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第26話「裏返る黒い影」【Cパート オバケのいる路地】

 【3】


「黒オバケ……ツクモロズの可能性が高そうね」


 浜辺に戻ってきたホノカが、パラソルの下で昼寝していた華世へと行った報告。

 それを一通り聞き終えた華世は、上半身を起こして腕をうんと伸ばした。

 

「で、リリアンはどこ行ったの?」

「レオンさんとユウナの二人が車で送って行くことになりました」

「そう……顔合わせなくてよさそうで、何よりだわ」

「華世、前にリリアンちゃんと何かあったんですか?」


 悪気なく興味本位で聞いてくるホノカへと、苦い顔を返す。

 サマーで起こった女神像ツクモロズとの戦いは、結果的に華世がリリアンから恨まれる結果となった。

 そんな彼女が元気をしていることが知れただけでも、華世としては一安心だった。


「前に、色々とね。さぁて、そろそろあたしたちもホテルに行きましょうか。そろそろ先に行ったウィルがチェックインと荷物運びを終えてるだろうし。ほら、リン起きなさいよ」

「ふが……」


 華世に頭を軽く蹴飛ばされ、垂れていたヨダレを拭いつつ起き上がるリン。

 育ちのいいお嬢様とは思えない仕草に笑いながら、華世とホノカはパラソルを片付ける。

 三人で更衣室に向かい、水着から私服へと手早く着替え。

 そして海水浴場の事務所に借りてきたパラソル他、レジャー用品を返却。

 事務所を出たところで、白いワンピース姿のリンがガサゴソとカバンを漁り始めた。


「リン、何やってるのよ?」

「先程、オバケが出るという話をしていたでしょう? 護身用ですわ!」


 そう言って取り出したのは、小ぶりな散弾銃。

 前に彼女の屋敷でツクモロズ相手にぶっ放していたことを思い出しつつ、華世は苦笑いを浮かべざるを得なかった。


「その物騒なものを抱えてホテルまで歩く気?」

「いつでも取り出せるように整理しただけですわよ!」

「……リンさん、私達がボディガードをしますから大丈夫ですよ」

「それでもわたくし、足手まといだけは嫌なのですわ! せめて……せめて、華世たちの力に少しでもなれたらって」


 少し涙ぐむリン。

 彼女の気持ちはわからなくもない。

 リンは、魔法少女でもなければキャリーフレームパイロットでもない。

 かといってカズのように裏方で活躍できる技能も皆無。

 同年代の仲間がみんな何かしらの技能で活躍をしている中、リンだけはずっと何もできないでいた。

 今もクーロン・コロニーを守るためと巡礼の旅の真っ最中だが、その実は華世たちやネメシス傭兵団の皆に護られているだけ。

 そんな彼女がずっと疎外感、あるいは無力感を感じていただろうな……ということは少なからず感じ取っていた。


「……わかったから、泣かないの。役立ちそうなときは頼ってあげるから」

「ですわ……」


 散弾銃をカバンに仕舞い直したリンを先導するように、ホテルに向けて歩き始める華世。

 海水浴場からホテルまでは、車ならば高架の有料道路を走ればすぐの場所である。

 しかし徒歩の場合は高架を通るわけには行かないので、した道を通ることになる。

 このした道と言うのが、例のオバケが出るという路地に近いのは、華世のミスだった。


「……華世、レオンさん達が車で戻ってくるのを待っていたほうが、良かったんじゃないですか?」

「何よホノカ。弱気になるなんてらしくないじゃない。オバケ、怖かったりするの?」

「そ、そんなことは……少しありますけど」

「ツクモロズだったとしても、民間人相手に逃げ回るようなヤツよ。あたしたちなら大丈夫でしょ」

「そうだったらいいですが……誰もいませんね、このあたり」


 細い路地を挟む建物はみな、シャッターが閉まっていた。

 ゴーストタウンもかくやといったこの区画は、もともとは観光客向けの商店街だったらしい。

 けれどもV.O.軍との戦争で客足が止まっているため、一時閉店。

 シャッターの張り紙を見る限りは、そういう事情のようだった。

 

 大人が二人横に並んだら壁に詰まりそうな路地を歩きながら、怯えるホノカと共にホテルへと目指す華世。

 ときどき後ろを振り返り、同じくビクついて黙っているリンがはぐれてないかを確認する。


「それに、あんたツクモロズが近くにいたらわかるでしょ?」

「最近、その感覚が鈍ってますけどね。幸せに慣れすぎたのかも……」

「なにそれ? 不幸だと鋭くなるっていうの?」

「華世に雇われるまで、自分の食事に使うお金まで切り詰めていた頃はそれなりの距離でも感じれたんですけどね。ももからも、全然ツクモロズの気配を感じられなくなって……」

「そういうものかしらねぇ? ……それよりリン、あんたやけに静か────」


 振り返った華世は、言葉を詰まらせた。

 そこに居たはずのリンの姿が、どこにも見当たらなかったからだ。


「リンさん?」

「はぐれた? 別にそこまで入り組んでないこの路地で?」


 確かに、途中いくつかの曲がり角や分かれ道はあった。

 けれども後ろからついてくる分には、はぐれようのない距離を歩いていたはずだ。


「……ホノカ、リンに電話かけられる?」

「今、呼び出してますけど……出ませんね」

「冗談じゃないわ。探すわよ!」


 嫌な予感を感じながら、華世は来た道を引き返した。



 ※ ※ ※



「華世ー……どこですのー……?」


 リンはひとり、薄暗い路地の中で震えながら歩いていた。

 決して道を間違ったり、目を反らしていたわけじゃない。

 華世たちが曲がったはずの、直角カーブ。

 その後を追おうとしたホノカがたどり着いたのは、新し目の壁で塞がれた行き止まりだった。

 慌てて引き返し、分かれ道の通ってない方へ進み直したリン。

 けれども華世と合流できるはずもなく、無人の路地の中で完全に迷子になってしまっていた。


「華世ー……ホノカさんー……どこに……?」


 脳裏によぎる、黒オバケの話。

 カバンから散弾銃を取り出したリンは、いつでも撃てるように構えながら、一歩一歩すすんでいく。

 そんな中、上着のポケットに入れていた携帯電話が、細かく震え始めた。

 そういえば電話があったと自己の失念を恥じながら、散弾銃を片手に携帯電話を手に取る。

 と、同時に自身を覆う影。


「────!!?」


 気がついたときには巨大な黒い塊が、リンの真後ろまで接近していた。




    ───Dパートへ続く

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