第22話「仮面に眠る過去」【Hパート 咲良の奮戦】
【8】
放たれるビームの隙間を縫うようにバレルロールする咲良。
避けきれないいくつかの光弾が〈アークジエル〉の巨大な翼、その表面を包み込むビーム・フィールドに当たり、ビシャウと弾けるような音を出す。
『被弾回数に注意してください。ビーム・フィールドのエネルギー消費は大きいんですから』
「そうは言っても、こうもキャリーフレームよりも大きくっちゃ……!」
「咲良お姉さん、私も戦います!」
「杏ちゃんはダメ、まだ……その時じゃないから」
そう言いながらも、咲良の内心では杏を出さない気でいた。
自分の手の届く範囲でくらい、子供の手を借りずに戦い抜く。
それが大人でありアーミィの一員たる者の義務だと、そう思ったから。
けれども、その志をあざ笑うかのように事態は変化する。
『敵フォーメーションが変わりました。立体的に囲まれています』
「囲まれた……!」
一機でも速やかに落とさなければ、と思いつつも市街地の上空で爆散をさせることはできない。
民間人への被害を意識したその少しの間が、敵のアクションを許してしまう。
咲良機の周囲を取り囲んだ〈ガレッティ〉から、細いワイヤーが放たれ〈アークジエル〉へと伸びる。
先端に重りのついたような細い紐が触れた瞬間、ビーム・フィールドが激しくバチバチと音を立てて暴れだした。
「何が……何をされているのっ!」
『エネルギー残量大幅低下。フィールド生成エネルギーを漏電させられています。危険域突入』
「フィールドをオフに! でもそうすると被弾したら……杏ちゃん!?」
判断を迷っている隙に、パイロットシートの底に付いているスイッチに潜り込んで勝手に操作をする杏。
緊急用開放レバーによって開かれたハッチの隙間から、何も言わずに杏か飛び降りる。
「ドリーム・チェンジ! マジカル・ビィィィムッ!!」
空中でまばゆい光に包まれたかと思うと、輝く翼をはためかせながら光の繭から白く輝くビームが飛び出した。
その光線は〈アークジエル〉を囲む敵の一機、その左肩を貫きワイヤーのフォーメーションを乱す。
コックピットハッチを閉め直す間に、画面でやかましかった警告音が静かになっていく。
『エネルギー漏電停止、フィールド再生成に成功しました』
「残り時間は僅か……一気に決めるしかないっ!」
咲良はコンソールを操作し、ミサイルコンテナの安全装置を解除する。
そして前方への加速、からの急制動による百八十度回転。
頭上に街の上部を見上げながら、思いっきりトリガーを引く。
「いっけぇぇっ!!」
コアユニットとなっている〈ジエル〉の両肩。
その後方に位置する場所から機械的なアームで持ち上げられる白く細長い巨大コンテナ。
その尾にバーニア炎を揺らめかせながら、〈アークジエル〉を離れたコンテナ。
巨大なミサイルにも見えるそれを見据えつつ、ビーム・フィールドの光がより一層激しく輝く。
「と・つ・げ・きだぁぁぁっ!!」
自分が放った攻撃を追いかけるようにスラスターを全開にする咲良。
人は巨大な物体が接近すると、思わず目が離せないものである。
突撃する〈アークジエル〉に注目する、それは離脱方向に向かって背を向けることに他ならない。
コンテナに満載されたミサイル。
その弾頭と火薬を飲み込むように〈アークジエル〉のビーム・フィールドがエネルギーを溢れんばかりに放出した。
輝く巨体を中心として起こる大爆発。
その爆風や爆炎から逃れそこねた〈ガレッティ〉は、受けた衝撃と熱量に空中で形状を大きく崩れさせ、致命傷に足りない程度の大打撃を受けていった。
バリア・フィールドで衝撃を吸収した無傷の〈アークジエル〉から、咲良は敵に向かって叫ぶ。
「そこまで傷を受ければ戦えないでしょう! あなた達の居場所に、帰って!!」
広域通信で放った言葉が、届いたかどうかはわからない。
けれども戦闘不能となった敵キャリーフレームたちは従うように個々がバラバラの場所へと降下。
大破したボディが空中からは見えないような場所へと入り込み、レーダーからも反応を消していった。
「すっごーいです! きれいな花火でしたよ、咲良お姉さん!」
「そ、そうだった……? 無事なら、よかったけど……」
空中で手を降る杏へとにこやかに笑顔を向けながら、咲良は様々な思いのこもった息を吐き出す。
それに含まれているのは、勝利への歓喜、無事に済んだことへの安堵、そして後悔と焦燥。
(また、魔法少女に頼ってしまった……)
借りまいと思った力なしには成し得なかった勝利。
己の力量不足が招いたことに、咲良はギュッと拳を握りしめる。
(もっと足りない……私にも、守るための力が……!!)
───Iパートへ続く




