第24話「愛が為に」【Hパート 大脱出】
【8】
小惑星帯をかいくぐる、激しいドッグファイト。
互いに損傷を与えられずに拮抗した高速戦闘の中で、ウィルは徐々に疲労が蓄積していた。
(疲れてるのは互い様だと……そう思いたいけどっ!)
『ウィリアァァァムッ!!』
フルーレの叫びとともに振るわれるメタル・クロー。
激しく左右から打ち込まれる連撃を、半ば衝動と感覚だけで捌き受け止める。
鋼鉄の爪同士が交差する火花がしきりに散る中、レーダーにひとつの機影が写り込んだ。
「増援っ……!?」
『邪魔しないでって言ったのに……! あれは!?』
映像に写ったのは、格納庫で見た翼を持った欠陥機。
武器のひとつも手に持たずに接近するその姿は、戦場に出るにはあまりにも無防備すぎる。
『聞こえるか、ウィル! 葉月は救出した。まもなく〈アルテミス〉がここに来る!』
「テルナ先生……!? けど、そんな機体で出てきちゃあ……」
『そうよ、おバカさん! 私の邪魔をしにむざむざ殺されに出てきたって言うなら、その想いに応えてあげるってものよ!』
ウィルの〈ニルファ・リンネ〉を蹴り飛ばし、テルナが搭乗する〈エルフィスサルファ〉へと突撃する〈ニルヴァーナ〉。
そのミサイルポッドから無数の弾頭が放出され、弧を描いてテルナ機を包囲する。
「テルナ先生、危ない! その機体には武器が……!」
『武器は無いが、兵器はある。行け、葉月!』
『がってん承知ってねっ!!』
勢いよく〈エルフィスサルファ〉のコックピットハッチが開き、飛び出す桃色の魔法少女姿。
変身した華世が義手のVフィールドを全開にし、飛来するミサイルを空間の渦へと引きずり込む。
『自分のミサイルでぇぇぇっ! く・た・ば・れぇぇぇっ!!』
身体ごと宇宙で一回転しながらの、受け止めたミサイル群の投げ返し。
思いも寄らない反撃に面食らったのか、そのいくつかが〈ニルヴァーナ〉へと直撃した。
『きゃあああっ!? やられたのっ!?』
『ウィル! あたしを受け止めなさい!』
「あ、ああ!」
爆発を受け後方へ吹っ飛ぶフルーレ機を尻目に、戦闘機形態へと変形し〈ニルヴァーナ〉とすれ違いつつ華世へと近づく。
そのままの速度で人型形態へと変形し、開けたハッチに飛び込んだ華世の身体をウィルは全身で受け止める。
パイロットスーツ越しに感じる華世の柔らかさ。
ふわりとなびく美しい金髪を横目に見ながら、コンソールを操作してハッチを閉鎖する。
「ありがとう、ウィル。今のあんた、とっても素敵よ」
「嬉しい褒め言葉だ! でも、まだフルーレの奴が!」
『よくも、よくも私とウィリアムの、戦いの邪魔をぉぉっ!!』
鬼気迫る声とともに、〈ニルヴァーナ〉の機首からビームの槍を生成させるフルーレ。
そのまま〈ニルファ・リンネ〉を打ち貫かんと突進を仕掛けてくる。
ウィルは咄嗟にペダルを踏み込み、回避運動……に移る前に、どこかから飛来した赤く光る熱線が〈ニルヴァーナ〉のノーズ・ランサーを弾き機体ごと吹っ飛ばした。
『あひんっ!?』
『華世、ウィル!』
「その声……ホノカ!?」
通信が送られてきた方へと目を向けると、そこには高速で接近する〈アルテミス〉の艦影。
その甲板に立つ、盾を構えた〈オルタナティブ〉が、しきりに片手を振っていた。
『葉月、ウィル、乗り込めっ!!』
「よし、行くぞっ!」
「ええ!」
戦闘機形態へと変形した〈ニルファ・リンネ〉で、テルナの〈エルフィスサルファ〉の元へと接近。
主翼部分を〈サルファ〉が掴んだのを確認してから、〈アルテミス〉が向かう方向と同じ向きに猛加速。
相対速度を艦に合わせ、少しずつ距離を詰めていく。
『先生、捕まって!』
『もっと右だ、クレイア! よし……そのまま!』
思いっきり伸ばした〈エルフィスサルファ〉と〈オルタナティブ〉の手が、ガッチリと組み合う。
その瞬間に引き込まれるように甲板上へと移動。
ウィルは即座に機体を人型形態へと変形させ、大砲のひとつをマニピュレーターでしっかりと掴んだ。
「の、乗ったぞ!」
『〈アルテミス〉、全速で戦場を離脱!』
遠坂艦長の声とともに速度を増し、宇宙を飛んでいく戦艦〈アルテミス〉。
あれだけ色々あったレッド・ジャケットの要塞も、はるか後方で小さく見えなくなる。
戦いから抜け出し、平穏を取り戻した甲板の上の〈ニルファ・リンネ〉の中。
ウィルは膝の上に華世をのせたまま、ふぅ……と安堵のため息をついた。
「やったわね、ウィル」
「俺なんて何もできなかったよ。全部、華世とテルナ先生のおかげだ」
「でも、あたしの為を思ってあいつと勝負してたんでしょ?」
「ああ……。フルーレ・フルーラ……」
もう完全に見えなくなった、フルーレと戦っていた戦場の方を向いて想いを馳せる。
彼女から向けられた感情は、決して憎しみや殺意ではなかった。
むしろ喜びや好意、それに近い想いをウィルは感じ取っていた。
「気になるの、あの娘が?」
「フルーレの執念は、俺が原因だったから……いつかは、なんとかしないと」
「できるわよ。あたしたちの旅も戦いも、まだ続くんだから」
「そうだよな……そうしなきゃな」
遠くに映る金星を見ながら、ウィルは決意する。
レッド・ジャケットに父親、それにフルーレ・フルーラ。
それらの因縁を、いつか完全に断ち切ることを。
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登場戦士・マシン紹介No.24
【ニルファ・リンネ】
正式名:エルフィスニルヴァーナアルファ・リンネ
全高:8.2メートル
重量:4.1トン
ウィルが搭乗していたエルフィスニルファの改修機。
リンネとは、ニルヴァーナという言葉がインド哲学における輪廻転生に関わる言葉から、修復を超えて発展したという意味を込めて付けられた。
破損の少なかった頭部・胴体部を残し、ほとんどがニルヴァーナの部品に置き換えられている。
そのため武装もニルヴァーナ準拠となり、チェイス・レーザーにメタル・クロー、マイクロミサイルポッドを内蔵している。
また、機首のノーズ・ランサーも新たに取り付けられており、戦闘能力はニルヴァーナと同等となった。
なおアーミィの改修によって付けられたビーム・ダガー・ブーメランは廃されており、マニピュレーターから武器を掴む機能がオミットされた結果、キャリーフレームとしての汎用性は著しく下がっている。
【エルフィスサルファ】
正式名:エルフィスサルバトーレアルファ
全高:8.5メートル
重量:12.5トン
レッド・ジャケット宇宙要塞の格納庫で放置されていた欠陥機。
サルバトーレとは救世主を表す言葉であり、何らかの意図を持って設計・名付けられたと思われる。
しかし火器管制《FCS》がすべての武器を認識せず、戦闘行動が不可能となっている。
咲良が乗る量産機ジエルの発展機体であり、天使の翼にも見える背部飛行ユニットは、無数のビーム・スラスターが積層して構成されたもの。
両肩部の後ろに2門の高出力ビーム・キャノン、腰部側面に二本のハイパー・レールガン。
両腕部と一体化した格闘・射撃複合兵装など全身に固定武器がてんこ盛りとなっているが、残念ながらその全てが動かないため飾りとなっている。
【次回予告】
偶然にも、古い友人に再会する咲良。
その人物は菜乃羽が「ママ」と呼ぶ女性でもあった。
彼女の発言をきっかけとして、アーミィに巣食うスパイの正体へと咲良はついに行き着いてしまう。
それは自身にとって、耐え難い別れへと繋がる……そう理解しながらも。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第25話「決別の日」
────古い記憶が今を苦しめるのは、過ぎ去りし日々があまりにも輝いていたからか。




