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第20話「ふたつの再会」【Eパート 咲良の苦悩】

 【5】


「はぁ……」


「どうしたんだい咲良。今日はずっとため息続きじゃないか。君らしくもない」


 立てた肘に顎を載せ、ぼんやりコンピューターの画面を見ていたところで楓真から飛んできた指摘。

 咲良は「なんでもない」と取り繕うが、その心中にはずっとヘレシーと名乗った少女のことが渦巻いていた。


(紅葉の友達で、ツクモロズ……)


 彼女の言っていたことはすべて、妹の日記に記されていた事と合致する。

 それは嘘ではない証明であるが、咲良が思うことは別にあった。


(魔法的なロックで、話せないって何よ)


 あの夜。

 自らの正体をあかしたヘレシーに対し、咲良は拳銃をいつでも抜けるように手をかけながら、いくつかの質問をした。


 なぜ妹は死んでしまったのか。

 V.O.軍の蜂起にツクモロズは絡んでいるのか。

 ツクモロズという集団の目的はなにか。

 ツクモロズの本拠地はどこにあるのか。


 しかし、そのどれもにヘレシーは「わからない」と返す。

 知らないというわけではないらしい。

 曰く「魔法的なロック」とやらで、今のツクモロズに不利益なことは話せないようになっているそうだ。


 けれども、何の情報も得られなかったわけではない。


『紅葉が……85代目の魔法少女だった?』

『うん。今の子は87代目だね。86代目の子が戦いの途中で地球から金星に引っ越したから、今のツクモロズは金星にいるんだ』

『そんなに長く……でも、まだツクモロズがいるってことは、魔法少女たちは一度も勝てなかったってこと?』

『そんなことないよ。現に紅葉ちゃんは勝った。勝てたけど、その後で……』


 言葉を濁したヘレシーの態度。

 それがツクモロズに勝った後に何が起こって、咲良の妹が死んだのか。

 言えないのか、言いたくないのか。

 伝えられないのか、伝えたくないのか。

 わからなかったが、一つわかることがあった。


 それは、脈々と続く果てしない戦いの歴史。

 終わりのない少女たちの戦い。

 倒すだけでは、何も変わらないという事実。


(でも、あの子はツクモロズ。本当のことを言っている保証は無い)


 彼女から聞いたことを皆に言い出すべきか、伝えるべきか。

 確信を持てないヘレシーという少女ツクモロズの出した情報が、ずっと咲良の中で渦巻いていた。


 目を閉じれば思い出せる、愛する妹と笑いあった記憶。

 思えば、華世を護りたいと思ったのは、妹と同じ目に遭う子を見たくなかったから。

 けれども彼女は旅立ち、役割に縛られた咲良は今、ここから動けないでいる。


(強く……ならないと)


 決意は固まれど、動けないこの身。

 咲良は切っ掛けを欲していた。

 強くなれる、切っ掛けを。



 ※ ※ ※



 クーロンの中にある、とある廃倉庫の中。

 動かない換気扇とトタン壁の隙間から差し込む光だけが照らされた広い空間。

 無数のキャリーフレームのまえで、レッド・ジャケットの隊員であることを示す赤いジャケットを羽織った男ランス・ランサーは、弟・スピアから報告を聞いた。


「ランス兄さん。準備が整ったと各地の工作員から連絡が」

「スピアよ、言伝ことづてご苦労であった。これが怪物モンスター核晶コアとやらか」


 ランスは、スピアから受け取った正八面体をまじまじと眺める。

 潜伏している廃倉庫の中では、仲間が同様の核晶コアを手に、キャリーフレーム〈クアットロ〉の前でランスの指示を待っている。


「諸君、これより我々はアーミィの連中に怪物モンスターをけしかける。威力偵察というやつだ」


 自らもタラップとなったコックピットハッチの階段を登り、核晶コアを握りしめるランス。

 その一挙手一投足を、この場にいる者たちが固唾を飲んで見守る。

 いや、通信機の先にいる多くの同士も、ランスの言葉に耳を傾けているに違いがないのだ。


「アーミィは我々のような敵をやすやすと通してしまうほど愚かしい存在だ。故に金星人ビューネシアンの幸福のために、正義の鉄槌を下さねばならん!」

「「「「イエス・リーダー!」」」」

「金星開拓を支えた紳士殿クアットロには泥をかぶって貰う形になる。しかしアーミィ共に用済みとされ、廃棄された彼らならば大義の礎となるならば、本懐というものだろう」

「「「「イエス・リーダー!」」」」

「我らの敵はあくまでもアーミィであるからして、罪なき民間人へと危害を加えることはレッド・ジャケットの恥と知れ!」

「「「「イエス・リーダー!」」」」

「作戦を開始する! 女神様の祝福には──」

「「「「──厳しい暑さと暖かき光がある!」」」」





    ──Fパートへ続く

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