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第23話「交錯する宇宙」【Aパート パイロット・ホノカ】


『ホノカの嬢ちゃん、敵を一匹も通すんじゃないぜ!』

「は、はい!」


 警報が鳴ってスクランブル発進したのが5分前。


次のコロニーへと向かう巡礼の移動工程、その途中でホノカ達の乗る戦艦〈アルテミス〉はレッド・ジャケットの部隊による攻撃を受けていた。


 仕掛けてくるのは、暗い藍色の装甲に真っ赤なバリア・ジャケットを羽織った量産機〈バジ・ガレッティ〉。

 傭兵団レッド・ジャケットの象徴ともいえるカラーリングの機体に照準を合わせ、ホノカはパイロットスーツに通した手に力を込めた。


「当たってっ!」


 黒い〈オルタナティブ〉の右腕、その甲に装備されたガトリング・ウォッチが火を吹く。

 発射される弾丸に混じった曳光弾えいこうだんの光の尾を頼りに敵機へと射角を補正。

 装甲に弾が突き刺さる火花が敵から放たれるとともに、小さい爆発が起こった。


『敵機へと命中を確認。損傷機は撤退行動を開始しました』

「よ、よしっ……!」


 AI・フェアリィの報告を聞き、シミュレーター訓練の成果を実感するホノカ。

 機体性能の高さと支援AIの支援というゲタを履いてはいるものの、一人で敵一機を対処できるくらいには操縦技能が成長をしていた。

 ホノカが加えられた部隊の隊長機〈ブレイド・ザンドール〉


「ラッド隊長、敵が撤退していきます!」

『ようし、ザンドール隊は追撃を程々に引き上げだ。帰艦するぞ!』

「了解……あっ!」


 振り返った先に浮かぶ母艦〈アルテミス〉。

 その船尾にある巨大なメイン・ブースターが大きな爆発を起こした。

 けれどもその周囲に敵の姿はなく、レーダーにも反応は無し。

 見た目にはひとりでに起こった爆発に、ホノカの心拍数が一気に上がった。


「どうして……何でこんなにドキドキするの……!?」


 目の前で起こった状況に、なぜか激しくなる動悸へとホノカはうろたえる。

 理解できない感情に混乱の中、モニターに映ったノイズだけがやけに印象に残った。

 


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


      第23話「交錯する宇宙」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 【1】


「艦底の固定確認!」

「艦長! 〈アルテミス〉のスペース・オアシスへの停泊、完了しました!」

「よし、直ちにメイン・ブースターの修理を開始! 戦闘に出ていたパイロット達には休憩を命じさせろ!」

「はっ!」


 艦橋ブリッジの窓の外で閉じるシャッターを見ながら、艦長・深雪は訪れた平穏に胸をそっとなでおろす。

 コロニー・ウィンターを出発し、次の目的地へと向かう航路。

 アーミィが封鎖している最短経路に引っかからないように取った、金星からかなり離れた大回りのルートを進む途中で、〈アルテミス〉は再びレッド・ジャケットの襲撃を受けた。

 その襲撃そのものは小規模だったため、特に問題はない。

 しかし敵が撤退行動に移った頃合いに、突如として船尾のメイン・ブースターが損傷。

 推進装置にダメージを負ったまま旅を続けることもできず、最寄りの無人ドック──スペース・オアシスへと修理のために停泊したのだった。


「でも、ラッキーでしたね艦長ぉ。偶然近くにオアシスがあって」

「宇宙艦の不慮のトラブルに備えて作られた、くり抜いた小惑星の中に作られた無人停泊地。……けれどもユウナ、本当に偶然かしらね」

「どういうことですか?」

「艦長は敵の作戦ではないかと疑っているんだよ」


 この〈アルテミス〉を擁するネメシス級戦艦、その全てには歪曲フィールドという防御機構が設けられている。

 艦を包み読むように張られた透明なバリア・フィールド。

 その実は膜にも見える境界線上を無限長へと引き伸ばし、飛来する射撃の有効射程を空間内で使い切らせる……という形で軽減・無力化する時空間制御技術によって生み出された特殊な防御壁である。


「先の敵の襲撃……こちらを攻めるにしては、やや戦力が過小でした。ですがメイン・ブースターの損傷は、外部からの攻撃によるものだったと報告が来ているの」

「歪曲フィールドを抜けて攻撃されたってことですか?」

「キャリーフレーム大の大きさは止められないから……気が付かないうちに内側へと入り込まれていたのかもしれない。何にせよ推進機の修理が済むまで、敵に体勢を整える時間を与えてしまうわね」


 半日かあるいは数日になるかもしれない。

 修理が終わるまでにブースター損傷の謎を解かなくては、今度は敵に拿捕だほされる恐れもある。

 少なくとも中立の存在であるスペース・オアシスの中は攻撃される心配は無い。

 発進後の再びの襲撃に備えるためにも、パイロット達の疲れは取っておくに越したことはないのだ。



 ※ ※ ※



 ガヤガヤとメカニック達が、騒がしく走り回る格納庫。

 乗っていた〈エルフィスオルタナティブ〉のシャットダウン処理を済ませたホノカは、リフトに乗って華世たちが待つ床へと降り立った。


「見てたわよ。なかなか操縦もサマになってきたんじゃない?」

「そうかな……? そういえば、さっきの戦いのとき華世はどこにいたんです?」

「艦内待機。また丸ノコ野郎が出て迷惑かけるわけにもいかないからね」


 華世の言葉に、ホノカは巡礼の旅に出た初日のことを思い出す。

 敵の指揮官機が持っていた丸い回転ノコギリのような武器。

 その形状に故郷を奪われた際のトラウマを思い出した華世は怯え苦しみ、身動きが取れなくなった。

 あのときはホノカの出撃で事なきを得たが、再び同じ問題を再発させるわけにはいかない。

 そのための待機と聞けば、ホノカもはやし立てる言葉は口から出なかった。


 そんなことを考えていると、華世の後ろで彼女の袖を掴んでいたリン・クーロンが一歩前に出て口を開く。


「聞きました? 最低でも半日はここから動かないんですって」

「修理に時間がかかるんでしょ?」

「ですからわたくし……少しこの施設を見学したいなと思っておりますの」

「ここって……スペース・オアシスのことですか?」

「オアシスは宇宙を旅する人々の休憩所。けれどもわたくしは一度も見たことがありませんでした。せっかくですから、見聞を広めようと思っておりますの」


 リン・クーロンはコロニーを統べる領主の令嬢である。

 即ち、いずれは親のあとを継ぎ民のための指導者となる。

 そのためにも知見を広げよう……という彼女の考えは、とても立派だった。


「……いけませんか?」

「んなわけないでしょ。護衛サマとしては、ついて行かせてもらうだけよ。ねっ、ホノカ」

「えっ? そう、そうですね!」


 急に話を振られて狼狽えながらも、ホノカはリンへの同行に了承をした。




    ───Bパートへ続く

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