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第26話「裏返る黒い影」【Eパート 下水道の眼】

 【5】


 水滴の落ちる音と、汚水が流れる音だけが響き渡る下水道。

 コロニーの地下、宇宙空間と壁を経て接するアーマー・スペースから見れば上に存在する空洞へと降り立った華世とホノカ。

 下水道の構造は、例えるなら中央に汚水が流れる大通り。

 その両サイドに存在する、歩道にあたる足場の上に華世たちは立っていた。

 薄暗く数メートル先が見えない中で、ホノカが機械篭手ガントレットの指先に小さな炎を灯した。

 突然の明かりに、華世は義眼である右目を手で抑える。


「ちょっと、何も言わずに光らせるんじゃないわよ」

「だって、先が見えませんし……」

「義眼の暗視モードで周囲を見てたの。ったく……」


 光量の増幅量を調整し、下水道の道を前へと進む。

 正面に分かれ道が現れたところで、一旦足を止めて周囲を確認

 今いる場所は、降り立った場所からはそこそこ距離をとった位置。

 T字路の交差する点のフェンスから身を乗り出し、流れる汚水の河の上で敵の姿を探す。


「……華世、ホノカさんは無事でしょうか」

「わからないわ。あいつの言ったことが本当であれば、喰われてしまった可能性もある」

「そんな……!」

「今はリンの心配をしている場合じゃないわよ。あたしたちでなんとかしないと、あんな化け物は他に任せられない……!」


 姿を自在に変え、あらゆる物理的な攻撃を物ともしないツクモロズ。

 いかにキャリーフレームの戦力が魔法少女と同等だとしても、いや、同等であるがゆえに任せることはできない。

 大きな破壊を伴うキャリーフレームでの戦闘は、二次被害を広げることに繋がりかねないからだ。


 そんなことを考えていると、ホノカが「ひっ……」と怯えた声を出しながら、もと来た道の方を指差した。

 その方向に目を向けた華世の視界に写ったもの。

 それは、黒い闇の中に浮かぶ、無数の眼球だった。

 華世が気づいたことに反応するように、目のない隙間に浮かんだ口が、パクパクと開き始める。


「「「察しが良すぎて困っちゃうね。まさか下水道に僕の本体があること、見抜かれちゃうなんてね」」」


 高さの違ういくつもの声が重なったような音を出して喋る口たち。

 そして闇の中から人のような輪郭が盛り上がるようにして浮かび上がり、その全身を肌色へと染めていく。

 生まれたままの姿で全身を顕にしたリン・クーロンの姿。

 その表面を遅れて溢れ出した黒い液体が包み込み、彼女が着ていた白いワンピース服を形成した。


「ふぅ、女の身体ってのも悪くないね。柔らかいし、なにより心地がいい」


 そう言いながら首を回すリンの姿をしたレス。

 その足元から伸びる線は、目玉を浮かべる闇……いや、漆黒の巨大な塊へとたしかに繋がっていた。

 地下にある本体から、排水溝や地面を通じて地上の人間体と繋がっている。

 それそのものは予想通り、だった。


「僕の本体を見つけて作戦通り……と思ってるようだけど、大きすぎて絶句したのかい?」


 悪い笑みを浮かべるレスの言うとおり、華世は少し相手を甘く考えていたことを後悔していた。

 あの後方にある黒い塊は、どうみてもこの下水道の半円状の空間をみっちりと埋め尽くしている。

 天井までの高さが5メートルと仮定しても大きいのに、その奥にはどれほどの長さ、あの巨体がひしめいているかは想像ができない。

 相手の余裕綽々っぷりから考えるに、表面をビーム攻撃したり爆破した程度では宇宙に空気を流し込むようなものだろう。


「ラウンド2といこうか。鉤爪ぇっ!!」


 足元から聞こえた水音に気づくと同時に、下水道の中央を流れる河から伸びる黒い腕に足首を掴まれる華世。

 そのまま水の中に引きずり込まれこそうになったところで、義手の手首を射出。

 向かい側のフェンスを掴むと同時に、左腕で義手手首のビーム発振器を引き抜き光の剣で足を掴む黒い腕を斬る。

 かろうじて落水を回避した華世へと、レスはヒャハハとゲスい笑いを浮かべた。


「この女の記憶から知ったんだよねぇ! お前が泳げないってことをさ!」


 次々と華世を引きずり込もうと、無数の黒い腕が汚水から飛び出してくる。

 華世はホノカと頷きあってから、T字路の交差点にある網目の橋を通って合流。

 そのままレスのいる場所から逃げるように走り出した。


「どうするんです、華世! あんな怪物、倒しようがありませんよ!」

「あいつが液体気質なツクモロズって見抜いたまでは良かったけど……下水道なんて奴にとっては身体の素材が取り放題な場所だったわね」


 不意に後方が光った、と思った瞬間。

 華世とホノカの間を通り抜けるように光線が走った。

 一瞬だけ後ろを見ると、レスの本体である漆黒の巨体。

 リンの姿が上半身だけ生えたような表面の周囲に浮かぶ目という目がエネルギーを貯めているような光を放っていた。


「ホノカ、ジャンプ!!」

「えっ? きゃあっ!?」


 掛け声で同時に飛んだ足元を、ビームが突き抜ける。

 次々と放たれる光線の雨が、フェンスを溶かし汚水を跳ね上げ、壁面に焦げ目を刻んでいく。


「このままじゃジリ貧ですよ!!」

「わかってるわよ! この状況を打開する手……何かあるはずよ、何か!」




    ───Eパートへ続く

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