表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/321

第21話「白銀の野に立つ巨影」【Dパート キリシャ・カーマン】


 【4】


 吹雪が窓を叩きつける音がしきりにこだまする、少し豪華な装飾の部屋。

 レトロな外見のカマドが見せかけだけの炎を揺らす中、ウィル達が座る黒いソファの向かいに少女、いや……コロニー・ウィンターのアーミィ支部長、キリシャ・カーマンが小さな腰を下ろした。


「さて……何の話だったかな?」

「…………」


 年下に見える少女の威厳ある振る舞いに、言葉をつまらせる華世たち。

 大人びた少年少女は立場柄少なからず見てきた一行だったが、ここまでの存在は居なかった。


「……そう奇異な目で見るな。宇宙放射線による奇病で、かれこれ24年もこんな姿だ」

「24年!? それじゃあ……」

「私の年齢は35だ。すっきりしたか?」


 外見不相応すぎる立ち振る舞いに、理解はできずとも納得せざるを得ない。

 キリシャの説明を聞き呆気に取られ終わったリンが、身体を前に乗り出して口を開いた。


「わたくしは、第9番コロニー・クーロンの領主が娘、リン・クーロンと申します」

「コロニーをV.O.軍から守るために、巡礼の旅に出た……だろう?」

「え……? ご存知でしたの?」

「あらかたの事情はウルク・ラーゼから聞いている。……令嬢が身一つでこの時勢に旅とは、よくご両親は反対しなかったものだな」


 言われて、ウィルはハッとした。

 トントン拍子にコトが進みすぎて失念していたが、たとえ平和のためとはいえ巡礼の旅など、マトモな親が了承するはずがない。

 ましてや、実力者揃いとはいえ中学生だけのグループで。


「……父も母も、V.O.軍のサンライト占領の際、その場を訪れていました。あれから一度として、お目がかなったことはありません」

「なるほど、頼れる者がいない中の決行か。いや、君たちが頼れる者たちかな?」


 華世たちの顔を見渡し、小さな顔で納得の意を示すキリシャ。

 ウルク・ラーゼから事情を聞いているということは、華世とホノカが只者ではないことも知っているのだろう。


「たが……聖堂への来訪は許可できない」

「なっ……なぜですか!? まさかわたくしに、クーロンへ帰れなどと……」

「慌てるんじゃない。行かせたくても行かせられないワケがあるんだ。こいつを見な」


 そう言いながら、キリシャ・カーマンは手元に置いていた端末を軽く操作し、テーブルの上に置いてウィル達へとその画面を見せる。


 映し出されていたのは、一枚の望遠写真だった。

 背の低いビルが立ち並ぶ街の一角にそびえ立つ、巨大な何かを写した写真。

 流線型の装甲を皮膚代わりに身にまとった、ゲームなどに出てきそうな飛竜ワイバーンのような大型構造物。

 その翼からは無数の針にも見える筒が乱立しており、先端が槍のような形状をした細長い尾を持つ巨獣。

 龍の頭を模した頭部の口内には、あからさまな大型ビーム砲が内蔵されている。


「こいつが、お前さんの行きたがっている聖堂のある区画を陣取っている」

「これは……一体?」

「〈ミョルニール〉。火星で運用された過去のある、拠点防衛用のオーバーフレームさね」

「なぜ、そのような物が?」

「V.O.軍の蜂起と同じ頃に、突然現れた。関係性は不明だが、中に生体反応は無い。そしてやつの周囲に出現した、奇妙な存在……お前たちならば心当たりがあるだろう」


 画面上を指でスライドさせ、写真を切り替えるキリシャ。

 写っているのは、〈ミョルニール〉の周囲を飛ぶ翼竜人型ツクモロズ〈プテラード〉と、足元にキャリーフレーム大の巨大ゴミ人形〈メガジャンクルー〉。

 大型兵器の随伴をしているようなその存在は、このオーバーフレームが何由来の存在かを如実に示していた。


「……なるほど、ツクモロズね」

「奴の排除の為に何度か攻撃を仕掛けたが、さすがは拠点防衛用。翼の高射砲による対空と、頭のGRビーム砲による対地攻撃で近づくことすらままならん。接近しようとすればゴミ人形どもが妨害をする……そもそもココは防衛の観点から陸戦兵器が主体だしな」


「……あーっ! そうだったそうだった、支部長コレを!!」


 キリシャの背後に立っていたレオンが、思い出したかのように細長い記録端末を取り出した。

 話の腰を折られ、キリシャの顔が険しくなる。


「レオン・マリーローズ少尉。後ではいかんのか?」

「ぐっ……その女々しい苗字で呼ぶのは勘弁してください。それよりもコイツん中の映像! きっと〈ミョルニール〉の随伴機か何かですよ!」

「どれどれ……?」


 言われるがままに記録端末を接続し、中の映像データを再生するキリシャ支部長。

 それまで黙って立っていたクリス少尉も覗き込む中、この場にいる全員が端末の画面に注目する。


 映像はブレブレであったが、確かに吹雪の中飛び回る影が一つ。

 大きさ的にキャリーフレームくらいのサイズがあるかもしれない。

 映っているシチュエーションに、ウィルは先程の戦いを思い出した。


「あっ……これ、俺がここに来る途中に交戦したやつかもしれません」

「少年、お前も戦ったか! いやぁ、なかなかすばしっこくて手強い相手だった」

「はい。獣みたいに地を駆けて飛び掛かって、何とか退けられたけど……」

「うんうん、鳥みたいに飛んだ上で空中で……え、獣?」

「四つ脚の敵じゃなくて?」

「俺が出会ったのは空飛ぶ変形野郎だが……」


「ねえレオン少尉、どこで交戦したの?」


 噛み合わない話に、クリスが助け舟を出す。

 

「どこで……って、もちろんパトロールに出た都市方向だぜ? 少年が戦ったっていう宇宙港の方向とは真逆……」

「そういえばレオン少尉の機体ってこの間の改修の際に、コンパスが壊れたって言ってなかった?」

「あ、ぐ……」


 途端に言葉に詰まるレオン。

 ウィルはなんとなく、あの戦いの全貌が読めてしまった。


「ということは何か。少尉は方角を誤った上でこの少年と交戦、あまつさえ機体を損壊させた……というわけだな?」

「……め、面目ありません!!」

「貴様の処分は後だ。話を戻すがウィル、君の機体と魔法少女を使った作戦を、ウルク・ラーゼから君たちがここに来ることを聞いてから考えていた」

「作戦……ですか?」

「受け取った情報と先の、映像から見た操縦技能があれば可能だと計算では出ている。頼めるか?」


 突然提案され、華世の顔を見る。

 この旅の目的は、リン・クーロンの巡礼をサポートすること。

 いまその障害となっているのが〈ミョルニール〉なら言うことを聞いておけ、と言わんばかりに華世は無言で顎をクイッと動かした。


「……わかりました。やらせてください」

「よろしい。では一時間後に作戦説明ブリーフィングを行う。レオン少尉とクリス少尉はキャリーフレーム隊を集めておけ」

「「了解ラーサ!」」

「子供たちは二人の手伝いを。それから……ウィル、君には話がある。残ってくれ」

「え、俺……ですか?」


 名指しされ、固まるウィル。

 こちらを見つめるキリシャの眼差しは、なぜだかすごく鋭かった。




    ───Eパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ