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第21話「白銀の野に立つ巨影」【Cパート ウィンターの少女】

 【3】


 雪の中にそびえ立つ、無限に続くとも思える頑強に反り立つ高い壁。

 門の前で見張りに身分を明かして潜ったゲートの先。

 堅牢を形で表すかのような飾り気のない施設が顔を出した。


 コロニー・ウィンターのアーミィ支部。

 その格納庫へと運び入れてくれるという隊員に〈エルフィスニルファ〉を任せ、華世たちは分厚い3重の自動ドアをくぐり施設内に足を踏み入れる。


「暖かいですわ~!!」

「ほんとにね! 中まで極寒だったらどうしようかと思っちゃったわ!」

「……思ったけど、私と華世は変身してたら寒くなかったんじゃ?」

「ホノカ、あんた……あの狭い中に斬機刀と機械篭手ガントレット持ち込む気だったの?」

「コックピットが傷つくから、二人がそれをしなくてよかったよ」


 効いた暖房に思い思いの言葉を発しつつ、防寒着についた雪を払い落としつつ受付へと向かう。

 しかし、カウンターの奥はひっそりと静まり返っており、人の気配はまるで無かった。


「おかしいわね……取り込み中かしら」

「あら華世。そこに本を読んでる女の子がいますわ! 尋ねてみましょう!」


 返事も聞かず、待ち合いスペースの椅子に座って絵本を読んでいる女の子の元へと駆け出すリン。

 仕方なく、見た目ホノカより年下に見えるイヤーマフをつけた女の子の所へ、5人ゾロゾロと歩み寄ることになった。


「ねえあなた、受付の人はどこですの?」

「…………」


 何も言わず、廊下の一つを指差す女の子。

 突然の来訪者に緊張しているのか、あるいは無口な子なのか。

 リンから礼の言葉を受けた彼女は、不機嫌そうな顔を再び読んでいた絵本へと向けた。




「なんだか、無愛想な子でしたわね」


 薄暗い廊下を進みながら、リンが先程の女の子の話題を振る。

 ホノカが「私もあんな感じだし」と返すと、ユウナが「ホノカって根暗なの?」と一切のオブラートもない言葉を浴びせた。


「……強く否定はできませんね」

「やだ、もー! 冗談だってば! ……ウィル君、どうしたの?」


 廊下に入ってから、ずっと俯いているウィルへと心配の声をかけるユウナ。

 華世はてっきり戦闘の疲れでも出たのかと思ったが、彼の顔は疲れというよりも怯えに近い表情をしていた。


「何かあったの?」

「い、いや……さっきの女の子、変じゃないか?」

「変……と言いますと?」

「外と隔てられたこの施設に幼い女の子が一人だなんて。それに、なんだかあの子の目……すごく俺を見ていた気がする」

「まさか……オバケだったり!? この基地で死んだ女の子の霊が夜な夜な……!!」

「いや、無いでしょ……いま昼前だし。言われてみれば妙といえば妙だけどね」


 考えられる安易な答えとしては、何らかの理由で人里の子を預かっているか、あるいは関係者の連れ子だろう。

 どちらにせよ今は巡礼の場所と、先程の敵の情報を尋ねるのが目的の華世たちには関係のない存在。

 いったん少女のことは忘れ、華世はようやく人影を見つけた休憩室の扉を押し開いた。


「あの……」

「あら、あなた達はだぁれ?」


 携帯端末を片手にコーヒーを飲んでいた女性。

 リンに声をかけられた彼女は、立ち上がって華世たちの方へと歩いてきた。


「えっと……俺の顔になにか?」


 じっ……とウィルの顔を覗き見るように顔を近づける女性。

 数秒間ながめたあと、彼女の顔がニンマリと緩む。


「久しぶりの、可愛い男の子だぁ……」

「えっ……?」

「あっ、ゴメンねついつい。それで君たち、お姉さんに何の用かな?」

「受付の人はどこですか? 支部長でもいいんですけど……」


「支部長ーーっ! 支部長ーーっ!!」


 リンが訪ねようとした矢先、ドタドタと騒がしい足音を鳴らし、絶叫した男がひとり休憩室へとなだれ込んできた。

 扉の縁に手をかけ、乱れた息を整える男。

 ただならぬ様子にドン引くホノカとリンをよそに、彼の顔を見たユウナがパアッと顔を明るくした。


「お兄ちゃん!」

「おん? 誰かと思えば、ユウナじゃねえか! 久しぶりだなー!」


 さっきまでの慌てぶりが嘘だったかのように、フカフカな服装同士で抱き合う男とユウナ。

 状況についていけてない華世たちを尻目に、女性がポンと手のひらに拳を当てる。


「レオン少尉、もしかしてその子が妹さん!」

「おうよ! クリス少尉にも何度か話したら自慢の妹だ! ユウナ、どうしてここに?」

「バイト先のふねがここに寄ったから。お兄ちゃん、全然家に帰ってこないし……」

「わざわざ会いに来てくれたってことか? 見ろよ、この良くできた妹を……!」

「ユウナちゃん、レオン少尉ったら毎日あなたのこと気にかけてたんだよ」

「えー! 嬉しい! お兄ちゃん大好き!」


「……ちょっといいかしら?」


 客人そっちのけで盛り上がる三人へと、低い声で圧をかける華世。

 目を細め睨みつけながら華世が人間兵器である印を見せると、途端にふたりのアーミィ隊員は真顔になった。


「感動の兄妹ドラマを見に来たわけじゃないのよ、あたしたち」

「そうですわ。受付の方か支部長の居場所、お二人はご存知ありませんか?」


「あっ、そうだ忘れてた! 俺も支部長に報告しねえと!」


 ユウナの兄・レオン少尉が思い出したかのように慌て始める。

 なんでも基地の周辺で新しい敵が現れたというらしい。


「キャリーフレームくらいのサイズのバケモンだよ。きっとあいつの仲間に違いねえ!」

「それが本当なら早く支部長に伝えないと……!」

「あたしたちも支部長探してるんだけど……」


「私が、どうかしたか?」


 背後から聞こえてきた、迫力を感じる低い女性の声に休憩室にいた全員が一斉に入り口を見る。

 そこには閉じた扉の隙間から、さっき待ち合いスペースに座っていた女の子が鋭い目つきで覗き見ていた。


「あなた、さっきの……」

「やけにやかましいから様子を見に来てみれば。なんの騒ぎだ、レオン少尉」

「あっ……! そうです、支部長! 報告が!」


「「「支部長!?」」」


 扉を開き低姿勢で少女を休憩室に入れるレオン。

 彼が支部長と呼んだ先、それは紛れもなくその女の子だった。




    ───Dパートへ続く

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