表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/321

第27話「想いの架け橋」【Aパート 課せられた呪い】

「大元帥閣下。以上のように、金星宙域のV.O.軍が次々とエリア00付近へと集結しつつあります」

「そうか……」


 豪華な装飾の施された執務室。

 真っ赤なカーペットに包まれた室内の机の前で、アーダルベルトは通信越しの報告に大きく頷いた。


「奴ら、ついにCABの位置に感づいたようだな。早かったと見るか、遅かったと考えるか……」

「駐留艦隊からの報告から統合しますと、コロニー05、06、07、08周辺からは完全にV.O.軍はいなくなったと考えてよろしいかと」

「わかった。該当支部へ、有力パイロット達の前線への異動を通達せよ。折を見て04、及び09コロニー支部へも同様の通達を」

了解ラーサ


 コンピューターの画面が消え、静寂が部屋へと戻ってくる。

 換気扇の音だけがカラカラと乾いた音を鳴らす屋内で、アーダルベルトはゆっくりとマグカップへとコーヒーを注いだ。

 縁まで並々になったその入れ物を、来客用椅子に座る老婆へと、そっと差し出す。


「ありがとう、ガーシュ。……いよいよ、その時が近いようだねぇ」

「先生。私の今の名はアーダルベルトだと、何度も言っているではありませんか」

「あらあら、ごめんなさいねぇ。いつまでも昔の名前に引っ張られるのは、悪い癖よね」


 アーダルベルトへと謝りつつもニコニコと微笑む老婆。

 彼女は、華世の義体へのリハビリを行い、宇宙体術を教えた人物。

 そしてアーダルベルトへと武への心を教えた女性、矢ノ倉寧音だった。


「華世たちも、サマーでの巡礼を終えたと聞いています。残るはオータム……そこへたどり着けば、あの娘が動かぬはずはないでしょう」

「その時が、運命の日になるねぇ。あの子はうまくやれるかしら?」

「やれるでしょう。その日こそ……」


 矢ノ倉へと背を向け、指で押し開いたブラインドの隙間から外を眺めるアーダルベルト。

 コロニー特有の人工的な光が、まばゆく太陽の代わりをする。


「ツクモロズとの戦いが、大きな一歩を踏み出すときでしょう」

「そして、私達の役目も……」

「節目を迎えますな……」



◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


       第27話「想いの架け橋」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■



 真っ暗な空間に、一人ぼっちで佇むもも

 ここはどこだろう……という気持ちすら沸かず、ただ一人そこにいた。


(ねえ、あなたはだあれ?)

ももは、ももだよ?」


 虚空から投げかけらた問いに、素直な気持ちで答えるもも

 しかし、その返答に対して返ってきたのはクスクスという笑い声。


(嘘つき、ももなんて人間はいないのに)

(あなたは葉月華世だよ。間違えてるよ)

「違う。華世はもものお姉さまなの。ももは……」


(嘘つき、嘘つき、嘘つき)

(君は華世だよ。葉月華世だ)

「どうしてそんなことを言うの? ももは嘘つきじゃない!」

(クスクス、クスクス……)


 あざ笑う声のする方に、ぼうっと人のような輪郭が浮かぶ。

 その姿は徐々に色味を帯びていき、やがて……。


「望月さん……?」

「近寄らないでっ!! 私のミミを殺したくせに!」

「違う、ももじゃな────」

「……人殺し!!」



 ※ ※ ※



 小鳥のさえずりが窓の外から聞こえる部屋の中。

 ベッドの中で目を覚ましたももは、自分の頬に涙で濡れた線が浮かんでいることに気がついた。


「夢……? もも……泣いてた?」


 悪夢の中の出来事を考えながら、パジャマの袖で涙を拭うもも

 身体を起こしてぼんやりしていると、ゆっくりと部屋の扉が開いた。


ももお嬢様、お目覚めでしたか!」

「ミイナお姉ちゃん……」

「どうしました? 怖い夢でも見ましたか?」


 心配そうに顔を覗き込むミイナ。

 不安でいっぱいのももへと向けられた優しい微笑みに、彼女のメイド服の袖をそっと掴んで少し引っ張った。


「ミイナお姉ちゃん。ももは、ももだよね?」

「それはもちろん! 華世お嬢様の妹君いもうとぎみにして可愛らしい葉月家の天使、葉月(もも)でありますとも!」

「そう、だよね。そうだよね!」

「顔を洗って、リビングに行きましょう! 今日の朝ごはんは……いつものように私がコンビニで買ってきたパンとおにぎりですが」

「お姉さまがいないから、仕方ないよね。でももも、ミイナお姉ちゃんが買ってきたご飯大好きだよ!」

「嬉しいお言葉です! 今日は、ももお嬢様がお好きなチョココロネもありますよ!」

「やったー!」

「朝ごはんを食べたら、アーミィ支部に向かいましょう。魔法少女たちを交えたミーティングがあるんですって」

「わかった! じゃあ、お顔洗ってくるね!」


 大好物が食べられると聞き、暗い感情が吹き飛んだもも

 けれども、その心の奥底には決して抜けないくさびが、不安として突き刺さっていた。


 ある時、気づいたらももはここにいた。

 昔の記憶っぽい思い出はかすかにあれど、ここに来るまでの経緯はわからない。

 それでも幸せだから良いと思っていた。

 今日見たような悪夢を見始めるまでは。


 時々浮かび上がる大きな不安。

 自分は本当にここにいて良いのか。

 自分は本当に生きていて良いのか。

 そう考えると感じる、自分が自分でなくなるような感覚。

 まるで心が張り裂けそうな強い不安を数日前から毎日見る、悪夢を見始めてから覚えるようになっていた。


 プルルルル。


 唐突に鳴る携帯電話の呼び出し音。

 画面に表示される「結衣先輩」の文字に、ももは笑顔で通話に出た。


「もしもし、先輩! どうしまし────」

「大変なの、ドクターが、大変なの!!」


 切羽詰まった口調に、部屋の中に緊張が走った。

 通話を横で聞いていたミイナが内宮を呼び、彼女が「まどっちが何やてぇ!」と叫びながらドタドタと部屋に入ってくる。

 ももは通話をスピーカーモードにして、三人で結衣の言葉を待つ。


 電話の向こうの結衣が語ったのは、今から数分前に起こったことだった。



    ───Bパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ