第23話「交錯する宇宙」【Dパート ひとときの憩い】
【4】
「……やった! フルハウス!」
「ああっ! わたくしはスリーカードでしたのに!」
「俺はツーペアだったよ。華世は?」
「またまたまたまた、役無しよ……」
艦の修理が終わるまでの待ち時間。
食事を終え雑務作業を済ませた華世たちは、空いた時間にホノカの部屋でポーカー勝負に明け暮れていた。
しかし……。
「強い役の狙い過ぎではありませんの?」
「あたしは堅実派よ。他がワンペア止まりのときに勝てるようにツーペア狙いをずっとしてるの」
「だけど……さっきからワンペアすらできてないじゃないか」
「そうなのよウィル……もう何戦したかわからないけど、手元で揃った試しすらないわ」
不思議と華世に配られるカードは、数字が揃わず記号もバラバラ。
挙げ句捨てて引き直しても、ペアの1つすら出来やしない。
ずっと一人で最下位にい続け、華世の心は完全にシラけきっていた。
「……そういえば、秋姉たちとババ抜きとかスゴロクとかしても、必ずあたしが負けてたのよね」
「もしかして、勝負事に対して逆の天賦の才があるのでは?」
「ギャンブルしたら人生終わりそう……」
「ホノカ、あたしはそんなのしないから安心しなさい……あら?」
プルルと呼び出しの電子音を鳴らすモニターのボタンを押し、通信を繋げる華世。
画面に映ったレオンの顔に、華世はしかめ面をした。
「何よ?」
『無愛想だな、お前。もうすぐ発進するから、戦闘要員は格納庫集合だとよ!』
「了解。みんな、行くわよ」
華世の呼びかけで片付けを始め、部屋を退出する準備を始める面々。
私物の入ったカバンを廊下から自室のベッドへと投げ入れた華世の肩を、ウィルがトントンとつついた。
「華世も出るのかい?」
「艦内待機しても、出るタイミングが無かったからね。あんたのエルフィスに同乗するわよ」
「それは、嬉しいけど……」
「何よ。あたし一人守れる自信もないわけ?」
「守ってやるともさ。俺は華世を惚れさせるんだから……!」
「期待してるわよ!」
※ ※ ※
「艦長ぉ! キャリーフレーム以下、戦闘要員の準備、整いましたって!」
「よし。メインエンジン、始動!」
「メインエンジン、始動します!」
艦長・深雪が飛ばした指示の通りに動力が息を吹き返し、微細な振動が艦全体を震わせる。
戦艦〈アルテミス〉の発進シークエンスが進む中、副長カドラがサングラス越しに眼差しを向けた。
「敵の攻撃の正体については不明なままだけど……大丈夫なのかい?」
「フィールドと損傷の具合から、相手は補足されずに接近したとみえる。対空砲火を密にしキャリーフレーム隊で敵を足止めしていれば、取り付かれるのだけは防げるはず……」
「根本的な解決にはならないように聞こえるけどね」
「敵に対しての情報が少なすぎるからな。あとは出たとこ勝負で対策を講じるしかない。優秀なクルーたちならば、それが出来ると信じている……発進させろ!」
「わかった、これ以上は言わないよ。ブリッジ・シールド降ろせ、〈アルテミス〉発進!」
艦橋の窓の外側が防護シャッターで塞がれ、同時に窓代わりのディスプレイに正面の風景が映し出される。
スペース・オアシスのドックを外界から遮断する巨大な扉が横へとスライド。
遠くに金星が見える宇宙へと向けて、〈アルテミス〉が前進を始めた。
「エンジンの出力良好! 艦長、まもなくオアシス周辺の戦闘禁止領域を抜けます!」
「レーダーに感! 識別……レッド・ジャケット!」
「キャリーフレーム隊を出撃させろ! 対空砲撃開始! 味方に当てるなよ!」
「対空砲、オート識別をオンにし稼働開始! キャリーフレーム隊、発進してください!」
『了解、〈ブレイド・ザンドール〉ラドクリフ! 行くぜっ!』
『〈エルフィスオルタナティブ〉ホノカ・クレイア! 行きます!』
『〈エルフィスニルファ〉ウィル! 出ます!』
ユウナの指示を受け、次々とパイロット達の発進確認が聞こえてくる。
ラドクリフ率いる〈ザンドール〉隊が艦のやや前方に展開し、直掩へ。
性能に優れるエルフィス隊は、敵エース機が接近次第、個別に迎撃。
用兵の基本体制は整えられた。しかし……。
(目に見えぬ敵……。そのカラクリを見抜けなければ、危ないが……!)
───Eパートへ続く




