第20話「ふたつの再会」【Aパート 美女と少女】
「今日の会食も不発であった、な」
「せやなぁ……」
月明かり代わりの光が闇から降りる夜。
ウルク・ラーゼと内宮のふたりで歩く夜道。
酒の入っていない素面な顔で、いつもどおりの結果に諦め半分の落胆をする。
「そもそもや」
「何だ?」
「V.O.軍で金星が揺れとる時に、合コンに精を出すのもどうかと思うんや」
会食、というのは方便であり半ば冗談。
三十路手前の内宮と、40歳が手の届くウルク・ラーゼ。
ふたりの独身者は将来の伴侶を見初めるべく、1年以上前から婚活を続けていた。
続けていた、ということは振るわなかった事しかないということであり、こうやって夜道をトボトボと歩くのもお馴染みの光景であった。
「日常が壊されつつある中こそ、日常を謳歌することに意義があるのだよ」
「せやろか?」
12番コロニーで問題が発生しているとはいえ、前線から離れた9番コロニー・クーロンの住人にとっては対岸の火事。
アーミィとしても人員や戦力を送ったり、いつでも緊急出撃ができるようにと対応はしているが、何もない事が当たり前なのは変わらない。
変わったことといえば緊急事態に対応できるようにと、アーミィ隊員全員の飲酒が禁じられたくらいだ。
「我々アーミィが日々を崩さぬところから、民衆は安心感を覚えるのではないかね?」
「現実が見えてないて非難されなええけどな」
現状V.O.軍は第12番コロニー・サンライトを占領して以降、目立った動きはない。
捕虜となったはずの現地アーミィ兵たちの安否もわからないまま。
通信も塞がれている以上、今できることと言えばこれ以上の侵攻を許さないために前線に兵力を貼り付けるくらいだ。
「……にしても、今日は酷かったな」
「せやな。うちとあんさんが長う合コン通うてる言うたら……二人でくっつけば、やと?」
「冗談ではない! 貴様のような母性のカケラもない訛り女などに!」
「なんやと! うちかて、そないな変な仮面の大仰中年男なんて、物好き女でも手ぇ出さへんわっ!」
「貴様、言うに事欠いて!」
「お返しや!」
「「ふんっ!!」」
戦火の迫る中でも、二人にとっては婚活という人生の戦いの方が苛烈だった。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第20話「ふたつの再会」
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【1】
「杏ちゃん。まだ実感沸かないけど、華世ちゃんたち行っちゃったんだよね」
「寂しくなりますが、私達も頑張らないとです!」
「そうだね。……って、もうこんな時間か~」
「すっかり遅くなっちゃいましたね、結衣先輩」
宇宙港に向かうバスに乗る華世たちを見送った帰り道。
結衣と杏は空いたな休日の一日を使って二人でウインドウショッピングを楽しんでいた。
普段だと服飾系に興味がない華世に配慮してできなかった、可愛らしいアレコレを見回る遊び。
あまりに二人で熱中しすぎた結果、すっかり夜も遅くなり街から人気も無くなっていた。
「なんだか、気味が悪いね」
「そうですか?」
いつの間にか迷い込んでいた、暗い住宅街。
「こんなに周りに人がいないと……オバケとか出たら怖いね」
「お、オバケ……? だ、大丈夫ですよ結衣センパイ! 私たち、魔法少女ですし!」
ドスン。
低く鳴り響いた音と地響きに、顔を見合わせて震える二人。
街頭の光だけが照らす路地の向こうから、一歩いっぽ地揺れとともに近づいてくる何か。
「まさか、オ・バ・ケ?」
「そんなそんな、こんな時代にオバケなんて」
「でも、近づいて来るよ……!」
暗闇の奥から近づいてくる巨大な気配。
それは、街灯の光に照らし出されてシルエットを浮かび上がらせた。
巨大な体躯、大きな頭。
太い腕に握られていたのはよく見るタイプの銀行ATM。
真っ暗な頭部に赤い光を浮かべたそれは、1機の〈ザンク〉だった。
『こ、子供……!?』
『見られちまったらしょうがねえ! 人質に取るぞ!』
スピーカー越しに発された声とともに、大きな機械の腕がゆっくりと結衣たちへと伸びてくる。
オバケに恐怖してたところに現れたキャリーフレームに、腰を抜かして動けない結衣。
杏も立ってはいたが、震えて動けなさそうだった。
「危ないっ!!」
突如、よこから割り込むようにして飛び込んだ人影。
街灯の光が映し出したその姿は、流れるような美しい黒の長髪。
長いスカートの深いスリットから、輝くような綺麗な足を伸ばしたその女性は、腰の鞘から刃を抜いた。
刹那、放たれた横薙ぎの一閃。
その一撃は〈ザンク〉の腕と両足を一刀のもとに切り離し、結衣たちへと迫った驚異を斬り倒した。
にわかに聞こえてくる、パトカーのサイレン音。
騒がしくなってきた一帯をよそに、刀を鞘に収めた女性は、へたり込んでいた結衣たちへと笑顔を向けながら手を差し出した。
「あなたたち、大丈夫?」
「え、あ……はい!」
※ ※ ※
「すっかり遅くなっちゃったね~、EL」
「書類仕事を残してパトロールに出るからですよ」
「忘れてたんだってば~」
結衣たちが謎の女性に助けられていた、その同じ頃。
少し遠くでキャリーフレームによる強盗事件が起こっているとはつゆ知らず。
咲良はコンビニで買った6人前のオデンを両手に、食事可能なボディを借りたELと二人で家路についていた。
「それにしても本日……木星での修理が終わった〈ジエル〉が納入されたのはずでしたよね?」
「まだ〈ザンドール〉でパトロールしておけって命令だったもんね~。何がトラブルでもあったのかな」
「〈ザンドール〉だと私の支援が充分に行なえませんから、早く元の…………待ってください、咲良」
急に足を止め、守るように片腕を伸ばして咲良を制止させるEL。
彼女が警戒する方向から、小さな影がゆっくりと暗闇から近づいてきていた。
「迷子の、子供……?」
「時刻的に不自然です。ツクモロズの刺客の可能性も」
ぺち、ぺちと足音を立て、一歩ずつ近づく何者か。
その姿が街灯の光に照らし出されたとき、咲良は「あっ」という言葉しか出なかった。
「おにゃか……ぺこぺこ~~……」
咲良たちの顔を見るやいなやその場に倒れる、見た目小学生くらいの少女。
慌てて駆け寄ると、その子はなんと靴を履いていなかった。
それだけではない。
服はボロボロで、身体はツーンとした匂い。
伸び放題の髪は艶がなく、全身から生気がまるで感じられなかった。
「どうします、咲良?」
「えーと、えーっと……とりあえず、助ける!」
オデンをELに押し付けた咲良は、そのまま少女を抱き抱えて走り出した。
───Bパートへ続く




