第2話「誕生、鉄腕魔法少女」【Iパート 宇宙船の中で】
【8】
「────っていうのが、あたしが初めて変身した日の出来事よ」
天井から下がる電光掲示板に“8番コロニー・サマー発 9番コロニー・クーロン行き72便18時30分”と書かれた待合スペース。
そのベンチの隣に座ってクッキーを頬張る咲良への説明を、華世はようやく終えた。
電車の終点となる宇宙港駅で降りた華世たちは、クーロンへと帰るために今から宇宙定期船へと乗り換えるのである。
「ふーん。そんな事があったんだ~。でも、朝食を食べるくだりとか要る?」
「一日のことを包み隠さず言えって、あんたが要求したんじゃないの」
「魔法少女に関係する所を、って言ったつもりだったんだけどね~」
なんとも間延びした気の抜ける口調で喋りながら、咲良が二袋目のクッキーを開封する。
脚をぶらつかせてお菓子を咀嚼する彼女の横で、華世は携帯電話の時計を見て搭乗案内まであと数分だと確認する。
「……ってことは~華世の初変身って、私が来る前日のことだったんだ」
「そういうことになるわね……ていうか、あんたまだ食べるの?」
「オヤツは別腹~。……あれ、確か話の中で大元帥閣下が許可なく戦闘しちゃダメだよ~って言ってなかった? 記憶が正しければ、あの日一緒に戦ったよね~?」
「あー……その下り説明しないとダメか。やっと終わったと思ったのに」
「まあまあ、船に乗ったらまた1時間弱ヒマなんだし~、ゆっくり思い出の照らし合わせをしましょ?」
本来、宇宙空間では光速までとは行かなくても、宇宙船はかなりの速度で航行することができる。
しかし、隣り合ったコロニー間の移動でも1時間ほどかかるのは、コロニーの間隔が直線距離でも約2万キロメートルも離れているためだ。
ピンポンとチャイムが鳴り、アナウンスが華世たちの乗る便の搭乗手続きの開始を告げる。
華世と咲良は自分たちの荷物を持って立ち上がり、ポケットに入れていたチケットを改札口へと挿入する。
「そういえば咲良、あんたキャリーフレームはどうしたの?」
「キャリーフレームは無人運搬船で移送済みよ~。なんで人間は運んでくれないんだろ?」
「さあねぇ」
長い搭乗橋を進み、その先に繋がった宇宙船へと足を踏み入れる。
窓の外には暗黒の宇宙と大きな金星が見え、船の周囲には護衛の宇宙戦用キャリーフレームが数機浮かんでいた。
宇宙は危険な空間なので、護衛もなしに飛行するのは無謀である。
チケットに書いてあった席を見つけた華世は、咲良に窓際の席を譲ってから通路側の椅子へと腰を下ろす。
「えーっと、それじゃ次は試験の日のことを話せばいいのかしら?」
「せっかくだし~、私が金星についた時の事も合わせて思い出の整理をしようよ」
「はいはい。じゃあさっき話した日の翌日、学校についてからのことから話し始めましょうか」
「朝食からでもいいのよ~?」
「朝はほとんど変わらないからね。ミイナが吸って、あたしが飯作って……」
「ま~た吸われたんだ……」
「とにかく、あの日。あたしが学校に着いたらね────」
のんびりと、華世は思い出しながらその日のことを話しだした。
初めて華世と咲良が出会った日。
そして、華世が“人間兵器”となった、あの日のことを。
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登場戦士・マシン紹介No.2
【ザンドールA】
全高:8.4メートル
重量:10.8トン
金星コロニー・アーミィで制式採用されているJIO社製の軍用キャリーフレーム。
10年前の機体であるザンドールをベースに、アーミィでの幅広い任務に対応可能なように細かなカスタマイズが施された機体。
名前のAはもともとアーミィのAだったが、様々な事情によりAとなった。
標準装備としてビーム・ライフルとビーム・アックスを装備しているが、コロニー内戦闘用に実弾装填のアサルトライフルも装備している。
ザンドール自体が旧世代機となっており、カスタム機である本機もスペック的には型落ち気味。
制式採用機体が未だに新世代機にアップデートされないのは予算の問題もあるが、金星では地球から離れているため様々勢力で使われている機体の世代更新が、地球に比べると緩やかであるのも一つの理由である。
【ジャンクルー】
全高:2.0メートル
重量:不明
老紳士が魔力を与えることで、ゴミから生みだされたツクモ獣。
ゴミ袋を数珠のように繋ぎ合わせることで胴体・手足とし、家電などの固くて大型の粗大ごみを手足の先端部とする構成を基本とする。
戦闘力はゴミ由来なので低いが、ジャンク品を振り回したり、発射することで生身の人間に対しては驚異となる戦闘能力を持つ。
知能は低く、「ジャンクル~」という鳴き声のような言葉以外はしゃべることができない。
ツクモ獣はすべて、人間で言うと胸部にあたる部分に正八面体の形状をしたコアをもち、これが失われると形状を維持できずに自壊する。
【ブッタギリー】
全高:2.4メートル
重量:不明
枝切り鋏から生み出されたツクモ獣。
元となったハサミはガーデニングが趣味だった人間に使われていた道具だったが、飽きられたことで捨てられていた。
両手の先が一本ずつの刃物となっており、両手を合わせると大きなハサミとなる。
しかし、あくまでも枝切りの役割を果たせるほどしか切れ味がなく、鋼鉄の装甲を纏った華世の義手に対しては、柔らかい人工皮膚を切り裂く程度で刃が止まってしまった。
【次回予告】
人の出会いは一期一会。
導かれるように出会った二人の戦士は、年齢の差を超えてバディとなる。
そんな二人の出会いの話が、思い出として想起された。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第3話「地球から来た女」
────少女の振るう刃が、金属の巨人を切り裂いた。




