造経験に、咲良を含めこの場にいる全員が呆気にとられた。


「……つくづく人間辞めとるな。たしかに華世が変身してやっと持てる斬機刀を、片手で運んだりしとったから力持ちやな思う取ったけど」

「まあ改造のしすぎか髪色が変色したが、この銀色の髪もなかなかオシャレではないか?」

「そのFだかHだかあるデカパイも、改造の賜物やったりするんか?」

「いや、胸は天然物だ」

「あっそ……。まあとりあえず、まどっちが無事で良かったんは良かったわ」


「あの……ドクター、どうしてツクモロズはあんな倒れ方をしたんですか?」


 内宮の質疑が終わるのを待っていた咲良は、矢継ぎ早に浮かんだ疑問点への質問を投げかける。

 映像ではドクターに撃たれたツクモロズは消滅することなく、まるでボロくずにでもなったかのように崩れ落ちていた。

 その光景が、コレまでのツクモロズとの戦いとはあまりに違ったのだ。


「ああ。それに関しては話は簡単だ。私の銃に装填されていた弾丸……あれには試作品のアビス・コールを入れていたんだ」

「アビス・コール?」

「コロニーのゴミ分解用バクテリアを遺伝子操作して、私が趣味で作った細菌兵器だ。有機物に触れると凄まじい勢いで増殖し対象を土へと分解。数秒の後に増殖を終え死滅し、後に影響を残さない兵器で……」

「……まどっち、危ないからソレもう作ったり使うんやないで?」

「そうか……。人間を死体も残さず消すことができる画期的な発明だと思ったのだが」

「だからや」

「むぅ……」


 納得がいかないという風に黙るドクター・マッド。

 咲良はこれまでの話を聞いて、心からドクターが理性的でかつ敵ではないことに感謝した。

 並の人間を凌駕する肉体に、とんでもないバイオ兵器を作る頭脳。

 もし敵に回ったら、これほど恐ろしい人物もなかなかいないだろう。


「ところで……私達、何のために集まったんでしたっけ?」


 真っ直ぐに手を上げながら、首を傾げてそう投げかける結衣。

 このミーティング自体は昨日から企画されていたもので、ドクター暗殺未遂の説明は集まったついでである。

 その殺されかけた本人が、コホンとひとつ咳払い。

 咲良の方へとアイコンタクトを向けてから、ドクターは口を開いた。


「常磐楓真(ふうま)……彼がツクモロズから送られたスパイだったというのは、周知のとおりである」

「せやけど、うちらはよく考えたら楓真はんの人となりを全然知らへんねん」

「そこで……私から皆に楓真くんという人間のことを説明する……でしたよね、隊長」


 咲良の言葉に大きく頷く内宮。

 この説明会自体は咲良の意思のもとに開かれている。

 深い想いを抱いた相手。それが敵になった今こそ、その人生を振り返る必要がある。


「確か……咲良さんと楓真さんって、幼馴染なんでしたよね?」

「そうよ、結衣ちゃん。といっても、昔から大の仲良し~……ってわけじゃなかったんだけどね」


 咲良は天井を見上げながら、昔のことを語り始める。

 人生の中で決して短くない、10年という年月を。




    ───Dパートへ続く

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