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第19話「決意と旅立ち」【Hパート 華世の恐怖】

 【7】


 艦橋のすぐ外の宇宙に広がる、爆炎の光。

 至近距離の爆発に揺さぶられた艦体が、激しく全体を振動させる。


「きゃああっ!!」

「何事だ! 通信士、報告を!」


 優しげだった顔つきがキリッとし、声を張る遠坂艦長。

 ユウナはその声に答えるべく、送られてきた報告を読み上げた。


「は、はいっ! えっと、ミサイルの迎撃に成功とのことです!」

「発射位置の特定!」

「できてます! 銀経63距離4000……発射艦船、ペスカトーレ級です!」

「……レッド・ジャケットか!」

「敵艦、補給ステーションを盾にしつつキャリーフレームを発進させた模様!」

「艦砲戦をできないようにして、ミサイルで挨拶か……。こちらもキャリーフレームを出せ!」



 ※ ※ ※



『総員に告ぎます! 第一種戦闘配備、第一種戦闘配備についてください! キャリーフレームパイロットは、準備ができ次第出撃してください!』


 けたたましくなるサイレンと艦橋からの艦内放送が鳴り響く格納庫内。

 華世はリンとウィルを呼び戻し、二人にホノカの居場所を訪ねた。


「わたくし、知りませんわよ!」

「俺も……さっきまでは一緒だったはずなんだけど」

「ったく……世話の焼ける! とにかくリンはひとりで部屋に戻ってなさい。ウィルとあたしは出撃するわよ!」

「わかった……!」

「武運を祈りますわ!」


 愛機のもとへ走るウィルを見送りながら、華世は宇宙に繋がるエアロックの近くへと立つ。

 そこには出撃準備を終えた何機かの〈ザンドール〉が、発進用カタパルトに足を載せている最中だった。


「お嬢さん、もうすぐ空気を抜いちまうぞ。早く宇宙服を……」

「ドリーム・チェンジ」


 忠告をする作業員の前で、魔法少女姿へと変身する。

 激しい光とともに服装を変化させた華世に、よく事情を知らないであろうクルーたちが目を白黒させる。


「おかまいなく。あたしは人間兵器だから」

『待って、華世!』


 通信機を兼ねるリボンから聞こえたウィルの声。

 彼の止める声に、華世は背後から歩いてきた〈エルフィスニルファ〉の方へと振り向いた。


『艦長から、何か怪しいから俺と君は命令まで待機だって』

「それって……客人に出撃させない方便じゃ、ないわよね?」

『わからない。けど……あの人がネメシスの、傭兵団の長ならば、信じれるんじゃないかな』


 渋々と華世は、カタパルトから身を引き出撃を見守る。

 エアロックから空気が抜かれ、次々と発進するキャリーフレーム。

 そしてすぐさま、交戦する光の粒々が宇宙空間で明滅を始めた。


 華世はこめかみを指で叩き、義眼を熱源探査モードへと切り替える。

 見るのは先程〈ザンドール〉たちが発進していった方とは逆の宇宙。


「……なるほど、艦長さんの読みは当たってたってことね!」

『華世?』

「敵の狙いは攻撃してきた方とは逆! 反対側からの挟撃ってことよ!」


 義手の手首を発射し、キャットウォークの手すりを掴む。

 そしてワイヤーを巻き取る勢いに乗って、華世は宇宙空間へと飛び出した。

 義眼が伝える、前方からの熱源。

 それは紛れもなく一機のキャリーフレームのものだった。


(目には見えないということは、光学的なステルス……? 単機というのは妙だけど……ん?)


 敵機と思われる熱源から、粒状の何かが3つ放出された。

 義眼を望遠機能に切り替え、ズーム。

 見えたのは、光を受けて輝く正八面体。

 それらは周囲のスペース・デブリを吸い寄せるようにして集め肥大化。

 やがて華世の見覚えのある姿へと変貌した。


(ウィルと会った時に戦った……翼竜型ツクモロズ!?)


 目の前に出現した三体の敵。

 華世が左脚を失うきっかけとなり、ウィルと出会うきっかけとなったツクモロズ。

 後にアーミィで「プテラード」という名称を与えた、竜人のような姿をしたキャリーフレーム大の怪物だった。


(けど、あの時からあたしも強くなってんのよ……!)


 プテラードの口から放たれた熱線を回避しつつ、体を捻りながら接近。

 そのまますれ違いざまに斬機刀を抜刀、一刀のもとに核晶コアのある部位を切り捨てる。

 華世へと鋭い爪を広げる二体目へと、回し蹴りの動きで足裏からヒートナイフを発射。

 的確に狙った刃はプテラードの急所を直撃、一瞬でその身体がデブリへと戻る。

 残った一体が熱線を吐こうと鎌首をもたげるが、その首はウィルの〈エルフィスニルファ〉が放ったビーム・ダガー・ブーメランが一閃。

 胴体はビーム・ライフルによって貫かれ、突如現れたツクモロズは一瞬のうちに討伐された。


『おやおや。やはりあのような借り物の玩具オモチャでは役に立ちませんでしたか』


 リボン越しに広域通信で聞こえてきた、若い男の声。

 華世は反射的に、さっきから感じていた熱源へと義手から発射したナイフを飛ばす。

 なにもない空間でカキンと弾かれたあと、衣を脱ぎ捨てるようにして姿を表す一機のキャリーフレーム。

 そのボディは血のように真っ赤なプレート状の装甲を、上着のように纏っていた。


『あんたがこの攻撃の本命ね?』

『御名答。僕はレッド・ジャケットのドラクル所属、ジャヴ・エリンと言います。お見知りおきを、人間兵器さん』


 宇宙空間で戦う華世の姿に驚かないどころか、知っているような口ぶり。

 しかも通信開きっぱなしで会話を全て垂れ流しにするのは、よほどの余裕の表れなのか。

 華世は相手の得体のしれなさに、警戒を強めていた。


『レッド・ジャケットが、どうしてツクモロズを使っているのよ』

『我が隊は様々な場所にコネがありましてね。と、お喋りは終わりです。あの艦を頂くため、あなた達には僕の〈ペンネ・リガーテ〉の餌となってもらいます……!』


 敵キャリーフレーム〈ペンネ・リガーテ〉がおもむろに武器を取り出す。

 その武器の形状と駆動した時の動きに、華世は目を見開いた。


『う、う……!?』


 柄の先に形作るのは、環状のブレード。

 その側面に形成された無数のビーム刃が、激しい回転の中で光の輪を描く。


『いや……嫌ぁぁっ!!』


 頭の中に呼び起こされる、二年前の記憶。

 円盤状の機械から伸びる、回転する刃。

 切り裂かれ、肉塊へと変えられていく人々の姿。

 平和な街を一瞬で血に染め上げた、悪魔の兵器。


『やだっ……! 来ないで、来ないでぇぇっ!!』

『華世、どうしたんだ! くっ!!』


 頭が真っ白になったまま、錯乱する華世。

 その身体がウィルの〈エルフィスニルファ〉の手に握られたと気づいたのは、それからしばらく経ってからだった。




    ───Iパートへ続く

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