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第24話「愛が為に」【Aパート 囚われの華世】

 「華世が……〈エルフィスニルファ〉が未帰還、ですって!?」


 先の見えないキャリーフレーム、〈エルフィスアヴニール〉との戦闘を終えた後。

 集められた艦内の一角で行われる戦況報告会デブリーフィングの中で、リン・クーロンが信じられないといった声を出した。


 これまで数々の戦いにおいて、無類の強さを発揮してきたウィルと〈エルフィスニルファ〉。

 多少のピンチこそあれ、危機的状況までは一度も至ってなかった彼と、同乗していた華世の戦闘中行方(MIA)不明。

 それは、彼らと長く共にいるホノカ達にとっては、非常に辛い報告だった。

 報告を終えた遠坂艦長が、ホノカたちへと深く頭を下げる。


「エルフィスへと華世さんの同乗を提案したのは私です。……本当に申し訳ありません」

「か、艦長さんは悪くありませんわ! 頭を上げてくださいませ!」

「艦長さん、現代のキャリーフレームは撃墜されてもクロノス・フィールドによってパイロットの無事は担保されているんですよね?」


 平静を失いかけながらも、ホノカは頭の中の情報から言葉をひねり出す。

 時空間を停止する膜により、搭乗者の死を回避するシステム、クロノス・フィールド。

 たとえ機体ごと両断されても、コックピットブロックだけは残り、味方に回収されるまでの間は安全が保証される。

 そのために各機体の中には遭難時用の水や食料が数カ月分用意されている。

 事実、先程の戦場後にはラドクリフやレオン達が撃墜した機体のコックピットが、まだ浮いている。


 そのような仕組みがあるにも関わらず、行方不明になるのは不自然だ。

 ホノカはそう考えていた。

 しかし、その論理は副長カドラの言葉によって否定される。


「確かにクロノス・フィールドはコックピットを守る自動装置だけどね。戦闘不能だがコックピットにダメージを加えられていない……そんな絶妙なダメージを負った際は、機体ごと連れ去られる可能性があるんだ」

「ということは……華世とウィルさんは生きている?」

「連れ去られた先で危害を加えられていなければ、だけどね」


 生存の可能性の大きさに安堵する一方で、敵の手に落ちた華世たちの無事という新たな心配事が生まれる。

 ただでさえホノカは、敵として戦った相手が親類だったという衝撃の後である。

 内に秘めた事実を口に出せないまま、戦いの傷も癒えきらない〈アルテミス〉は、次の目的地コロニー・バーザンの目前まで進んでいた。


 


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


        第24話「愛が為に」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 【1】


 コンクリートむき出しの冷たい壁に囲まれた、薄暗い独房の中。

 明かりと呼べるものは格子の向こうの廊下からの光しかない場所で、華世は両手を壁から下がった鎖で繋がれていた。


 いつの間にか着せられていた、真っ白なロングスカートのドレス。

 最初は純白だったそれも、染み込んだ汗や体液で汚れ、原初の美しさは無くなっていた。


 身動きの取れない華世の前にいるのは、ジャヴ・エリンを名乗る青年。

 レッド・ジャケットの制服を着た彼は、もう何度目かもわからない質問を華世へと投げかける。


「さぁ、そろそろ白状したらどうですか? “CAB-ボックス”はどこにあるんですか? その正体は何なんですか?」

「だから……知らないって……、言ってる……でしょ……!」


「やれ!」

「はっ!」


 エリンの指示を受けたレッド・ジャケットの兵士が、華世の正面にある装置のスイッチを入れる。

 ブゥン……という低い駆動音と共に、華世の全身に走り始める激痛。

 外側からではない、例えるなら激しい頭痛の様な痛みが全身から響く。


「うあぁぁぁっ!? がぁぁぁっ!!?」


 そんな痛みに、華世も耐えられずに苦悶の声を上げてしまう。

 外傷を与えない、キレイな拷問。

 そう謳われている装置による苦痛は、痛みを加えられる当事者にとっては綺麗も汚いも関係なかった。


 痛みによって吹き出した汗と、肌という肌から漏れ出した体液が水音と共に床を濡らす。

 今日だけの拷問で、すでに大きな水たまりが出来上がっている。

 これまで気合で保ってきた意識がふっと薄れゆき、視界が真っ黒に染まり上がった。


「気を失いましたか……。次は三時間後に来ます。大元帥の娘で人間兵器がCAB-ボックスを知らないなど有り得ませんからね。それまでによく思い出しておきなさい」


 ガラガラと拷問装置の車輪を転がす音の後に、ガシャンと格子の扉が閉まる音。

 額に浮かんだ汗を拭うこともできず、華世は訪れた僅かな安息にフゥと大きなため息をついた。

 視線を右腕の方へと移し、人工皮膚が剥がされた義手を見て惨状を把握する。


(ご丁寧に義手からは武器と変身ステッキは外されてる……。義足は日常用のは武装なし。けど……)


 生身の方の目を閉じ、義眼のみの視界でシステムチェック。

 風景の中に表示されたログから、すべての機能がオンラインという結果を読み取った。


(目ン玉を引っこ抜くような真似をされなかったのは幸いだったわね。やろうと思えば鎖を切って脱走はできる。けど……問題はタイミングよね)


 脱獄する方法はあっても、今の華世は変身できないことも含めて丸腰である。

 下手に逃げ出しても、勝手のわからない敵施設内では武装した兵士を撒くこともできないだろう。

 万が一にでもステッキを取り返して脱出できたとしても、外が宇宙……つまりここが宇宙要塞か何かだったらアウト。

 キャリーフレームの操縦ができない華世は、機体に乗ってくる追手を振り切ることはできない。


 敵もバカではないから、一度脱走を許したら義眼は使わせてもらえなくなるに違いない。

 ステッキのありか、逃走経路、脱出の足……その全てがはっきりするまでは、身動きはできない。

 一度きりのチャンスを掴むためにも、今の華世にできることは意味不明の質問とともに行われる拷問を耐えることだけ。


(CAB-ボックスって……何なのかしら)


 今までの人生……沈黙の春事件で失った事件以前の記憶を入れなければ一度も聞いたことのない単語。

 口ぶりからするとレッド・ジャケット……あるいはその雇い主かつ同志のV.O.軍が求める何かであろうことは予想ができる。

 そして、それが大元帥であり華世の伯父・アーダルベルトにまつわるものであるという事も。


 しかし、それ以上に得られる情報は、恐らく華世もエリンたちも持っていないのだろう。


(CAB……CAはコロニー・アーミィだとしてBは何……? ボックスと後についているから……Bボックス? バック、ブラック、バスター……何が入っても何にでも捉えられる、わ……ね……ふわぁ……)


 痺れるような痛みの後遺症が取れゆく中、華世の意識は疲れによって招き寄せられた眠気によって、奪われていった。



    ───Bパートへ続く

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