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第22話「仮面に眠る過去」【Fパート 戦いの中へ】

 【6】


 咲良とウルク・ラーゼ支部長、それからももと結衣。

 魔法少女ふたりの保護者としてミイナと、彼女が連れてきた青いハムスター・ミュウ。

 格納庫の片隅でテーブルを囲む6人と、側で機体の発進準備に努めるEL(エル)

 それからこの場には居ないが、管制室でレーダー監視をしているチナミも含めれば8人。

 それがこの支部にいる、異常事態の中で動ける全員だった。


「つまり……ハムスター君。君はこの状況はツクモロズの手によるものだというのかね?」

「きっとそうミュ! 朝からずっと……魔法的な波動が頭に響いてるんだミュ」

「魔法的な波動と言われてもな……具体的には言い表せられないものか」


「もしかすると、ExG的な感能力に働きかける念波って奴じゃないかな?」


 手を上げて発言したのは、結衣。

 ExGとは宇宙に住む人間が年月とともに獲得する、脳の活性に伴う能力である。

 念波とは? と支部長が尋ねると、結衣は携帯電話で手早く検索し、その結果の一つをみんなに見せた。


「えっと……ExG能力を持つ人は、一人ひとりが例えるなら電波の受信周波数みたいなのを持ってて、広域に意思を語りかけることでみんなの頭の中にメッセージを送ることができる、らしいんです」

「なるほど、そのメッセージの部分を例えばとても強いノイズのような不快な音に換えて放射すれば、広範囲の人間に嫌がらせをすることができる……と。ミイナ嬢、なにか言いたげだな」

「はい。内宮さんが十年前にそういった念波兵器を受けたことがあると言ってました。その時もみんな頭を抱えて動けなくなったとか」


 念波兵器。

 対象があくまでも一定以上のExG能力を持っていること前提の兵器。

 一見不確実に見えるが、宇宙ぐらしが長く能力を否が応でも発動しているコロニー市民相手であれば、これほど効果的なものはない。


「それにしても、我々は早急にこの事態を収拾せねばならん。V.O.軍がこの状況で攻め込んでこられたら終わりだ」

「といっても、どうやって解決するんですか?」

「ハムスター君、どこから念波が来ているか、わかるかね?」

「ミュミュ……なんだかコロニーの中心線? のあたりから強い魔力を感じるミュ」

「念波という特性とその位置ならば、中央シャフト内の念波放送室サイキャスト。そこに敵が侵入している可能性が非常に高いな」


 念波放送室、と聞いて咲良はうっすらと思い出した。

 住民の大半がExG能力持ちであること前提のコロニー内で、すべての通信設備が断絶したとき用に特殊な施設が用意されていると。

 それが念波によって避難勧告や誘導をするための特殊施設サイキャスト。

 現在おそらくツクモロズに占拠されているそこを奪還すれば、コロニー中の人間が動けないという危機的状況を解決できる。

 それが支部長の出した結論だった。


『緊急連絡、緊急連絡! レーダーに感、コロニー6丁目より軍用キャリーフレームを6機確認! 支部に向かって接近中! 繰り返します、軍用キャリーフレーム6機接近中です!』


 放送スピーカーより響き渡るチナミの声。

 危惧していたことが起こったようで、支部長は遠くに居るEL(エル)を手で招き寄せた。


「君、発進の準備はできているか!」

「はい。〈前略ガルルグ以下略〉と〈アークジエル〉へのエス・アールバッテリーの交換は済んでいます。あとは私が〈アークジエル〉へと意識データを転送するだけです」

「……私の機体名を盛大に略したことは状況が状況故に大目に見よう。いいか葵曹長、君は〈アークジエル〉で敵を掃討したまえ!」

「ええっ、私ひとりでですか~っ!?」

「オーバーフレームならばできる! それにひとり……そうだな、桃色の魔法少女を直掩ちょくえんにつけろ」

ももちゃんを……? 結衣ちゃんはどうするんですか?」

「彼女にはキャリーフレームで中央シャフトを目指す私の護衛をさせる。サイキャストはその都合上、コロニーの管理者かアーミィの支部長クラスの権限がないと入ることはできんからな。出撃!」


 遠くの〈前略ガルルグ以下略〉に向かい走り始める支部長。

 咲良はデータ転送を終え虚ろな顔をしたEL(エル)のボディを椅子に腰掛けさせてから、ももを連れて〈アークジエル〉のもとへと移動。

 上からたらされたワイヤーリフトへと足をかけ、すでに火が灯っているコックピットへと乗り込んだ。


『咲良およびももの搭乗を確認。ハッチ閉鎖。チナミさん、発信準備完了しました』

『発進プロセスに従いゲート・オープンします。ウルク・ラーゼ支部長から発進を』

『了解した。〈ウルク・ラーゼ専用・先行量産試作型ガルルグMk-Ⅱ・δタイプ3号機・遠隔操作兵器試験装備ハイマニューバーカスタム・リペアード改・改改・高出力拡散ビーム・ブラスター装備〉発進する!』


 噛まずに長い名前を言い終えた支部長の乗る黒い機体が、バーニア炎の尾を引きながら開いたハッチを抜けて外へと飛び出す。

 咲良も天井に〈アークジエル〉の翼をぶつけないように前進し、入り口へと待機させる。


『葵曹長、発進してください!』

「わかった! 葵咲良、〈アークジエル〉行っきま~すッ!!」


 慣性制御システムでもカバーしきれない加速のGに、シートへと背中をぶつけながら格納庫を飛び出す〈アークジエル〉。

 中央シャフト目指して上昇する支部長機を尻目に、レーダーに映った敵の位置めがけて一直線に飛行する。


「すっごーい、早い! はやーい!」

ももちゃん、お願いだから静かにしてね?」


 はしゃぐももを落ち着かせながら、今回無事だったメンバーを改めて考える。

 念波の受信が人間由来のものであるならば、アンドロイドであるミイナ達が無事なのは自然だ。

 ミュウやももたち魔法少女は、ツクモロズの魔力……とやらに、耐性があると考えれば納得ができる。


(どうして私は……もしかして、紅葉が守ってくれたのかな)


 常に持ち歩いている、妹の形見。

 赤い宝玉、魔晶石が咲良を魔の手から守ってくれた。

 そう考えると、心が少し暖かくなるとともに1つの疑問が浮かぶ。


(支部長は、どうして……?)


 ビービーと、コックピット内に響く警報。

 気がつけば敵群を目視できる距離まで、〈アークジエル〉が近づいている。

 そのことをしらせる音が、咲良を思考の渦から現実へと引き戻した。

 ぐんぐんと迫る敵の編隊の中央へと、ビーム・フィールドを全開に突進する。


EL(エル)、敵の動きは!」

『こちらの接近に備え散開。機体照合……V.O.軍使用のキャリーフレーム〈ガレッティ〉です』

「やっぱりV.O.軍かぁ……マルチ・ロックオン! 一気に片付ける!」

『あ、エラーです。マルチロックオン機能、オフラインどころかOS内に未実装です』

「……なんで!?」




    ───Gパートへ続く

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