第2話「誕生、鉄腕魔法少女」【Hパート オトナたち】
「大元帥閣下、映像の準備が出来上がりました」
「よろしい。再生したまえ」
「はっ」
ウルク・ラーゼがコンピューターを操作すると、壁の大型モニターに映像が映し出された。
それはやや高いところから俯瞰で映された、華世が戦った場所の映像。
光とともに華世が変身し、ゴミ人形と戦い、老紳士が居なくなるまでの過程を、大人三人が食い入るように見つめている。
「ウルク・ラーゼ大佐、この怪人の亡骸は?」
「ありませんでしたが、代わりに壊れた枝切り鋏が現場に」
「怪人の元となった道具はそれか。……確か、ツクモロズと言ったか?」
「ツクモロズは僕たち、妖精族の故郷を大昔に侵略した悪い奴らなんだミュ!」
青いハムスターことミュウが、大元帥へ向けて必死な顔で説明する。
それを聞いたアーダルベルトは、自身の顎を指で触りながら首を少しかしげた。
「失礼、妖精族というのは? なにぶんファンシーな話なもので、縁の薄い私には理解が追いつかなくてね」
「妖精族は僕たちのように……ってわからないかもだけどミュ、魔法力を持った人たちだと思ってくれていいミュよ!」
「なるほど?」
「僕たちはこの世界と別の世界で暮らしていたんだミュけど、その世界がツクモロズに侵略されちゃって。多くの人たちは捕まっちゃったミュけど、僕のように逃げられた人は、次元ゲートへと散り散りに逃げ込んだんだミュ」
「そのゲートっちゅうモンのひとつが、このコロニーに繋がっとった。ってことでええんか?」
「そうだミュ!」
ミュウは話を続けた。
ツクモロズの目的は、より多くの世界を領土にすること。
そして、妖精族が逃げ込んだ先で手頃な場所があれば、そこを侵略しようとすること。
それ即ち、このスペースコロニー“クーロン”、ひいては金星のコロニー群ビィナス・リング全てが奴らに狙われる可能性が高いこと。
「……わかった。新たな敵が現れる可能性については、こちら──コロニー・アーミィで対策を講じておこう」
「大元帥閣下、こないな話を鵜呑みにしはるんですか!?」
「この世の中、信じられないような出来事はいくらでも起こり得るものなのだ。事実、我々太陽系人類種は過去に2度、異星人による侵略戦争を経験している。特に君ならわかるであろう、常識を覆され得るような出来事が現実で起こり得るということが」
「……それを言われては、ハイとしか言いようがありゃしませんわ」
なにやら思いつめたような顔で頷く内宮。
華世は内宮との付き合い自体は2年前からしかないのでよく知らないが、過去に何かあったのだろうか。
そんなことを思っていると、アーダルベルトが屈んで華世の視線へと高さを合わせ、ゆっくりと口を開いた。
「華世。今回のことに関しては証拠もあるゆえ、正当防衛の範疇で銃撃を行ったとして処理しよう。ただし今後、ツクモロズ相手だとしても許可なく同様の戦闘行為を行えば、いくら私とて庇い切ることはできぬが……いいな?」
「ええ、わかったわ。ありがと、伯父さん」
「よろしい。ではウルク・ラーゼ大佐、君の執務室で手続きを行わせてもらおうか」
「私の部屋で、ですか?」
「不服かね?」
「いえ。滅相もありません。ご案内いたしましょう、大元帥閣下」
仮面の男ウルク・ラーゼと共に、華世へと後ろ手に手を振りながら尋問室を退出するアーダルベルト大元帥。
ふたりの背中が見えなくなってから、内宮は大きなため息を吐いて華世の人工皮膚の傷を撫でた。
「ホンマ良かったわ~華世が前科者にならんで」
「今朝注意されたばっかりなのに、迷惑かけちゃったわね。……ごめんなさい」
「ええんや。大元帥がああ言っとるのにこれ以上責めるんも野暮やし。それよりこの傷、痛ないんか?」
「別に、神経通ってるわけじゃないから。でも修繕しないとみっともないわよね」
「ならええんやけど……せや。華世、学校どないするん?」
「あっ」
言われてとっさに壁の掛け時計を見る。
すでに時刻は午前11時、午前中の授業が半分以上終わっている時間。
「……秋姉。今から行くって、学校に連絡できる?」
「かまへんけど……このハムスターは?」
「後で面倒見るから、一旦ミイナに預けといて! あとステッキも!」
「ちょっと、置いていかないでミュ! 華世ーー!?」
ミュウの困惑した叫び声を背中に受けながら、華世は尋問室を飛び出した。
───Iパートへ続く




