第18話「冷たい力 熱い感情」【Gパート 結衣の勇気】
【7】
「ハッピーエンドで終わりなんて、そんなの許さないジャーン!」
廃棄場へと響く聞き慣れない声に、結衣を抱いたまま起き上がる華世。
見れば、ホノカと杏はすでに倒れ、その身体がジャンクルーの腕に持ち上げられていた。
眼の前に立つチャラそうな男から発せられる、禍々しい気配。
その周囲にツクモロズが並んでいるのを見なくとも、華世はその男がツクモロズであることがわかった。
「極上のツクモロ獣を持って帰ろうと来てみれば、もう戻されてるんジャーン。このままじゃオレっちの手柄が無い無いナッシングなのは、ちょっとヤバいジャーン!」
「あんた……ホノカと杏をどうするつもり?」
「代わりに持って変えれば少しは手柄になるジャーン? とくにあのゴツ腕の方は、始末すると偉いんジャーン!」
華世は戦闘態勢を取ろうと、斬機刀に手をかける。
しかし握る指に力が入らず、大きな刃が華世の手から離れてしまう。
「うっ……こんな、時に……!」
無理して動いてきたツケが回ってきていた。
本来ならば丸一日安静にしなくてはならない手術後。
部屋を飛び出し、気力だけで動くことの限界がついに来てしまった。
遠くで見ているであろうウィルの機体は、非武装なため未知の相手へは出られない。
そのうえホノカと杏まで敵の手に落ちては、戦える者は残っていない。
「ギャハハハ! もう限界みたいジャーン! 弱り目の女を倒すだけで大手柄なんて、他の連中に悪いんジャーン!!」
下品な笑い声を上げるチャラ男を、片膝をついた状態でにらみつける華世。
けれども全身が悲鳴を上げ、激しい頭痛に思考もままならない状態では、打つすべが無かった。
「それじゃとっとと、仕事を終わらせるジャーン! あーん?」
華世の前に、結衣が立った。
かつて、華世から杏を守るように立ちはだかったときと同じように、両腕を広げて立っていた。
────その手に、赤い宝石が輝くステッキを握りながら。
「オレっちに歯向かおうってんジャーン? 逃げたら許してやろうって思ってたのに、バカな人間ジャーン?」
「逃げないよ! 華世ちゃんを置いてなんて、絶対にできない!」
「でも結衣……あなた、戦うことなんて……」
「戦えるよ! だって……」
ステッキを握った手を、天高く上げる結衣。
彼女はニッコリと、華世へと笑顔を送った。
「戦う勇気と守るための力は、さっき華世ちゃんに貰ったから!!」
結衣がステッキをバトンのようにクルクルと回し、チャラ男へと真っ直ぐに向ける。
そして彼女は叫んだ。魔法の言葉を。
無力な少女を戦士に変える、希望の呪文を。
「ドリーム・チェェェェンジっ!!」
【8】
激しい光に包まれる結衣の身体。
一度は戻った服装が、光の中で再び分解。
むき出しになった細い身体が、集まった光が変わった黒いインナーに包まれる。
足先は頑丈そうな軍靴が履かされ、胴体にはひとつなぎの衣装。
そして丈の長いコート状の衣装に袖が通され、胸に大きなリボンがひとつ。
長い髪を縛るように、髪留めがおおきなポニーテールを形成。
握ったステッキは先端が膨らみ、いくつもの筒を内包した、斧の刃を思わせる形状へと変化した。
「魔法少女マジカル・ユイ! 愛と正義を守るために、ただいま参上!!」
結衣が長く求めていたシチュエーション。
魔法少女となって、華世と共に戦う。
いつかその時が来たときの為にと、考えていた名乗り口上。
それを今、華世を守るために言い放った。
「び、びびらせんじゃ無いジャーン! なりたての子供になにができるジャン? ジャンクルー、やっちまうジャーン!!」
チャラ男を囲んでいたジャンクルーの群れが、一斉に腕先の粗大ごみを放ってくる。
結衣はすかさず華世の手を握り、白い光の羽を広げて跳躍。
砂埃の立つ場所をあとに飛び上がり、空中へと浮かび上がった。
すかさず握ったステッキの先端を敵群へと向け、高らかに叫ぶ。
「マジカル・ミサーーイルッ!!」
斧のような先端ユニット、その側面に埋まるように付いている筒状のユニットから、ズドドドと轟音を立てながら無数の火球が放射される。
いや、火球ではない。
純白の筒に炎の力を込めた灰色の煙の尾を引くミサイルが、敵一体一体へとまんべんなく降り注ぐ。
地上で次々と起こる球状の爆炎。
その赤い閃光が晴れた頃には、ジャンクルーの姿はひとつも残っていなかった。
「結衣、あんた……!」
「えへへっ! 華世ちゃん、手離しても大丈夫?」
「少しくらいは滞空できるけど……」
「ありがとう! チュッ!」
高揚した気持ちそのままに華世の頬へとキスをし、両手でステッキに握りしめる。
そのまま空中で横回転を始め、ハンマー投げの要領でステッキを振り回す速度を徐々に上げていく。
「そんなっ、ウソじゃん? 冗談キツイジャーン!?」
「これでトドメっ! マジカルゥゥゥ!」
回転を続けながらチャラ男へと接近。
ステッキが届く瞬間に大地に足をつけ、回転を加えた全力のスイングを相手へと解き放った。
「ホォォォムランッッ!!!」
「ぐっぎゃぁぁぁ!!!」
胴へとステッキのフルスイングを喰らい、叫び声とともに彼方へとふっとばされるチャラ男。
雲の向こうで起こった爆発を見届け、結衣は降りてきた華世の手を握った。
「すごいでしょ、華世ちゃん!」
「ええ……上出来よ。すごい、上出来……」
「えへへ、えへへへ……あっ……」
急に身体から力が抜け、眠くなる。
重いまぶたに視界が暗くなりながら、倒れかけた身体を華世の腕が受け止める感覚に心が穏やかになる。
「つかれちゃった……頑張ったよね、私……」
「ええ、結衣。ゆっくりお休み……」
穏やかな感情で心が一杯になりながら、結衣は華世に身体を預け……睡魔に従った。
───Hパートへ続く




