第22話「仮面に眠る過去」【Aパート 遠くに聞く戦火】
輝く閃光。
球状に広がり弾ける爆炎。
背後には戦火に燃ゆるベスパー・コロニーの街が、赤々と火柱を巻き上げていた。
「ちくしょう……V.O.軍の野郎! ぐあっ!?」
「フラム・ガウ、やられたのか! ええいっ……!」
眼前でビームを受け、衝撃で〈ザンク〉のコックピットから投げ出される友。
反射的に武器を投げ捨て、空いた機体の手でその身体を掴み受け止める。
同時に正面に見える敵へと引き金を引き、その機体を炎熱の中へと滅する。
「助かったぜ……ウルク!」
「フラム、無茶をするなと言っただろう! ここで貴様が死んでは、美月へ想いを伝える悲願を達成はできんぞ!」
「ああ……昨日テレビで見たあいつの姿、また美人になってたからな! ウルク、後ろだ!!」
「なにっ……!?」
振り返ろうとペダルを押した瞬間、光がウルク・ラーゼの視界を焼いた。
視界がホワイト・アウトすると同時に、レバー越しに指先へと伝わる、人間の肉と骨が砕け潰れる感触。
それが被弾の誤作動で友、フラム・ガウを握りつぶしてしまったものだと気がついたのは……。
※ ※ ※
「ううっ!? ぐっ……夢、か……」
暗闇が支配する部屋の中でベッドから跳ね起き、頬を垂れる汗を拭うウルク・ラーゼ。
最近は見ることのなかった過去の映像、それを映した悪夢の再来に、自らの額を殴りつける。
「あれから17年……フラムよ、私は……」
虚空へとつぶやくウルク。
けれどもその声を聞く者は、誰も居なかった。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第22話「仮面に眠る過去」
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【1】
「そろそろ、休憩にしましょうか!」
「「はーい!」」
美月の手を叩く音とともに素振りをやめ、竹刀にカバーを掛けてベンチに座る結衣と杏。
精神の鍛錬と体力づくりをメインにした訓練も、ふたりは数日でこなせるようになっていた。
これは女優業が本業とはいえ師範代の称号を持つ美月の指導が優れているためだろう。
魔法少女として戦えるようにと始めた修行は、ふたりに少しずつ自信をつけていっていた。
「お疲れさま。はい、運動の後のドリンクよ」
「ありがとう、美月さん!」
「うふふ、私としても二人とも飲み込みが早いから成長を見るの楽しませてもらってるから」
差し出された飲み物を一気に喉へと通し、疲れた体に浸透させる結衣。
そんな二人の元へと見知った顔が二人、こちらへと歩いてきた。
「おっ、頑張ってるみたいっすね」
「あっ、カズくん! ……と拓馬」
「姉さん……僕の顔見てなんで嫌そうなんですか」
「べつにー」
「聞いたッスよ。アーミィから表彰されたって」
「えへへー、そうなんです!」
にこやかに返す杏の顔を見ながら、そのことについて結衣は思い返す。
以前、ツクモロズ操るキャリーフレーム〈クアットロ〉と戦った後。
危険を顧みずに市民を守ったということで、結衣と杏はウルク・ラーゼ支部長から表彰された。
それすなわち、戦いが評価されたわけでもあり、これから同様のことが起こった際に期待されている。
そう感じた結衣は、あの時の自分の不甲斐なさもあって、よりいっそう訓練に力を入れていた。
「またツクモロズが現れたときのために、頑張らないとね杏ちゃん」
「はいです!」
「でも、V.O.軍が攻めてきた場合はダメよ。アーミィの人たちに任せないと」
「どうしてですか?」
「人同士が戦う戦争に、あなた達は巻き込まれるべきじゃない……そう思うから」
美月の言うことも、結衣は少しだけ理解はできる。
子供が戦争をするのは良くないこと。
その程度の認識でしかないけれども。
「それにしても美月先生、V.O.軍って言っても金星の人なんでしょう? どうして、ぶそーほーき? をしたんでしょう? 同じ金星の人なら、仲良くすればいいのに」
「えーと……」
杏の無垢な質問に、答えあぐねる美月。
結衣としても、実はいま現状金星がなぜ戦火に揺れているのか、よくわかっていない。
ただ、ニュースで遠くのコロニーで戦いが起こっている。
行ってしまえば、対岸の火事ていどの認識しかできていなかった。
「まあ、説明するとなると難しいッスよ。なにせ金星開拓の歴史から話さなきゃッスから」
「金星の歴史……カズくん、教えて?」
「いいッスけどうまく説明できるッスかね……えーっと、まず金星の開拓が始まったのは」
「それを言うなら、アフター・フューチャーの始まりから追ったほうが良いよ!」
「わっ!?」
突然、上から降ってきた少女の姿に、驚きのけ反る。
髪の毛に葉っぱと細い枝がくっついた姿の彼女は、前に一度だけ会った情報屋。
カズの幼馴染だという、如月菜乃羽だった。
「ナ、ナノ! どっから降って来たっすか!」
「どこって、木の上だよ!」
「なんでまたそんなところに……」
「情報屋として、色んな場所に潜伏して情報を集めないとだからね! それよりも金星の歴史、ボクなら詳しいからうまく語れるよ!」
ニコニコとした顔を向ける菜乃羽。
結衣はその笑顔の裏に潜むものを、静かに察していた。
「……その説明、いくらになる?」
「おっ、理解が早くて助かるなぁ! そうだね、特別価格で500くらいかな?」
「お金取るんですか!」
「情報は商品! 商品には対価! これが資本主義の鉄則だよ!」
「……そうですね、私も聞きたいし、私が払うわ」
そう言い、携帯電話を取り出す美月。
結衣としては申し訳無さ半分、お小遣いの大半が持っていかれなくて安心半分、という心境だった。
美月から菜乃羽へと電子マネーの決済が終わる音がなる。
その音色に満足そうな顔を浮かべた美月は、背中のリュックサックから白いボードを取り出し、側面についていたペンを握った。
「ではでは、こらからボクによる金星の歴史講座、はじまりはじまり~!」
───Bパートへ続く




