第24話「愛が為に」【Dパート 進行する状況】
【4】
「今回は、無事に礼拝が終えられてよかったですね」
コロニー・バーザンの聖堂で巡礼の手続きを終えた帰り道。
宇宙港の自動歩道に運ばれながら、ロザリオを眺めるリンへとホノカは言葉をかけた。
「確かに、ウィンターの時のように邪魔は入りませんでしたけれども……」
「華世たちのこと、ですか」
「おふたりの無事が確認できない今、巡礼を続けている場合なのかと考えてしまいますと……」
巡礼そのものは、コロニー・クーロンを守るための行動である。
けれどもレッド・ジャケットに身内をさらわれているというのに、彼女たちを救出する行動をせずに何事もなかったかのように旅を続けている。
そのことがリンとしては耐え難い状況なのだ。
それは、ホノカにも痛いほどよくわかっている。
「遠坂艦長が言ってましたよね、リン先輩。さらわれた先の場所も、どんな状況かわからなければ行動のしようがないって……」
「わかっていますわよ! わかっていますとも……」
「そんな暗い顔、してるんじゃないぜ」
気がつくとたどり着いていた〈アルテミス〉のドック前。
出迎えるように待っていたレオンとユウナにかけられた声に、リンはうつむく。
「そう言われましても、この状況では……」
「その状況を打破する時が来た、って言ってもダメか?」
「ふたりとも喜んで! いま、華世さん達が捕まっている場所が判明したのよ!」
「えっ……!?」
「詳しい話はあとだ。さっさと艦に乗れよ! 救出作戦を始めるぞ!」
経緯がわからないままに、与えられた朗報。
ホノカとリンは互いに顔を見合わせ、力強く頷いてからタラップへと向けて駆け出した。
降って湧いたチャンスに、若干の困惑を含めながら。
※ ※ ※
「ウィリアム、時間よ。来なさい」
静かに開けられた格子の扉。
外から手招きするフルーレに従い、ウィルは独房を出た。
(次に華世が拷問される前に、なんとかできるといいけど……)
格納庫へ向けてフルーレと共に廊下を進みながら、状況を整理する。
あれから、華世の悲鳴は聞こえていない。
すなわち次の拷問の時はまだ来ていないわけでもあるが、それがいつかはわからない。
これ以上、華世に苦しい思いをさせないためにできること。
それはフルーレとの決闘に手早く決着をつけ、キャリーフレームで離脱し助けを呼びに行く作戦。
頭の中で動きをシミュレートし、うまくいくと自分を鼓舞。
そうやって深い考え事をしていたら、急に立ち止まったフルーレの背中にドンとぶつかってしまった。
「ひゃっ! 何するのよ!」
「ご、ごめん……あ、格納庫」
「手、出して。外してあげるから」
「あ、ああ……」
差し出した両手を繋ぐ枷に、小さな鍵を差し込むフルーラ。
パキンという音と共に、両腕が自由になる。
動かせないままに凝った肩を回してほぐしていると、格納庫の一角に立っている一機の白いキャリーフレームが目に入った。
「フルーレ、あれは……?」
「え? ああ、あれはクレッセントが押し付けた欠陥品よ。火器管制《FCS》が機能してないから戦えないんだって」
「……まるで〈オルタナティブ〉みたいだな」
まるで生き物の翼のように無数の可動ユニットが積層して形作られた翼。
腕と一体化した射撃武器のような機構。
腰から斜め後ろに降りた、レールガンのような兵装。
強そうな見た目に反して、役に立たない欠陥機。
それは〈アルテミス〉の中で眠っていた、今はホノカが乗る〈オルタナティブ〉を想起させた。
「早く乗りなさい、ウィリアム。あなた、自分の立場わかってるの?」
「ああ、ゴメン。すぐに乗るよ」
フルーレに急かされ、すっかり姿の変わった〈エルフィスニルファ〉へと乗り込むウィル。
パイロットシートに腰を降ろし、システムを起動。
コンソール上に表示された機体名に、ウィルは眉をひそめた。
「エルフィスニルヴァーナアルファ・リンネ……? 輪廻ってことなのか?」
勝手につけられた単語を頭に浮かべつつ、生まれ変わった愛機へと思いを馳せる。
一年前にレッド・ジャケットを出奔した時から、ずっと世話になっていたエルフィス。
無人島暮らしをしていたときは、発電機代わりにしていたこともあった。
華世と出会ってからは、彼女を守るための戦いで何度も乗り込んだ。
もしもこの機体がツクモロズ化したら、ウィルに何を言うのだろうか。
一方通行な好意でないことを祈りつつ、フルーレの〈ニルヴァーナ〉が立つエアロックへと足を運ばせる。
『ウィリアム、いい? 1、2の、3で宇宙に出たら……戦闘開始よ』
「わかった」
後方の扉が閉まり、目の前のシャッターがゆっくりと開く。
遠くに金星が浮かぶ宇宙の風景。
今からここで、フルーレと戦うのだ。
『行くわよ、1、2の……!』
「3っ!!」
合図と同時にペダルを踏み込み、同時に宇宙へ飛び出す〈ニルファ・リンネ〉と〈ニルヴァーナ〉。
即座に両方とも戦闘機形態へと変形し、互いに距離を取る。
そして人型へと変形し正面に見据え合い、ビームを放った。
───Eパートへ続く




