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第25話「決別の日」【Aパート ミュウの異変】

「結局のところ、あなたは何者なんですか?」

「言えないよっ」


 朝食のカップ味噌汁6個にお湯を注ぐ咲良の隣で繰り広げられる少女たちの問答。

 少女、といっても片方はEL(エル)が動かすアンドロイドで、もう片方はツクモロズのヘレシー。

 ヘレシーは、ツクモロズというからには依代になったモノが存在するはずである。

 それが何か、というのが彼女たちの会話の主題だった。


「ヘレシー、あなたが搭乗していた際に使えていた〈アーク・ジエル〉のマルチ・ロックオン・システムが使えなくなっていたんですよ。あなたの正体は、コンピュータに作用する何かであるという推論にはあるんです」

「いくら聞いたってムダだよっ! 核心に触れられるまでは、私だって言いたくても言えないんだもん」

「それは例の、魔法によって施された思考のロック……ですか?」

「そーいうこと。おみそ汁いただきます!」


 味噌汁の器をたぐり寄せ、ジュルルという音を立てて飲むヘレシー。

 不服そうな顔で、その後に続くEL(エル)

 すっかりお馴染みになった朝のやり取りに、咲良はぼんやりしながらドンブリ一杯に白米をよそった。

 つけっぱなしのテレビのニュースは、V.O.軍とアーミィの戦いが膠着状態になって数日という旨を伝えている。


「今日も変わらず、平和だけどV.O.軍の影ありっと。いい日になると、いいな~」


 そう呟きながら咲良は、かき混ぜた4個分の卵をドンブリの白米にそっと流し入れた。




◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


       第25話「決別の日」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■



 【1】


「はぁー……お嬢様欠乏症ですぅー」


 インスタント味噌汁の空袋をゴミ箱に放り込みながら、どんよりとした表情でミイナが呟いた。

 そんな前かがみになった彼女の背中を、ももが優しくさする。


「ミイナお姉ちゃん、私じゃダメなの?」

ももお嬢様も素敵なのですが、やはり華世お嬢様がいないと刺激が足りないんですよ……。あのさげすむような目、的確に心をえぐる言葉選び、それでいて割と寛容かんようで色々許してくれて、時に優しい……そんなギャップ萌えは、華世お嬢様からしか味わえません!」


「……常々思うんやけど、他のSDシリーズもミイナみたいなもんなんか?」


 長年考えていた疑問を、ふとした拍子で投げかける内宮。

 内宮はミイナの両親を知っている。

 両親と言っても設計者とか製造者ではなく、遺伝的アルゴリズムで作られる人格データのベースとなった2つのAIだ。

 生真面目なメイドロボ然とした彼女の母親と比べると、あまりにもはっちゃけているミイナ。

 他の個体もこうなのかと、内宮は問いかけていた。


「えっとですねー? 私には300人の姉と400人の妹がいますが、お父さんの要素が色濃く出たのは私くらいらしいですね!」

「自慢げに言うもんやないで。……にしても数字で言われるとナンバーズもびっくりの姉妹数やな。盆正月は大変やないんか?」

「姉妹でローテーションで帰省してるので大丈夫です! 私はまだ順番が回ってこないので、年賀状や暑中見舞いを送る程度ですね」


 700人近い娘たちからの年賀状一斉受信は大変そうだな、と他人事のように思う内宮。

 そして金星に来て以降、このビィナス・リング宙域から一度も出てないことにふと気づく。

 アーミィとV.O.軍がぶつかり合っている今、そんな帰省は不可能だが……落ち着いたら同窓会くらいは開きたいな。

 そんな呑気なことを考えていた内宮の脳に、ももの上げた悲鳴で緊張が走った。


「ち、千秋お姉さーーん!!」

「どしたんや、もも!? それ……ミュウのケージよな?」


 泣きそうな顔をしてミュウの住んでいるハムスターケージをテーブルに乗せるもも

 彼女に促されるままに中を覗くと、巣穴がわりの小さな壺の中で、ミュウのハムスターの身がぐったりと倒れ込んでいた。


「……寝とる、わけちゃうよな?」

「いつもなら朝におはようって言ったら、起きてご飯食べるんです! なのに何度呼んでも起きないんですよ!」


 蓋を開けて腕を入れ、青いハムスターを手のひらに乗せて取り出すもも

 目の前に差し出された小動物は、激しくヒューヒューと音を出して呼吸し、目は半開きで虚ろだった。


「ミイナ、心当たりは無いんか?」

「いいえ……あっ! そういえばここ数日、ご飯の食べる量が少なくなってました! てっきりオヤツの食べ過ぎかと思って……」

「ね、ね、病院につれていってあげましょ!」

「せやかてなぁ……」


 病院に連れて行くべき状況なのは確かであるが、ミュウはただのハムスターではない。

 妖精族という魔法少女にまつわる人々、その姿が変化した存在である。

 人語も喋れば空も飛ぶハムスターを動物病院になんか連れて行ったら、騒ぎになるのは目に見えている。

 どうしたらいいかをウンウン唸って考える内宮の脳裏に、ひとつピンとくる妙案が浮かんだ。


「せや! 事情に詳しゅうて信頼もできて、それでいて生物分野に強い奴がおったやないか!」

「えっ! 誰ですか!?」

「そりゃあモチロン────」



    ───Bパートへ続く

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