第24話「愛が為に」【Bパート ウィルとフルーレ】
【2】
「満足かよ……お前は、これで満足なのかよ!!」
両手に枷をはめられ、身動きの取れないウィル。
その独房へと入ってきたフルーレ・フルーラへと、座ったままつばを飛ばさん勢いで食って掛かる。
この施設に幽閉されてから、はや数日。
連日のように離れた房から聞こえてくる華世の悲鳴を、何もできない状態で聞き続ける日々。
無力感で溜め込んでいた悔しい想いを吐き出すように、ウィルは声を張り上げていた。
「やるなら俺をやればいいだろう! 裏切り者の俺を!」
「そんなに、あの娘のことが大切なんだ……」
「父さんがいるから、俺に手が出せないから華世を痛めつけているんだろう! 悲鳴を聞かせて、憔悴させる! それで、お前は満足しているんだろう!」
「満足なんて……してないわよ」
吐き捨てるように、つぶやいたフルーレの声。
この期に及んでまだ何かが足りないのか、とウィルは身構える。
しかし彼女から出てきた言葉は、行動は、想像とはまるで違った。
「……ついてきて」
手を差し伸べ、ウィルを立ち上がらせるフルーレ。
そばに銃器を持った兵士をつけたまま、彼女は先導するように廊下へと出た。
意図はわからないが、黙って従うのが得策だろう。
鉛玉を喰らわないためにも、ウィルはフルーレの背中を追うように足を動かした。
無骨な白い廊下を、右へ左へと導かれるままに進む。
そうしてたどり着いた扉の先は、無数のキャリーフレームが立ち並ぶ格納庫だった。
「これは、俺の……エルフィス?」
見上げた先に浮かぶ、見覚えのある頭部シルエット。
そこだけ見れば先の戦いで破壊された〈エルフィスニルファ〉そのものであったが、胴体や腕部の外見は以前からかなり形を変えていた。
それはまるで、フルーレ・フルーラが乗っていた機体〈ニルヴァーナ〉そのもの。
状況が理解できないウィルの耳元で、フルーレが兵たちに聞こえないよう囁くように喋る。
(……表向きは私が乗る用として修理させたの。これであのエルフィスは〈ニルヴァーナ〉と同じ性能になったわ)
(何を……企んでいるんだ?)
(私は知らなかったのよ。あなたを連れ戻したつもりだったのに、あの娘が拷問されるなんて思ってなかった)
(罪の意識にかられて、助けてくれる……なんて言うんじゃないよな?)
(私は、あの勝利に満足していない。あなたの機体性能は〈ニルヴァーナ〉に劣っていたし、女連れだった。私の願いは一つだけ。条件を合わせた上で、真正面からあなたに勝ちたい)
(勝負だって……?)
思いもよらない提案に、疑いの眼を向けるウィル。
しかし、その視線を受けてもフルーレの目は真っ直ぐだった。
鼻同士が触れ合いそうなほど互いに顔を近づけたまま、フルーレは小声で話す。
(私が勝ったら、あなたはレッド・ジャケットに戻ってもらう。もちろん、私が口添えしてあげるわ)
(俺が勝ったら……どうするんだ?)
(あなたが勝ったら……そうね、あの娘ともども助けてあげる。どう、いいでしょ?)
脱走の目処もロクに立っていなかったところで、思わぬ助け舟。
しかし、フルーレの言っていることの全てが信用できるわけではない。
あくまでも彼女はレッド・ジャケットという組織のいち幹部にすぎない。
その滅茶苦茶な提案が組織の意向に沿わなければ、どこかで約束は反故にされるだろう。
けれども勝負に乗れば、少なくともキャリーフレームに乗って外には出してもらえる。
隙を見て逃走し、助けを呼べれば華世を救出することにだって繋がるだろう。
ウィルはこの状況を打開する賭け、その足がかりにするために、フルーレへと了承の意を伝えた。
(一時間後、休憩に入ってここから人が居なくなるわ。そしたら迎えに来るから)
(……わかった)
約束を終えたウィルは、再びフルーレ先導のもと独房へと戻る。
白い廊下を歩きながら、ウィルは華世を助けるための決意を心の中で固めていた。
───Cパートへ続く




