第23話「交錯する宇宙」【Eパート 迎撃戦】
【5】
レーダーに目をやり、敵がこちらと同様に母艦を守るような布陣をしていることを確認するラドクリフ。
敵に道の策がある以上は、持久戦は避けねばならない。
そう判断したラドクリフは、隊長として味方への通信回線を開き声を張り上げた。
「ザンドール隊は、艦から離れず距離を維持! 俺とホノカで連中の陣形に穴をあける! アーミィのゲスト連中も暇と自信があるならついてこい!」
『ラッド隊長、りょ……了解です!』
『よっしゃ、突撃だぜ!』
『ウィルきゅん、撃墜数は負けないからねっ!』
『は、はぁ……行きます!』
単機の性能に優れる、自機を含めた5機が敵からのビーム攻撃を掻い潜りつつ前進する。
母艦への直接攻撃を嫌った敵機の一部が、迎撃へとこちらへ接近する。
ライフルを構える前方の〈バジ・ガレッティ〉を対象に定めながら、ラドクリフはペダルを踏み込んだ。
「来やがったな、前掛け野郎! 俺の光学斥層斬機刀は、ビームセイバーほど甘くはないぜ!」
機体の腰部の鞘から、黒光りするキャリーフレーム用の刀を抜き、正面に向けて構えながら敵へと接近。
発射された敵のビーム弾を刀側面のコーティング部分で弾き肉薄。
操縦レバーを力いっぱい握り倒した。
「チェストォォォッ!!」
一瞬の袈裟斬りが〈バジ・ガレッティ〉の耐ビームジャケットをバターの様に切り裂く。
そのまますれ違いざまに刃を返し、背部のスラスター部分をまとめて薙ぎ払う。
刃の表面に付着したオイルを一振りで払い、鞘へと納刀。
同時に、前と後ろから2度の斬撃を受けた敵機が爆発。
敵が時間停止フィールドに守られた球場のコックピットブロックだけになったのを確認してから、ラドクリフは次の標的へとターゲットを切り替えた。
※ ※ ※
向かってくる〈バジ・ガレッティ〉へと照準を合わせ、〈ベロセルフィス〉の滑腔砲を発射するクリスティナ。
耐ビームに特化している敵機のジャケット装甲が、苦手な実弾の直撃を受けては後方へと下がる。
しかし、また後ろから無傷の敵が入れ代わり攻撃を仕掛けてくる。
「ちょっと、これじゃキリがないって! レオン、なんとかしてよ!」
『妹の見ている前だ。張り切らせてもらうぜ!』
隣の〈レオベロス〉がそう言うやいなや、宇宙空間だというのに4脚の獣形態へと変形。
頭部周りのビームタテガミを全開に唸らせ、吠えるように首をもたげた。
『雪ん中じゃ使えなかった必殺技だ! くらいやがれ、ハウリング・バースト!』
輝くタテガミ、それを発生させるビーム・ランサーの矛先が一斉に前方へと展開。
扇状に高出力で発射されたビームの波が固まっている敵機を包み込み、次々と爆発させる。
「やるぅ!」
『だろ! ……だがこいつは、エネルギーの消耗が激しいんだ。リチャージまで戦線維持はまかせたぜ!』
「待って、無責任ーーっ!!」
爆発の向こうから抜けてきた無傷の〈バジ・ガレッティ〉へと向けて、クリスティナは弱音とともに砲弾を発射した。
※ ※ ※
正面から接近しつつビーム・ライフルを放つ〈バジ・ガレッティ〉。
〈エルフィスニルファ〉を戦闘機形態へと変形させたウィルは、右へ左へと機体を揺さぶり、回避しつつ射撃を敵へと浴びせる。
放たれた光弾を耐ビーム性能の高いバリア・ジャケット装甲で受け止めた敵機は接近するウィル機を迎撃すべく、ビーム・セイバーを発振させる。
「格闘戦……! ならば、これでっ!」
振りかぶられたビーム・セイバーが〈エルフィスニルファ〉を捉える寸前に、変形命令を入力しつつペダルを踏み込むウィル。
戦闘機から人型へと移行する過程の脚部の動き。
的確なタイミングで噴射されたバーニア炎が敵の眼前で上へと機体をホップ。
そのまま頭上から背後へと回り込み、握ったビーム・セイバーが背中からバリア・ジャケットの間を走り〈バジ・ガレッティ〉を斬り抜ける。
続けざまに襲いかかってくる別の敵機。
発射されるビームを、ウィルは再度の変形からのキリモミ回転で回避。
その間隙をぬって、二本のビーム・ダガー・ブーメランを放つ。
そのうち片方が敵の手に持つビーム・ライフルの銃身を溶断。
被弾により暴発したライフルの爆発に〈バジ・ガレッティ〉が怯んでいる内に、もう一つのブーメランが機体頭部へと突き刺さる。
「とどめっ!!」
相手が仰け反った瞬間に反転し、戦闘機形態で一気に肉薄。
すれ違いざまに人型へと再変形し敵機の両腕をビーム・セイバーで切り裂き、〈バジ・ガレッティ〉をまた一機無力化する。
「やるわね、ウィル!」
「君が乗っているから、張り切ることだってできるよ!」
「ふふっ……ん? 次の敵が来るわ!」
「見たことのない戦闘機……? 新型キャリーフレームか!?」
モニターにアップで映された接近中の敵機体。
それはまるで、戦闘機形態に変形した〈エルフィスニルファ〉を思わせる姿をした可変キャリーフレームだった。
戦闘機ではない、と見抜けたのはひとえに明らかに腕部分になるであろう部位が確認されたためである。
けれどもその手に当たる部分には指の代わりに猛禽類のような鋭い爪が伸びており、手のひらに当たる部分も砲身の先にもみえる穴が空いていた。
『キャハハハっ!!』
「オープン回線で通信!? 誰だ!」
『ひどいじゃない、ウィリアム。私のことを忘れるなんてさっ!』
「その声……フルーレ・フルーラか!?」
『そう! この〈ニルヴァーナ〉であんたを狩り取ってやる者よ!』
高速で接近しながら、手の銃身から細長いレーザーを放つ〈ニルヴァーナ〉。
ウィルは戦闘機形態へと変形させ、その攻撃を回避しようとするもグニャリと曲がった光線が追いかけるように迫る。
「うああっ!?」
被弾の手応えにコンソールを確認。
右の翼に当たるプレート装甲の先端が、レーザーで焼き切られていた。
「当たったの!?」
「宇宙だから戦闘機動には問題ない……! けど〈ニルヴァーナ〉という名称といい、あれは……!!」
『そうよ、この子はそのニルヴァーナ・アルファの完成品! ウィリアム……今日こそ私の手で下してあげるわっ!』
───Fパートへ続く




