第21話「白銀の野に立つ巨影」【Fパート ヨルムンガンド作戦】
【6】
『ブリザード・ミスト解除! 吹雪があけるぞ、総員……心せよ!』
通信越しに聞こえてくるキリシャ支部長の声に、ウィルは操縦レバーを握る手に力が入る。
パイロットシート脇に座る華世も、魔法少女姿でじっと正面を見据えている。
うるさいくらいに雪を叩きつけていた強風が次第に止み、灰色の空が徐々に青みがかっていく。
視界が晴れ、周囲に布陣した味方機の陣容が見えてきた。
ズラリと雪原に並んだ、狗型キャリーフレーム〈ベロスⅡ〉。
その先陣にはクリス搭乗の〈ベロセルフィス〉と、レオン搭乗のベロセルフィスカスタム機〈レオベロス〉。
そして後方には控えとして、ホノカの〈オルタナティブ〉とネメシス傭兵団から出張してきた〈ザンドール〉軍団。
ウィンター中の戦力が一機のオーバーフレームと周囲を守るツクモロズ群を倒すために集まり、布陣していた。
『ベロス隊、しっかり坊やの為に道を開きな! オペレーション・ヨルムンガンド。開始っ!!』
『よっしゃぁ、いくぜ野郎どもぉぉぉっ!!』
『ウィルきゅんの翼は、私達がまもーーる!!』
一斉に駆動音を唸らせ、クリス機とレオン機を先頭に前進する〈ベロスⅡ〉軍団。
吹雪が完全に止んだことで敵側がこちらを視認したのか、雪煙を巻き上げながらメガジャンクルーも進攻を始める。
同時に〈ミョルニール〉が鎌首をもたげ、口を開いて内部のビーム砲に光を収束し始める。
『敵のビームが来るぞ! 総員回避運動! 同時にウィル機は飛翔開始!』
「了解!」
《キシャァァァッ!!》
耳をつんざく咆哮とともに放たれる光の激流。
狙われた〈ベロスⅡ〉たちは巧みに射角から安全位置へと移動し回避。
雪原を薙ぎ払う大熱量に発生する水蒸気爆発、舞い散り広がる純白のカーテン。
ウィルはその中へと〈エルフィスニルファ〉を飛び立たせ、戦闘機形態で一気に高度を確保。
正面に見える〈ミョルニール〉の頭上を目指し、スラスターを全開で噴射した。
『対空砲火が来るぞ! ベロス隊、翼を狙って砲撃をかけろ! 一つでも高射砲の意識を対地に向けさせるんだ!』
キリシャの号令で一斉に火砲を放つベロスたち。
ウィルの眼科で無数の砲弾が反射した光で軌道を描きながら次々と空を走り、着弾。
金属音を唸らせながら下ろした〈ミョルニール〉の左翼、その高射砲が雪原へと向けられる。
しかし、右翼は動かずそのまま。
次の瞬間、ニルファを狙って弾丸が宙へと放たれた。
「揺れるぞ、掴まって!」
「わかってるっての!」
ペダルに乗せた足の力を抜きつつ操縦レバーを押し倒す。
急降下からの急上昇、機体の回転をはさみつつ左右へ振らせ対空砲を回避する。
やがて弾丸の嵐が止む、と同時に眼前に爪を広げた〈プテラード〉が視界に入る。
「やらせるかぁっ!!」
変形を解除し空気圧のブレーキ。
落ちた速度で敵の格闘攻撃を空振らせるとともにビーム・セイバーを抜き、落下を伴った袈裟斬りをお見舞いする。
溶断面を顕にしながら落下する〈プテラード〉の奥から、口内を光らせた翼竜が三匹。
(……もう迷ってはいられない!)
再び戦闘機に変形しつつの脚部スラスター噴射。
空中でホップした真下に熱線の通過を見届けながら、2機のビーム・ブーメラン・ダガーを発射。
それぞれが一匹ずつ翼竜の背中を切り裂くと同時に、ウィルは変形を再解除しつつビーム・ライフルで残りの一匹を撃ち抜いた。
※ ※ ※
地上では、純白の戦場の上で大軍団同士の衝突が起こっていた。
後方からジャンク品の発射を行う敵の隙間から飛び出した〈メガジャンクルー〉が、ビーム溶断器をおもむろに振り上げる。
「野郎ッ! 俺の〈レオベロス〉を舐めんじゃねぇっ!」
格闘戦に不向きな狗型形態から機体を変形させ、エルフィスのような人型の姿を現す〈レオベロス〉。
胸部に移った獅子の意匠、そのタテガミからビーム・ランサーを二本引き抜き両の手に握る。
発振した光の刃で敵の攻撃を受け止めつつ、もう一本で無防備な胴体を横薙ぎに切り裂く。
そのままタテガミにランサーを戻しつつ変形。
敵の間を加速して通り抜け、後方から砲撃を行う〈メガジャンクルー〉へと肉薄。
「獅子王の魂が、伊達じゃねえってところを見せてやる!」
頭部のタテガミを構成するビーム・ランサーが一斉に火を吹き、発生したビーム・フィールドが機体前面を大きく包み込む。
形成された光の大牙。
獅子の魂を化現させた巨大なビーム・ランサーが跳躍とともに敵を打ち貫き、噛み砕く。
着地して反転、飛びかかり。
次々と牙に飲み込まれていくメガジャンクルー。
しかし次の獲物を、と突進したところで敵が溶断器で防御。
突進を受け止められたところで側面からもう一体の格闘タイプがビームの刃を振りかぶった。
直後、土手っ腹に弾頭をめり込ませ吹っ飛ぶ側面の敵。
そのまま受け止めていた正面の敵から後方へ飛び退くことで距離を置く。
レバーとペダルを全開に押し込み、ドリルのように高速回転しながらの突進を〈レオベロス〉が放つ。
「悪ぃ、クリス。助かった!」
敵を突き抜けた先で滑腔砲を構える〈ベロセルフィス〉へと礼を言うレオン。
通信コンソールに、クリスのにやけた顔が浮かび上がった。
『妹さんの前で張り切るのはいいけど、心配させちゃ元も子もないって!』
「違いねえ!」
───Gパートへ続く




