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第25話「決別の日」【Hパート 決意の戦い】

 【8】


 白く巨大な天使の翼。

 厳密にははねを模した形状のビーム・スラスターの束が一斉に光を放つ。

 軽やかな、そして素早い飛翔。

 ぐんぐんと高度を上げる〈エルフィスサルファ〉が、撃墜されそうになっている内宮機の前に躍り出る。


『エルフィス……! 咲良が乗り換えたというのか!?』

「楓真くんは、私が止める! メシアスカノン、セイバーモードっ!」


 エルフィスの両腕を包み込むやや大型の固定兵装。

 システム上、メシアスカノンと名前のついたその手首直上の空間から、ビームの刃が伸びる。

 そして振り下ろされたビーム・アックスをその刀身で受け止め、ビーム同士の激しいスパークを生み出した。


『ハハッ! 新型に乗り換えれば、僕を仕留められるとでも思ったのか! 笑わせる!』

「仕留めなんかしない! 私は……私は楓真くんを助けるために、このエルフィスに乗っている!」

『助ける……助けるだと?』


 鍔迫り合いの反発の勢いのまま、距離を取る楓真の〈ザンドールR〉。

 彼は搭載されているガンドローンを一斉放出し、咲良の機体を立体的に取り囲む。


『何を言っている! 僕はツクモ獣のアッシュだ! 人間のお前に助けられる覚えも救われることも無い!』

「いいえ……あなたは人間の、常磐楓真よ! 最初、やろうと思えばあなたは私をキャリーフレームで踏み潰せた。なのにしなかった!」

『無粋な真似で、僕の品位を下げたくなかっただけだ!』


 一斉に光線を放射するガンドローンたち。

 けれども咲良は、EL(エル)の示したとおりに防御機構を作動させる。

 翼のようなビーム・スラスターが機体を包み込むように閉じ、表層から発現するフィールドが、光の凶器を遮った。


「ビーム・フィールド! ……からの、全方位レーザー!」


 翼が開かれるとともに、そのはねを構成する無数のビーム・スラスターが小さな光弾を一斉に放つ。

 嵐のようなレーザー・ビームの雨を受けたガンドローンは、空中で崩壊。

 直後に飛んできた長距離ビームを、咲良は機敏な動きで回避させた。


「あなたは私を優しいと言ったけど、あなたも優しすぎるのよ! 戦いで打ち負かしても命は取ろうとしなかったその行動……その心に、私は賭けるっ!」

『味なマネをっ!』


 何度も〈ザンドールR〉から放たれる、強力なビーム攻撃。

 真っ直ぐすぎるその光線の中に咲良は〈エルフィスサルファ〉を滑り込ませ、最小限の動きで距離を詰めていく。

 あと少しで手が届く。

 そう思った瞬間に、レーダーに光点が増えた。


「咲良お姉さん! ガンドローンが!」

「しまった、これじゃガードが……」


 守りきれない、と感じた瞬間に空中で爆散するガンドローン。

 直後に走るイナヅマの光に、それがどこかから放たれたレールガンの弾丸によるものだとは察せられた。

 すかさず咲良は、メシアスカノンをランチャーモードに切り替え。

 楓真の機体が握る高出力ビーム砲へと、輝く弾丸を叩き込んだ。

 武器の爆発に巻き込まれ、消失する〈ザンドールR〉の右腕。

 残った左腕がビーム・アックスを握り締め、大きく振りかぶる。

 咲良も負けじと、メシアスカノンをセイバーモードへと変更した。


『来るかっ!! 咲良ぁぁぁっ!!』

「楓真ぁぁぁっ!!」


 互いに名前を叫び合いながら、ビームの刃が交差する。

 すれ違い、背を向けて空中で静止する2機。

 居合いの勝負に勝ったのは……咲良だった。


 斬撃を受けた楓真機の左腕が宙を舞い、握る武器もろとも地上へと落ちる。

 すべてのガンドローンを失い、両腕を切り落とされた〈ザンドールR〉。

 打つ手のない敵機へと、咲良は近づこうとして……できなかった。


『ちいっ……!! 咲良……この勝負は預けるぞ。次はお前もろとも、そこの裏切り者……ヘレシーを始末してくれる! 跳躍!』


 楓真の言葉が終わるとともに、大きな爆発を起こす〈ザンドールR〉。

 機体は自爆したが、口ぶりからすると楓真自身は脱出したのだろう。

 咲良はひとまずの危機を乗り越えたことと、楓真を逃してしまったこと。

 安堵と悔しさという相反する感情を、ひとつのため息として放出した。


『咲良、大丈夫ですか?』

EL(エル)、ありがとう。私は平気、楓真くんが私を狙う限り、またチャンスは来るから……」

「そうだよ、咲良お姉さん! そうしたらまた3人で、頑張って助けるんだ!」

「そうだね、ヘレシー。そう、助けるんだ……!」


 決意を新たに、頷く咲良。

 地上で手を振る内宮とテルナの元へと、機体を降下させる。

 咲良の新たな力となった機体、〈エルフィスサルファ〉。

 その力に、感謝をしながら咲良はコンソールを優しく撫でた。



 ※ ※ ※



「ふぅ、危なっかしいなあ。あの人達」


 使い終わったレールガンを降ろしながら、菜乃羽はつぶやく。

 心配して備えていたのが、無駄にならなくてよかったと安心していた。


「ママも人使いが荒いね。まあ、ボクは言われた通りに仕事をこなすだけさ。ドリーム・エンドっと」


 変身を解き、星代わりの光が浮かぶ真っ暗なコロニーの空を見上げる。

 今はまだ、裏方として琴奈の言われるがままに危険を排除するだけ。

 けれどいつかは、魔法少女として華世や咲良たちと共に華々しく戦いたい。


「だけどボクはまだ影。光が当たるその日まで、頑張り続けるだけさ。ねえ、ママ?」

 


 ──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.25


【エルフィスサルファ】

正式名:エルフィスサルバトーレアルファ

全高:8.5メートル

重量:12.5トン


 ヘレシーの力を借りることで、完全覚醒を遂げたエルフィスサルファ。

 欠陥機と言われていた原因である火器管制装置《FCS》による武装の不認識問題は、武装側のフォーマットが新しすぎることでOS側が対応していなかったのが原因だった。

 宇宙戦艦の制御コンピューターを依り代とするツクモロズ、ヘレシーがこの問題を解決したことで、咲良の新たな力となった。

 しかし、このシステム書き換えは規格外のプログラム改造によるものとなっており、ヘレシーが同乗し常にシステム側へ柔軟な命令の流し込みを必要とするものである。

 それゆえ、ヘレシーはもちろん彼女と心通わせられる咲良、そして制御を手伝えるEL(エル)の3人が揃って乗り込まないと、この機体の真価は決して発揮できない。


 それだけの搭乗員を必要とするだけあって最新の武装は非常に強力。

 両腕に装備された遠近両用複合兵装「メシアスカノン」は射撃と格闘戦ふたつのモードを切り替えることが可能。

 固定兵装として動力部から直接エネルギーを受け取れる関係上、そのビーム出力は他の携行兵器を凌駕しており、一般的なキャリーフレーム相手ではパワー負けは起こらない。

 他にも両腰部のレールガンに、両肩のビーム・キャノンといった兵装が存在している。

 翼のように見えるビーム・スラスターは表面に膜状のビーム・フィールドを展開可能。

 全身を包み込むように羽を閉じ、防御に徹することで一時的に鉄壁となれる。


【ザンドール(ツクモロズ再現体)】

全高:8.3メートル

重量:10.6トン


 楓真が放ったツクモロズ核晶コアから生み出されたザンドール。

 外見、武装こそアーミィで運用されているザンドールと変わらないものの、ツクモロズの能力により部分部分を別の機体のものへと変化させることが可能。

 このタイプは、V.O.軍の量産機ガレッティのものへと右腕を変化させた姿。

 ツクモロズは侵食したことのある機体を再現することが可能であり、近くから幹部級ツクモロズが指示を出すことでこのような芸当が可能となる。


 【次回予告】

 

 巡礼の三番目の目的地、コロニー・サマーへと降り立つ華世たち。

 華世にとっては複雑な思い出のあるコロニー。

 陽気な雰囲気の街の中で、リン・クーロンへと魔の手が迫るのだった。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第26話「裏返る黒い影」


 澄まし顔で放たれるは、別れの散弾か────。

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