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第23話「交錯する宇宙」【Fパート 姿なき敵】

 【6】


「このっ! ヒート・ウェイブ!!」


 搭乗する〈オルタナティブ〉の盾を正面に構え、表面が展開され顕になった放熱ユニットを敵に向けるホノカ。

 赤い輝きを放つ盾表面から、大熱量が光となって宇宙を走る。

 けれども甘い狙いは直撃へと繋がらず、接近しようとする敵を追い払うにとどまった。


「はぁ……はぁ……! フェアリィ、状況は!」

『敵軍損耗率2%。現在ウィル機が高速機と交戦中』

「ウィルさんと華世が危ない……!?」

『警告、高熱源接近。方向、不明』

「熱源? きゃあっ!?」


 警報の鳴り止まぬ前に、ホノカは機体全体の振動に思わず悲鳴を上げる。

 急いでダメージのチェック。

 咄嗟にペダルを踏んだのが幸いしたのか、機体肩部の表面装甲に傷が入った程度だった。


『うおっ! 何かに攻撃されてる!?』

『レオン少尉、何かって何!?』

『ホノカ、気をつけろ! 恐らく〈アルテミス〉のエンジンをやった奴だ!』


 次々と入る仲間の報告に、冷たい汗が頬を伝う。

 目に見えない敵。

 殺意を持って近づくその存在に、恐怖が体を縛るように固めてしまっていた。


「ど、どうすれば……!」

『熱源接近』

「とにかく、かわさなきゃっ!」


 シミュレーションで訓練した回避運動。

 目に見えない敵へとデタラメに、その場を上下左右に機体を動かす。

 ガクガクと揺れる外の光景。

 一端に映る星々の光。

 そこ輝きが不規則に動いた一瞬に、ホノカは気がついた。


「そこっ!?」


 反射的に抜いた実体剣「フレイム・エッジ」の赤熱した刃が、何かを切り裂く。

 黒い四角からはみ出るように飛び出した、装甲片。

 外を映すモニターの一部がノイズを発し、その奥から白い機体が姿を表した。


『機体識別成功。機体名〈エルフィスアヴニール〉』

「〈エルフィスアヴニール〉!? あっ!」 


 名前の意味を考えようとした一瞬の内に、再び姿を消す〈エルフィスアヴニール〉。

 ホノカは再び回避運動をしながら、母艦〈アルテミス〉へと回線を繋いだ。


「艦長さん! フェアリィが見えない敵の名前を特定しました! 〈エルフィスアヴニール〉って、何かわかりますか!」

『アヴニール……副長、覚えはあるか?』

『そうか、なるほどね。クレッセント社の資料で見たことがあるよ。開発中の電子戦機のコードネームが、アヴニールだった』

「電子戦機……?」

『キャリーフレームのコンピュータへ直接働きかけることで妨害を行う機体だ。なるほど……目に見えないわけだ』


 副長の話をまとめると、どうやら敵機体はレーダーに映らない構造をした上で、キャリーフレームや戦艦のモニターに偽の映像を送り込んでいるようだった。

 戦闘中は耐久に難がある窓越しに外を見ることなどまず無い。

 すなわち外はモニター越しにしか見ないのだが、その仕組みをついて映像にハッキングをかけて視認できなくしているのだという。


『各機へ通達! 敵機体は電子戦機だ! レーダーと視覚を当てにするな! 注意せよ!』

『視覚を当てにするなって言ってもよお!』

『感覚で撃ちまくるしかないのぉ!?』


(映像が当てにできない……? もしかして!)


 ピンと来たひらめきに、ホノカは自分の着ているパイロットスーツがちゃんと密閉されていることを確認する。

 ひとつ、ふたつ深呼吸し、ロックを操作してコックピットハッチを開放。

 すぐ正面を盾でガードさせながら、身を乗り出して左右を見渡す。

 暗黒空間の〈アルテミス〉の放つ対空弾幕が流れる中に、たしかに〈エルフィスアヴニール〉の白い機影が見えた。


『ハッチが開放されています。危険です』

「間違いない、肉眼なら見える……! だったら!」


 シートの背もたれに背中をぶつける勢いで腰を降ろし直し、ハッチを開けたままペダルを踏み込むホノカ。

 加速のGで体が後ろに引っ張られる感覚に苛まれながら、正面に敵機を捕捉。

 震える手で握るレバーを、思いっきり押し捻る。


(一発でも打たれたら死んじゃう……だけど、こんなことできるのは私くらいだから……!)


 ラドクリフ隊長に言われた「自分らしさを出す」という言葉を思い出す。

 経験でも技量でも劣るホノカが、他のパイロットより秀でていること。

 それは、魔法少女に変身できるという能力そのものだった。


「覚悟ォーーっ!!」


 右腕のガトリング・ウォッチの銃口を前へと突き出し、発射。

 レオン機へと組み付こうとしていた〈エルフィスアヴニール〉が、回避のために後方へと飛び退く。


「速い……! けど格闘戦に持ち込めば!」


 肉眼で見える機影を見失わないように正面に捉えつつ、コンソールを操作し使用火器を変更。

 背部の砲身ユニット〈フレア・ランチャー〉が持ち上がり、トリガーの押し込みとともに炎を放ち唸り声を上げる。

 飛び出した無数の火球が、敵の進行方向を塞ぐように拡散。

 回避方向を変えようとスピードを落とした一瞬の隙に、ホノカはペダルを全力で踏みつける。


「走って、〈エルフィスオルタナティブ〉!!」


 ぐんぐんと加速し、近づいてくる〈エルフィスアヴニール〉。

 その左手が構えたビーム・セイバーを受け止めるように、右腕で敵の腕を掴む。

 反撃にと振りかぶられた右腕も掴み止め、互いに機体の両腕をつかみ合う形で膠着。

 けれどもホノカにだけ、その状態でも打てる手があった。


「ドリーム・チェェェェンジッ!!」


 コックピットの中で変身し、パイロットシートを蹴って宇宙へと飛び出す。

 身体全体が機体を離れたところで、背後を爆破して加速。

 魔法少女パワーで敵のコックピットハッチへと突っ込み、熱した機械篭手ガントレットの拳を〈エルフィスアヴニール〉へと押し付ける。


「いっけぇぇぇっ!!」


 密着して送り込まれる熱量に、コックピットハッチが歪み始める。

 このまま攻撃を続ければ、パイロット保護のための「クロノス・フィールド」が発動するはず。

 フィールドが展開されると、コックピットは外界との関わりの一切を断つ。

 それすなわち、外へと操縦の信号を送ることもできなくなり、戦闘不能に陥るのだ。

 ホノカは、それを狙っていた。


 狙っていたのだが。


『ホノカ……お姉ちゃん……!?』


 密着させた機械篭手ガントレットを通して、機体から聞こえてきた女の子の声。

 聞き覚えがありすぎる声に、ハッと無意識に攻撃を止めてしまい、後方へと退く。

 ホノカの目の前で開く〈エルフィスアヴニール〉のコックピットハッチ。

 その奥に座っていた少女の姿に、ホノカは目を見開いた。


(そんな、どうしてラヤが……!?)


 ラヤ・クレイア。

 彼女はホノカが仕送りしている生まれ育ったクレイア修道院で暮らしていた、孤児の一人。

 いつもホノカに懐き、子どもたちの中でもホノカに近い年齢だったため共に年少の子たちの世話をしていた女の子。

 幼い子達に優しい微笑みを送っていた彼女が今、目の前にいる。

 キャリーフレームのコックピットに座って、ホノカたちへと攻撃していた。

 その事実に言葉を失うホノカへと、ラヤはヘルメットのバイザー越しに涙目を見せる。


『ホノカお姉ちゃんが、どうしてアーミィに……!』


 その言葉に、反論をしたかった。

 けれども魔法少女の身一つのホノカには、宇宙空間で音を伝える術はなかった。

 無慈悲に閉じられる、コックピットハッチ。

 ホノカが〈オルタナティブ〉のパイロットシートへと戻る頃には、拘束を逃れたラヤの機体は敵母艦の方向へと飛び去ったあとだった。


「……ドリーム・エンド」


 変身を解除し、元のパイロットスーツ姿へと戻る。

 一息ついてからコンソールを操作しハッチを閉じ、通信を繋ぐ。


「こちらホノカ……電子戦機の撤退を確認……」

『よくやった。これで敵は攻め手を失ったはずだ。直ちに帰投し本艦の護衛に当たれ』

「了……解」


 通信を切ってから、コンソールに拳を叩きつけるホノカ。

 無意識のうちに、敵……という言葉に歯ぎしりを立てていた。


「ラヤは敵じゃない……ラヤは……私の……」


 敵として表れた家族の姿。

 その光景を現実だと認めたくないと、思いながら。




    ───Gパートへ続く

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