表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/321

第23話「交錯する宇宙」【Bパート 狙う女たち】

 【2】


「オリヴァー兄さん、あれはあなたの差し金ではありませんかっ!?」

『差し金とは心外だよ、ジャヴ・エリン。君のかんばしくない戦績を憂慮しての、支援と言ってほしい』


 レッド・ジャケット艦艇ペスカトーレ級3番艦〈シューリンプ〉の通信室で、マイクに向かって声を上げるエリン。

 けれども画面の向こうにいるオリヴァー・ブラウニンガーは涼しい顔で言い返した。


『我がクレッセント社との繋がり深いレッド・ジャケット。そのドラクル隊の舎弟しゃていの名誉を潰すほど、僕は非道では無いつもりだ』

「ですが、なぜよりによってあの女を……!」


「ほーんと、手柄ばっかり意識しちゃってさ。あんたっておバカさんよねぇ」


 背後の扉が開くとともに発されるかんに障る高い声。

 ドラクル隊のユニフォームを着た少女が、カールを巻いた若葉色のくせっ毛を指で回しながら小馬鹿にしたような目でエリンを見下していた。


「フルーレ・フルーラ……!」

「そんな怖い顔で睨むことないじゃない? あっ、オリヴァーお兄様だ!」

「のわっ!?」


 スキップ混じりの歩みでエリンを押しのけ、通信機を専有するフルーレ。

 彼女はニッコリと明るい笑顔をカメラに向け、画面の向こうの兄貴分へと愛嬌を振りまきつつ、片側だけ結ったおさげをフリフリと揺らす。


『フルーレ・フルーラ、僕が与えた戦力は役に立ったかい?』

「はい、それはもうマシンもパイロットも最高って感じ! 特にあの子は、さすがグラフトシステムって感じですぅ!」

「あの子? 何の話だ?」

「そこの扉の陰に隠れてるヤツよ。ほら、ラヤ……スポンサー様に挨拶くらいしなさい」


 フルーレが指差した先には、いかにも気の弱そうな、おとなしいという言葉が形になったような女の子が立っていた。

 10代前半のフルーレよりも、更に一回り幼い外見。


「ラヤです、どうもです……」


 画面に向けて一礼し、そそくさとフルーレの背中に隠れた彼女。

 エリンは、このオドオドとした少女がとてもキャリーフレームを操縦できるようには見えなかった。



『作戦が難航するようなら追加の派遣も準備している。たが、ターゲットの艦には僕の愛しい娘も乗っているからね、はしゃぎすぎて沈めないようにしてくれたまえよ』

「わかってますって! それじゃあお兄様、吉報を期待しておいてくださいませっ!」


 猫なで声での通信を終え、スッと笑顔から真顔に戻るフルーレ。

 勝手にオリヴァーとの通信を切られたのもそうだが、なぜか主導権を握っている彼女の態度にエリンの苛立ちは高まっていくばかりだった。


「調子に乗るんじゃないよ、小娘どもが。僕の獲物を横取りしようと企てたところで……」

「獲物、獲物って、そんなに手柄が欲しいならくれてあげるわよ」

「んん? ではお前は何を企んでいるんだ?」

「私のターゲットはただ一つ……フフッ」


 不敵な笑みを浮かべながら、録画された映像データを再生するフルーレ。

 それに映るのは、コロニー・ウィンターにいる間者が撮影した、ツクモロズと空中戦をする一機のキャリーフレーム。

 その機体が行う妙な動きに彼女の口元が緩みながらも、その目尻はつり上がっていく。


「ウィリアム、あなただけは私の手で……アハハッ………!」



 ※ ※ ※



「ウィルきゅん、どうしたの?」

「な、なんか寒気が……」


 艦から降りるタラップを離れスペース・オアシスへと足を踏み入れながら、ウィルは急に感じた背筋の緊張感に思わず身を震わせた。

 誰かが噂をしている……という予感なのかもしれない。

 しかし、そんなマンガのような感覚を気にしても仕方がないと、タラップを降りてきた華世の姿を見ながら忘れることにした。


「華世も来るんだ?」

「お嬢様の護衛ついでよ、ウィル。それよりも……こんなにゾロゾロと降りて大丈夫なの?」


 華世とリンとホノカの護衛トリオ、それからウィルとクリスティナ。

 他にもレオンとユウナの兄妹と、ザンドール隊からも何人か。

 かなりの大所帯が、すでにオアシスの奥へと向かっていったという。

 残ったのが艦長副長と、それから修理をする整備班だけと聞けば、華世が少し心配をするのも理解ができる。


「だいじょぶ、だいじょぶー! オート・ドックにいる限りは、V.O.軍もレッド・ジャケットも攻撃なんてできないから!」

「クリスティナさん、なぜですの?」

「こういう無人の補給施設って、全ての宇宙艦のためにあるの。それを攻撃して壊した日には、その勢力は太陽系の敵と言っても過言じゃなくなるってこと!」

「なるほどね。確かに見境なく公共施設を壊すようなやつがいたら、宇宙艦の運用なんてできないってわけか」


 宇宙という真空の空間は、空気とともにある生き物にとってはあまりにも過酷すぎる環境である。

 その危険な空間の中で、事故や戦闘で危機に陥ることだって少なくない。

 そういった状況でも安心して休める、どの勢力にも属さない人類共通の財産。

 それが、ここを始めとして宇宙各地に建てられたスペース・オアシスなのである。


「修理が終わって外に出たら、また戦闘かもしれないからね! それまでパイロットはゆっくりするんだ」

「……だ、そうで」

「そう。……そらにしてもクリスティナだっけ? いい加減ウィルから離れなさいよ」

「なぁに、妬いてるの?」

「そういうわけじゃないけど」

「否定しないでよ……」


 華世から真顔で無碍に扱われたウィルは、がっくりと肩を落とした。




    ───Cパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ