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第23話「交錯する宇宙」【Gパート フルーレの猛襲】

 【7】


 追尾してくる光線の間をくぐり、機体を回転させながら回避に徹する。

 そうしているうちにも後方から同じ速度で追ってくる〈ニルヴァーナ〉に、ウィルは完全に後ろを取られていた。


 危険を承知で変形しつつのブーストをかけ、変則的な機動でブレーキをかける。

 そのまま上方へ飛び退けば敵が勝手に追い越す形で背後を取れる、そう踏んでいた。

 

「引き剥がせないっ!?」


 追い越した瞬間に同様の変形で速度を落とし、同時に反転して鋭い鉤爪を向ける〈ニルヴァーナ〉。

 ウィルは咄嗟にビーム・セイバーを抜き斬撃を受け止め、爪と剣で鍔迫り合いの格好になった。

 バチバチと、ビームの刃とビームコーティングされた鉤爪が反発しあい、激しいスパーク。

 そんな中でも、通信越しにフルーラの声がコックピットへと響き渡る。


『ほんとあんたって、おバカさんよね! あんたが居ない一年の間にねぇっ! 私はあんたのマニューバ・テクニックを全部マスターしたのよっ!』

「フルーレ・フルーラ……その執念を俺に向ける理由は何だっ!」

『レッド・ジャケットを裏切って、女連れで飛ぶようなあんたに……負けられないのよぉっ!!』


 もう片方の鉤爪が振りかぶられると同時に上方へと跳ね、同時に変形しつつ〈ニルヴァーナ〉へとビームを数発。

 その全てを鉤爪で切り払った敵機は、再び戦闘機に変形し元のドッグファイトの構図へと戻される。


「ウィル……あんた、レッド・ジャケットだったんだ」

「ああ……軽蔑するかい?」

「あんたの心は知ってるつもりだから責めはしないわ。けど、あのフルーラって娘の執着心、ただ事じゃないわよ」

「……わかっているよ。だけど!」


 華世との言葉を交わしつつ、後方から放たれるレーザー光線を回避。

 敵に性能で上回られ、腕が同等な以上はウィルの勝ち目は薄い。

 長期戦は不利を少しずつ拡大させ、やがて敗北へとつながる。


(華世に手伝ってもらえば、打開できるだろうけど……!)


 可能ならば、接敵する前に華世を出しておくべきだった。

 そうしなかった、できなかったのは突然の遭遇戦だったのもある。

 それ以上に〈エルフィスニルファ〉に匹敵する運動性と、ウィルに等しい技量のパイロットとの対峙を想定していなかった。

 そのどちらかが欠けてさえいれば、隙を見てコックピットハッチを一瞬開けるくらいはできる。

 それをさせないことがフルーラの強さであり、ウィルにとっては危機だった。


「くっ……!」


 なんとか不意を付こうと、ビーム・ダガー・ブーメランを放つ。

 射出され、回転するビームの短刀が円を描き後方へと走り〈ニルヴァーナ〉を捉える。

 けれども不意打ち気味に出した攻撃でさえも、変形マニューバーからの射撃で迎撃。

 弾かれたナイフは帰還システムに則り、ニルファの腰へと舞い戻る。


 通信を聞く限り、他の仲間は見えない敵との交戦中。

 援軍は望めず、頼れるものは己の腕のみ。

 激しい攻撃と追跡をするフルーラを、兎にも角にも引き剥がさなければ、活路は開けそうにない。


「ぐぅっ!?」

「また当たった!? 早くあたしを出しなさいよ!」

「左ウィング破損……! 駄目だ、こんな高速機動中に出したら、君の無事を保証できない!」

「でも、やらなきゃこのまま……!」

「守ると言った手前……危険には晒せないんだっ!」


『お熱いやり取りだこと! けどねっ!』


 ビービーという警告音にレーダーを見ると、ミサイルと思しき熱源反応多数。

 素早いレーザーとやや遅めのミサイル。

 速度差のある2つの攻撃の重ね合わせは、まともに回避するのは不可能に近い。


 レバーを倒し、ペダルを踏む足に力を込める。

 進行方向の直上へとベクトルを急転換しながらの変形。

 追尾のために大きく弧を描くミサイル群へと、頭部バルカンを掃射する。


「一つでも多く……落ちてくれっ!」


 乱れ打たれた弾丸の雨に、次々と爆炎に消える弾頭の数々。

 その中を掻い潜ってきたミサイルが、ウィル目掛けて煙の尾を引く。

 変形、再変形、からのビーム・セイバー。

 不規則極まりない直角運動を連続させながら、喰らいつかんとするミサイルをなんとか切り裂き、爆散させる。


「よし……! 処理しきった今なら、華世を……なっ!?」


 ミサイルを処理しきり、ひと安心した一瞬の油断。

 ウィルの目に映ったのは、機首部分から太い槍状のビームを伸ばし加速する〈ニルヴァーナ〉の姿。

 キャリーフレームの全重量を載せた一撃は、受け止めようがない。

 それでも変形も回避も間に合わない〈エルフィスニルファ〉には、ビーム・セイバーで受け止める以外の手立てはなかった。


「ぐぅっ……ああっ!!」


 突進力が加わった鋭い突き。

 出力でも速度でもパワーでも負けているウィルには防げるはずもなく、無慈悲に弾かれマニピュレータを離れる光の剣。

 眼前で変形し、両手のレーザー砲の銃口を見せつけるように見せる〈ニルヴァーナ〉。


ったぁっっっ!!』


 歓喜に溢れるフルーラの声を聞きながら、ウィルの視界はホワイト・アウトした。

 自身の乗る〈エルフィスニルファ〉が爆発する音とともに。


 

 ──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.23

【ザンドール(ネメシス傭兵団仕様)】

全高:8.4メートル

重量:10.4トン


 ネメシス傭兵団が運用するザンドール。

 コロニー・アーミィが運用する緑色の装甲色とは違い、水色の塗装が施されている。

 装備に関しては民間でも補給が容易い一般的なビーム・ライフルとビーム・セイバーを用いられている。



【ブレイド・ザンドール】

全高:8.4メートル

重量:11.2トン


 ネメシス傭兵団のザンドール部隊長・ラドクリフが搭乗する指揮官機ザンドール。

 腕や脚部などが格闘戦向きの頑強な部品で構成されており、ラドクリフの技量もあり文字通り敵の戦列を切り崩す役割を担えるようにカスタマイズされている。

 ブレイドという名前は刀による格闘戦の他、額から斜め後ろに向けてまっすぐ突き出した隊長機特有の大型ブレードアンテナの2つが由来となっている。

 カラーリングがネメシス傭兵団のチームカラーであるライトブルーに塗装されている。

 武器としては手甲部分に着けられた固定兵装、三連装マシンガン。

 両肩の内側に備え付けられたビーム・ショート・ガン。

 他には名前の由来にもなっている、ビーム兵器を弾くコーティング加工がされた、光学斥層斬機刀を腰部に装備している。

 この刀にはビームを弾くコーティングが施されており、ビーム・セイバーとの鍔迫り合いや、敵の放ったビーム弾を弾くことができる。



【バジ・ガレッティ】

全高:7.8メートル

重量:9.3トン


 ドラクル隊仕様のガレッティ。

 暗い藍色の機体色に真っ赤なバリア・ジャケット装甲は他のドラクル隊機体と共通している。

 エリート部隊であるドラクル隊仕様には格闘戦用のビーム・セイバーも搭載されている。



【ニルヴァーナ】

全高:8.1メートル

重量:4.0トン


 クレッセント社がエルフィスニルファの運用データを元に完成させた、エース向けの高性能可変量産機。

 エースパイロットレベルの操縦の中では、武器の持ち替えという隙が生まれる行動が無駄と判断された。

 そのため手の部分に追尾光線銃チェイス・レーザーと鉤爪メタル・クローを一体化させることで、手の役割を廃する代わりに戦闘に特化した作りへと変えられた。

 また、変形時の機体後方にはオプション兵装としてマイクロミサイルポッド。

 機首にあたる部分には高出力ビーム砲とも巨大ビーム・セイバーとも使い分けできるノーズ・ランサーが装備されている。

 可変機特有の突進力が乗せられたノーズ・ランサー突撃は、並以上のキャリーフレームであっても防御・回避は困難である。


 【次回予告】

 

 フルーレ・フルーラによってレッド・ジャケットの手に堕ちた華世とウィル。

 度重なる拷問に苦しみの声を上げる華世の前に、オリヴァーが甘い誘いをかける。

 その同じ時、フルーレもまたウィルへと取引を持ちかけるのだった。


 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第24話「愛が為に」


 ────愛の裏の憎しみが、人を狂気へ駆り立てる。

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