第19話「決意と旅立ち」【Jパート 及第点】
【9】
「レッド・ジャケットが略奪とは、恥とは思わないのか!」
『宇宙は無法だ。裁くものはいない! あるのは……力によって奪われた弱者と、勝ち取った強者のふたつだけだっ!』
間一髪の距離で、攻撃をかわし続けるウィル。
華世を守るために強いられる防戦一方。
手を使わなくても放てるビーム・ダガー・ブーメランも、対ビーム構造の赤い装甲の前には無力だった。
『我が方から盗み出された〈エルフィスニルファ〉がどれほどかとは思っていたが、この程度では盗まれたことは痛手ではないっ!』
「いたぶる者が好き放題を言うっ!」
『ハハハハハハハ! その役立たずの人間兵器を捨てたら勝てるかもしれないぞ!』
「くっ……!」
ジャヴ・エリンの言うことは、ウィルも痛いほどよくわかっていた。
華世を手に握っている間は、高速機動ができない。
変形することもままならず、強みを殺された〈エルフィスニルファ〉が一方的に不利なのはわかっていた。
「断るっ……! 俺が戦う理由は、この娘のためだから!」
『じゃあ仲良くあの世へ行くんだな!』
ウィルの眼前で〈ペンネ・リガーテ〉がビームソー・ブレードを振り上げる。
激しく振動しながらビームの刃を回転させるあの武器の攻撃は、受け止めることはできない。
ビーム・セイバーで鍔迫り合いをしようにも、打ち合うビームを次々と切り替える向こうの方が押し合いには強いのだ。
事実、すでにニルファのセイバーは初撃で破壊され、残骸が側に浮かんでいる。
せめて華世だけでも守ろうとウィルはニルファを前のめりにし、コックピット・ブロックを盾にしようとした。
『エリートの僕に逆らった罰だ、受け入れ……ろ!?』
突如、割って入るように放たれた無数の弾丸。
直後に〈ペンネ・リガーテ〉へと体当たりを仕掛けた巨体が、敵をウィルの前から引き剥がした。
※ ※ ※
『まだ戦力を隠していたのか、あの艦は!!』
通信回線から聞こえる敵の声に、ホノカは心臓をバクバクさせる。
初めての操縦、初めてのキャリーフレーム戦。
目の前で華世が恐怖する武器を構える敵の姿に、ホノカは負けないように操縦レバーに力を込める。
『僕の狩りを邪魔したな……! 黒いエルフィス、お前からビームソー・ブレードの餌食にしてやる!』
「攻撃、来る……! フェアリィ、防御兵装を!!」
『イエス・マスター、HWシールドを展開します』
フェアリィのアナウンスと共に、左腕の肩に装備された盾がスライドし、前面に展開される。
振り下ろされるビームの刃を受け止める……寸前に、シールドから真っ赤な閃光が放射された。
盾から発された熱線に、ビームソー・ブレードが押し返される。
『熱エネルギーによる防壁っ……!? くそうっ!!』
表面が焦げ付いたビームソー・ブレードを仕舞い込み、ビーム・ライフルに持ち変え距離を取る〈ペンネ・リガーテ〉。
放たれるビームを回避しようとペダルに載せた足に力を込めるホノカであったが、緊張と震えで意識より強く踏み込んでしまう。
「う、あ、う……!!」
上へ下へと揺さぶられるようにジグザグ運動しながら、次々と放たれるビームの弾を回避。
ときおり避けそこなった光弾もあったが、フェアリィが制御しているのか自動で盾が受け止めてくれていた。
『自動防御は優秀なようだけど、操縦がまるで素人じゃないか!』
「フェアリィ! さっきの射撃武器の準備と、照準の設定を!」
『イエス・マスター』
防御のために一度戻した右腕の射撃ユニットが、再び前を向く。
コンソールにガトリングウォッチと表示された武装が、狙いの場所を捉えた。
「当・た・れーーーーっ!!」
宇宙空間を乱れ飛ぶ、赤い弾丸の嵐。
それは〈ペンネ・リガーテ〉の脇をかすめるように通り過ぎ、小さなスパークを起こさせるだけで消えていった。
反撃で放たれたビームが自動で前に回った盾によって受け止められ、〈オルタナティブ〉が後ろに押し出される。
『下手くそめ! どこを狙っている!』
「下手じゃない……狙ったところには、当たった!」
『狙った? ビームソー・ブレードを破壊しただけじゃないか! 壊れかけの武器を壊しただけで、何の解決にも……』
「なるよ。だって……私達の最高の戦力が、目を覚ますから!」
『最高の、戦力だって……? うわっ!!?』
『どぉりゃぁぁぁっ!!』
ホノカの後方から矢のように飛び込んできたのは、足裏からヒートナイフを出した格好で足を伸ばす華世。
彼女は装甲に隠された〈ペンネ・リガーテ〉の肩の付け根へと巧みに突き刺さり、そのまま翻りつつ斬機刀で脆くなった関節を切り裂いた。
『ぐ、う!?』
『よくもあたしに、恥をかかせて、くれたわねっ!!』
華世の怒りは止まらない。
義手の甲からビーム弾を連射。
コートのような赤い装甲が攻撃を阻もうと全面に集中したところで、斬機刀で切り裂く。
『死ねよやぁぁっ!!』
振り上げられた〈ペンネ・リガーテ〉の脚が華世を捉えたが、すかさずビームガンをセイバーモードへと切り替え。
爪のように伸びた二本のビーム剣が、鋼鉄の脚を切り裂いた。
『この僕が? 素人と? 生身の? 女の子に? やられるだって!? そんな、認めません! 認めませんよぉぉぉ!!』
通信越しに響く、ジャヴ・エリンの負け惜しみ。
けれどもウィルたちの背後から助けに入ったザンドール群を見ては、さすがに無茶な反撃には転じれなかった。
『よくやったな、少年少女! 反対側は掃討した!』
『ネメシスの皆さん! あっ、敵が!』
右腕と右脚を失った格好の〈ペンネ・リガーテ〉が背中を向け、猛スピードで戦場から離脱していく。
この速度では、〈エルフィスニルファ〉の戦闘機形態くらいでしか追うことはできないだろう。
単機で追えば、また先程の二の舞になるのは目に見えている。
それがわかっているからこそ、ウィルはこの場から動かなかったのだろう。
『お疲れさまです、マスター。戦闘評価……Eマイナス、もっと精進してください』
「わかってるよ、そんなこと……でもお疲れ、フェアリィ。お疲れ、エルフィスオルタナティブ……」
コックピットの中で一人脱力するホノカ。
魔法少女としてではなく、キャリーフレームパイロットとしての少女の初陣は……なんとか格好がつく結果に終わった。
ザンドール隊に抱えられながら艦に戻る間に、一人そう思っていた。
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登場戦士・マシン紹介No.19
【ネメシス級4番艦アルテミス】
全長:221メートル
全幅:42メートル
ネメシス傭兵団の旗艦。
黄金戦役で活躍した戦艦ネメシスが老朽化により退役したため、その技術をベースに新造されたこの艦がネメシス傭兵団へと与えられた。
武装としては主砲に連装重力波砲、副砲として多連装プラズマミサイルとクラスター・ビームを持つ。
全面に対空迎撃用のビーム機銃であるビーム・ファランクスが装備されており、対空能力は抜群だが、対ビーム兵装に富んだキャリーフレームに肉薄されると抵抗できなくなってしまう欠点を持つ。
ネメシス級の特徴である主砲・空間歪曲砲は主砲とするにはオーバースペックだったため、艦首単装砲として残されている。
【エルフィスオルタナティヴ】
全高:8.2メートル
重量:16.4トン
ネメシス傭兵団に木星クレッセント社から押し付けられた試作キャリーフレーム。
正式名は「オルタナティヴ」であり、厳密にはエルフィスシリーズではない。
表立てでは「失敗作」とされているが、これは異なる技術体系を用いた新造ドライブの起動が搭乗者の資質に左右されすぎるため。
動力炉の起動さえできれば性能は指折りだが、ホノカが起動した状態では全力の三分の一にも満たないパフォーマンスしか発揮できていなかった。
武装としては腕時計の要領で右手首に固定されている射撃兵装、ガトリング・ウォッチ。
左肩に装着されている熱線発射機構を備えた対ビームシールド、ヒート・ウェイブ・シールド。
右脇に実体剣、フレイムエッジが装備されている。
最新世代キャリーフレームなため、支援AI「フェアリィ」を搭載している。
【ペスカトーレ級】
全長:209メートル
全幅:74メートル
レッド・ジャケットが運用する宇宙戦艦。
双胴構造の珍しい艦体をしており、航行速度に優れるためゲリラ的な運用に最適である。
また、その構造と幅広の船体には巨大なキャリーフレーム格納庫を有し、宇宙空母としての性能が非常に高い。
【ペンネ・リガーテ】
全高:8.1メートル
重量:9.5トン
傭兵団レッド・ジャケットの中でもV.O.軍の指揮官に任命される資質を持った若者たち「ドラクル」に与えられるキャリーフレームのひとつ。
レッド・ジャケット所属機は所属判別も兼ねて、全機が共通の赤い装甲をもった防御兵装を装備している。
これは対ビーム構造をもつ装甲を積層化したもので、ビームに対しては無敵の防御性能を誇る。
そのために両腕の可動範囲を狭めているようにも思えているが、機体の支援AIが動きの邪魔にならないように自動で装甲をスライドさせるため、格闘戦においても干渉することはない。
ペンネ・リガーテは搭乗者ジャヴ・エリンの意向により格闘武器ビームソー・ブレードを装備している。
これは柄の先の円盤内に放射状に装着されたビーム刃が、円盤ごと回転することで電動丸ノコのような働きをする武器であり、格闘戦においてビーム・セイバーとの鍔迫り合いに対して一方的に打ち勝つことができる。
反面リーチ管理が難しく、機械構造的な部分に火力を頼っているため損傷に弱い。
他にもビーム・ライフルを装備しているが、これは広く流通しているJIO社製の標準モデルであり、特徴的な部分はない。
【次回予告】
華世たちの離れたクーロンを守りたいと決意を固めるも、襲いかかるキャリーフレームにすくんでしまう結衣と杏。
途方に暮れる二人の前に、ウルク・ラーゼの幼馴染を名乗る女性が姿を表す。
その同じ時、咲良もまた亡き妹を知る謎の少女と出会っていた。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第20話「ふたつの再会」
────かつての絆が、今を輝かせる。




