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第26話「裏返る黒い影」【Hパート 欲しかった居場所】

 【8】


 始まりは10年前の大事件、黄金戦役だったという。

 姿かたちを自在に変えられる知的生命体メタモス。それが黄金戦役で人類が戦った相手だった。

 戦いの結果はメタモスと地球人類による和解の成立だったが、それを良しとしない人類もいた。


 メタモスの特性を軍事利用できると考えた、ある研究機関があったという。

 彼らは研究の末、兵器として使えるメタモスのような擬態生命体を作り出した。

 それが、レスだったという。


「……まあ、僕は連中にとって失敗作だったみたいだけどね」

「待って、それじゃあレス……あんた、ツクモロズじゃないの?」

「それはこれからお話しますわ」


 リンは説明を続けた。

 細部まで模倣する擬態のために、対象となる存在を取り込む必要があったレス。

 その能力は、研究者たちの目的には足りなかった。


 そのため、飼育ケースの中に閉じ込められたまま、長い時間放って置かれたという。

 その間にも擬態生命体はつくられ続けたが、生き残ったものはレスを除いていなかった。


 そんなある日、研究所で爆発騒ぎが起きた。

 酷い扱いを受けていた何かしらのモノか実験生物か。

 依代は不明だが、ツクモロズが自然発生したことによって起こった事件だという。


 騒ぎの中、レスは閉じ込められていたケースから脱出した。

 そして事件の発端となったツクモロズを取り込み、正八面体の核晶コアを確保。

 事故の中で死亡した少年ティム・ジョージの姿を借り、ツクモロズを迎えに来たツクモロズ幹部へと接触。

 自分がツクモロズだと偽り、彼らの仲間になったという。


「つまりレス。あんたは、ツクモロズのフリをしているだけの一般実験生物ってこと?」

「一般……? まあ、そういうことになるね。……僕はどこでもいいから居場所が欲しかった。だからツクモロズの目的のために働きもした。まぁ、ツクモロズじゃないことがバレたみたいで、お前たちを使った粛清をされたわけだけどさ」

「粛清……? それって、あのアーマー・スペースの戦い?」

「ああ。ツクモロズの中でもキレ者で、人間のスパイやってるアッシュってのがいてね。あいつが僕を消すためにお前たちを手引きしたんだ」


 華世はふと、あの戦いの中でレスがやけに怒り狂っていたことを思い出した。

 ちょうどその時起こったのは、なぜかキャリーフレームに乗った内宮の参戦。

 あの時、内宮はなぜか用意されているはずのない愛機が用意されていたと言っていた。

 つまり戦いの中でのレスの怒りは華世たちへ向けられたものではなく、内宮へと機体を用意したアッシュなるツクモロズに対してのものだった。

 そこまで考えると、一連の流れ全てに説明がついた。


「死にかけた僕は取り込んだティム・ジョージの骨を吐き出すことでお前たちに死んだと思わせることに成功した。その後は小さく惨めな身体で水に紛れて宇宙船から宇宙船へと乗り継ぎ、ひときわ水が多く存在するこのコロニーの中で力を蓄えていたのさ」

「そして、憎い憎いあたしたちが来たからリンを取り込んで、復讐しに来たと」

「そういうこと。本気でやったのにあんな結果に終わったから、もうお前たちとやり合う気は無いよ。ま、身体の主導権取られちゃったからやりたくても無理だけど」


 そう言って、リンの頭から飛び出た眼球だけの目をそらすレス。

 リンが訂正しないことから、その発言は嘘偽りなく本心のようだ。


「それで、リン。あなたはこれからどうするの?」

「もちろん……巡礼を続けますわ。クーロンに平和を、取り戻すために……」


 その答えは、華世たちにとっては救いだった。

 リンの死亡という形で終わったとも思っていた巡礼の旅。

 それがリンの意思で続けられるとなれば、傭兵団の皆やクーロンで待つ彼女の関係者を悲しませずに済む。


「わかったわ。ただしリン、もしもレスが歯向かったら……その時はわかってるわよね」

「ええ……その時は華世、わたくしに遠慮する必要は……ありま、せんわ」


 いざという時の介錯かいしゃくを任せる、ということは常に死への覚悟をするということ。

 言葉の詰まり具合が、その覚悟の決まらなさを如実に訴えかけていた。

 けれども、言い切ったのはリン・クーロンという存在の気高さのあらわれ。

 その心意気を、華世は信用した。


「だーかーらー……僕はもう主導権ないし、歯向かう気も無いって言ってるじゃないか」

「敵の言うことをすぐに信用できるほど、あたしは甘ちゃんじゃないのよ」

「これだから人間はぁ……」

「信用されたかったら、これからジャンジャンとツクモロズの情報、素直に吐きなさいよ」

「へ~い」


 生返事をするレスだったが、華世にとってはようやく手に入れたツクモロズの情報源。

 それももものような利用される存在ではなく、幹部級からの情報。


 長かった一日の、夜が更けていく。

 けれどもその一日は喪失と奪還、そして新たな力の会得へとつながった。

 レスと一体化し、能力を得たリン。

 二人の運命が今後どうなっていくかは、今は誰にもわからなかった。

 


 ──────────────────────────────────────

登場戦士・マシン紹介No.26


【レス(リン・クーロン)】

全高:1.5メートル

重量:40キログラム


 液状の擬態生命体・レスにリン・クーロンが取り込まれた姿。

 見た目はリン・クーロンそのものであるが、レスの力によって身体を自由に変形させることができる。

 影のように伸ばした体の一部から、トゲや刃の形に変形させた部分を飛び出させることで攻撃を行う。

 光を反射しない真っ黒な色と地面や壁を這って動かすことから、まるで影を操る能力者のように見せかけていた。

 その実は液体に近い存在であり、多量の水分を取り入れることによって変形に使える体積を確保する。

 華世の捨て身の電撃攻撃によって何らかの作用が働いた結果、取り込まれたはずのリン・クーロンの意識が肉体の主導権を握った。

 レス自身も本気の状態を打ち破られた上に主導権を失ったことで、完全に華世たちへの戦意を喪失した。



【レス(巨大化)】

全高:5.1メートル

重量:不明


 華世とホノカが地下下水道で交戦したレスの本体。

 下水道の空間を埋め尽くさんばかりの巨体を持っており、横倒しにしたキャリーフレームを遥かに超える体積を持つ。

 その内部には多量の生命エネルギーを蓄積しており、体表面に浮き上がらせた眼球のような器官からビームのような光線として発射することができる。

 また、流れる下水の一部も自由に操ることができ、泳げない華世を水に引きずり込もうとしていた。

 巨体ゆえに華世たちの武器ではダメージを与えられなかったが、水力発電機の電力を加えた斬機刀による電撃を直接浴びせられ敗北。

 黒い身体の殆どが喪失し、同時に身体の主導権をリン・クーロンへと奪われる結果となった。




 【次回予告】


 コロニー・クーロンの中で、アンドロイドたちが暴走する事件が多発していた。

 そのさなか、ミュウを擁するドクター・マッドへとツクモロズの刺客が忍び寄る。

 一連の事件の中、ももはみたび大蛇の姿へと変貌を遂げた。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第27話「想いの架け橋」


 ────心が通じ合えば、誰が誰かなんて関係ない。

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