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第26話「裏返る黒い影」【Aパート 唐突バケーション】

 青い海、白い砂浜。

 雲一つない快晴の大空に浮かび真珠のように輝いた太陽……の代わりの人工陽光はたまらなく眩しい日差しで、海水浴場をジリジリと焼くかのごとく照りつけていた。


「んで、なーんであたしはこんな所でパラソル立ててるのかしらねぇ」


 ウィルと一緒に組み立てたビーチパラソルを砂に突き立てながら、華世はポツリとボヤいた。

 そうやってできた影の中にレジャーシートを敷き、腰を下ろしてひと休憩をする。


「しょうがないよ華世。巡礼の手続きしようとしたら、システムトラブルの真っ最中だったんだから」

「デジタル化も行き過ぎると難儀よね。艦の補給も兼ねて2日間の滞在決定。だけど復旧までの時間つぶしだからって、呑気に海水浴だなんて……」


 ざざーん、と波が砂浜に飛び込み、そして引いていく静かな音が響き渡る。

 華世たちが居るコロニー・サマーといえば、年中が夏の気候に固定されている四季コロニーのひとつ。

 金星でも有数の人気レジャースポットの一角である。

 しかし、V.O.軍の活動でコロニー間の移動に制限がかかった今、観光地に鳴くのは閑古鳥。

 リン・クーロンのつてで利用許可をもらったこの砂浜も、現在はプライベートビーチもかくやと言った静けさだった。


「ま、静かなのは何よりね。ナンパもされないし」

「華世、中学生なのにナンパされるんだ?」

「そりゃあ、この美貌だったらねぇ。秋姉あきねえに連れられて何度かこういうところに行ったけど、そのたびに声かけられて大変だったわ。ま、海水浴といってもあたしは泳げないから砂浜の散歩くらいだったけど」

「まあ、華世って雰囲気が大人びてるから間違えられるのもわかる気がするや」

「それにしても、サマー……か」


 パラソルの布越しに輝く人工太陽の煌めきを見上げながら、華世は魔法少女になりたての時の頃を思い出した。

 田舎町で起こった失踪事件、その先に起こったツクモロズの暗躍。

 そんな因縁あるこの地に、もう一つの因縁が生まれようとは、このとき華世は想像すらしていなかった。



◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


       第26話「裏返る黒い影」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■



 【1】


「華世、あなたなに景気の悪い顔をしているんですの?」


 レジャーシートの上で横になっていた華世を、リン・クーロンの真っ直ぐな眼差しが覗き込む。

 視界の端に映った奇妙な格好に、ゆっくりと上体を起こして目を凝らす。

 彼女が着ていたのは、白い布地が眩しいハイネックビキニ。

 首元まで覆われたデザインの水着は、彼女の年齢不相応にグラマス──華世ほどではないが──な身体を細く可愛らしい印象に包み込んでいた。


「あら、わたくしの水着姿に見とれておりますの?」

「いや、なんでそんな格好してるんだろって」

「まっ!? ここはビーチですわよ! ビーチといえば海! 海の正装といえば、水着ですわ!」

「正装ねぇ」

「あなたこそ、そんなTシャツにショートパンツなどと……夏らしくはあっても、海っぽくありませんわ!」


 そう言ってリンは、肩にかけたショルダーバッグをゴソゴソと弄り始めた。

 途中、散弾銃がバッグの中にチラリと見えたりもしたが……リンはようやく目的のものであるビニール袋に入れられた何かを取り出し、華世に手渡す。

 首を傾げながらその袋を開封してみると、中身は真っ赤な色をしたビキニ水着だった。


「……これは?」

「わたくしが選んだ水着ですわ。サイズはピッタリのはずですわよ」

「ま、あんたが正装に着替えろって言うなら従うわよ」

「でしたら、更衣室は向こうに──」

「ここで良いでしょ。よいしょっと」


 シャツの裾をつかみ、そのまま脱ぎ捨てる華世。

 上半身がブラジャー一枚になった姿を見たウィルが、ぎょっとした顔をしてから後ろを向く。

 同時に、リンが顔を真赤にして怒り出した。


「な、な、な! 華世、あなたには恥じらいとかはありませんの!?」

「他に誰も居ないんだし構いはしないわよ。ほら、ウィルは目をそむけてるし」


 そのまま華世はショートパンツを下着ごと脱ぎブラジャーを外し、一糸まとわぬ姿になる。

 そしてリンから渡された水着を身に着け足を通し、最後にパレオを腰に巻くと赤を基調とした水着姿が完成した。


「ほらウィル、着替え終わったわよ」

「華世、君って……ときどき大胆だよね」

「ウィル、あんた別にあたしの裸なんて見たこと無いわけじゃないし、恥ずかしがることないでしょ?」

「そういう問題じゃないんだよ……」


「ちょっ、やめて、恥ずかしいから本当に!」


 呆れ顔のウィルの後方から、ホノカの叫びが響き渡る。

 見ると、色こそ藍色だが華世のものと似ているビキニ水着を着た……というよりも、着せられているホノカに向けて、同じく水着姿のユウナが携帯電話のカメラを向けていた。


「いいじゃない! この激写したセクシー姿を送れば、愛しの彼もメロメロ間違いなしよ!」

「愛しのって……カズは別にそんなんじゃ──」

「あれれ~、私は名指しはしてないけど~? どうしてカズ君って思ったのかな~?」

「ユウナさんっ!!」


 怒りながら砂浜を駆け回り、笑顔で逃げるユウナを追いかけるホノカ。

 遠目に二人の様子を見ていた華世は、こっそりとホノカの写真を携帯電話で撮影する。


「まさか、本人に内緒で送りつけますの?」

「一般回線は制限されてるからできないわよ。カズに見せるのは帰ってから、ね」

「見せる流れは変えないんですのね……」



    ───Bパートへ続く

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