第25話「決別の日」【Gパート 救世の翼】
【7】
地上に落下し、整えられた公園の石床に大穴を開ける〈ジエル〉。
外を映し出すモニターの半分以上にノイズが走り、直後に激しい振動がコックピットを揺らす。
「きゃあああっ!!」
警告灯で真っ赤に照らされる中、咲良は意識を失いかけた。
けれども気合で失神を免れ、ぼやけた視界の中で相棒に問いかける。
「え、EL……大丈夫?」
「私よりも咲良ですよ! もう〈ジエル〉はダメです、脱出を!」
「う、うん……」
アンドロイド体に意識を戻したELに引っ張られ、彼女が蹴り上げたコックピットハッチから這い出るように脱出する。
見るも無残な姿になった愛機。
その場から離れようとしたところで、〈ジエル〉は大きな爆発を起こした。
発生した爆風に吹き飛ばされ、ELともども茂みに突っ込む咲良。
いつの間にか切れていたのか、血を流す頬の傷を抑えながら上空で佇む〈ザンドールR〉を見上げる。
「楓真くん……本当に、あなたは……!?」
『悪運は強いね、咲良。だが、ここまでだ……うん?』
不意に遠くの方へとカメラアイを動かす〈ザンドールR〉。
彼の見た方向へと無意識に視線を動かすと、闇夜の中から2つのスラスター炎が接近してきていた。
『楓真はん、よくも咲良をやりおったなぁぁ!!』
片方は内宮の乗る隊長機仕様の〈ザンドールA〉。
もう片方は……誰が乗っているかは不明な、見たことのないエルフィスタイプの機体だった。
空中で衝突し、激しい金属音とビーム同士がぶつかり合うスパーク音を鳴らす、内宮機と楓真機。
一方のエルフィスタイプは、咲良たちのもとへと降り立ち、コックピットハッチを開けた。
「生きているようだな、良かった」
「あなたは……たしかテルナ先生?」
「話はあとだ。お前はまだ、戦えるか?」
メガネをかけた赤髪の女性に尋ねられ、咲良は空を見上げる。
ガンドローンの攻撃を避けながら楓真に食らいつく内宮だったが、状況は明らかに劣勢。
どうにかしたい、楓真を止めたい。
けれども、咲良は自分の能力に対して自信を喪失していた。
「私なんかが……無理だと思う。あんなに華世ちゃんたちに頼らなくても良いようにって頑張っても……結局は頼ってしまってる。今もまた、一人で楓真くんを止めることすらできなかった……」
「それは、そうかもしれない。だが、お前は本当に一人で戦っていたのか?」
「え……?」
パイロットシートから立ち上がり、機体を降りるテルナ。
その背もたれの後ろには、避難させていたはずのヘレシーがいた。
「お前にはそこのアンドロイドのように、力を貸してくれる存在がいるじゃないか。一人で一人前になど……ならなくてもいいんだ」
「咲良、もしかしたら私と一緒でも足りないかもしれません。けれども……」
「ねえ! 私が一緒なら、0.3人分くらい増えるよ!」
「EL、ヘレシー……あなたたち」
降りてきたヘレシーが、そっと咲良の手を握る。
柔らかくて温かい手。
ブゥン、と彼女の背後のエルフィスの目が輝いた。
「エルフィスが……喜んでる?」
「よくわからんが、どうもこのヘレシーという少女が乗ると欠陥機と呼ばれたこいつの調子が上がるらしい。私では武器の1つも使えなかったが……お前たち3人が力を合わせれば、いけるかもしれん」
エルフィス、英雄と呼ばれた機体の子孫機。
その名前に恥じない操縦が、果たして自分にできるのだろうか。
いや、できるに決まっている。
「咲良、行けますか?」
「行こっ、咲良お姉さん! あの人を、止めるんだ!」
「……ええ!」
意を決してコックピットへと足を踏み入れ、パイロットシートに腰を下ろす。
その両脇に立つ、二人の少女。
ELが機体のコンピューターへと意識を移し、ヘレシーがコンソールから伸びるケーブルのひとつを握りしめる。
「たしかこの機体……武器が使えなかったって」
『ですが咲良、現在進行系でプログラムが書き換えられています』
「はい! この子が武器を認識できなかった理由は、搭載している武器が新し過ぎてOSが対応できてなかったからなんです!」
『……今わかりました。ヘレシー、あなたはキャリーフレーム、あるいは戦闘艦船のコンピュータだったのではないですか?』
「当たり! やっと分かってくれたね! だから、私がこの子に武器のことがわかるように教えてあげてる! 咲良の力に、なれるように!」
「ヘレシー……」
画面上のプログレスバーが徐々に進んでいく。
そんな中、ヘレシーは遠くを見るような顔で咲良に語りかけていた。
「私ね、ずっと奪うために使われてた兵器だった。それが嫌でね、ツクモロズになったんだ。そんな私を、紅葉は友達にしてくれた! 誰かを守るために、戦うことを教えてもらったの!」
『全武装オンライン。〈エルフィス・サルバトーレ・アルファ〉、戦闘行動に移行可能です』
「だから今度は、紅葉のお姉ちゃんの咲良に力を貸してあげるんだ。守りたい誰かを、守れるように!」
「ふたりとも、ありがとう。こんな私だけど……支えていてね」
『もちろん』
「うん!」
操縦レバーを握りしめ、指先に神経接続の痛みが走る咲良。
頬の血を拭い、まっすぐと前を見る。
そして、ペダルを載せた足へと、一気に力を加えた。
「葵咲良、〈エルフィスサルファ〉! 行きます!!」
───Hパートへ続く




