表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/321

第2話「誕生、鉄腕魔法少女」【Fパート 取り調べ】

 【6】


 かつての人類が、なぜ金星という惑星の周辺に宇宙人工島スペースコロニーを建造したかというのは、様々な説がある。

 それは火星に続き、火星と同様の地球型惑星たる金星を人為的地球化テラフォーミングするための前線基地とするためとか。

 あるいは地球圏から木星圏にかけての、地球公転軌道外側の開発が終わったので今度は地球公転軌道の内側の開発に乗り出すためとか。

 諸説あれど結局、金星は人為的地球化テラフォーミングされておらず、金星より内側の公転軌道には人類は手を出していない。


 そういった歴史の上で、金星をぐるっと取り囲むように無数のスペースコロニーを建造し、輪になるように接続してビィナス・リングという洒落た名をつけたのは、時の権力者がロマンチシズムに溢れていたのだろう。

 そうして形成された金星を取り囲むスペースコロニーのひとつ、第九番コロニーが華世たちの住む円筒形居住コロニー、その名を「クーロン」という。


「いい加減に白状したまえ。君に逃げ場など無いのだよ」


 窓のない尋問室の中で、華世の正面に座っていた仮面の男が低い声でゆっくりと言った。

 顔の上半分を隠すような仮面を付けた男は、決して机を叩いて脅しつけるようなことはしないところから、誠意はある人間なのだろう。

 けれどもその口から放たれる言葉、その語調は穏やかなれど、威圧感が声色からみてとれる。

 が、その程度のプレッシャーでは華世の心を崩すには足りない。


「黙秘よ。何度も言ってるけど、あの人が来るまでは黙秘するわ。あたしにその権利はあるでしょう?」

「尋問官を変え、不利な発言を黙秘する権利はある。だが、君の求めている彼女は身内びいきで仕事の手を緩めるような人間ではないぞ?」

「も・く・ひ」

「肝の座ったコスプレ少女だ」


 仮面の男は立ち上がり、華世へと背を向けて2,3歩ほど歩いた。

 そして部屋の中心あたりで立ち止まり、顔だけ振り返り口を開く。


「このような幼子が生み出されてしまうことがコロニー社会、ひいてはこの宇宙時代の暗部であり凋落を示しているのかもしれんな」

「大げさな男……」


 華世は尋問をする男に対し黙秘を貫きつついぶかしみながら、時を待った。

 外の廊下から聞こえてくる靴音と共に来たる、救いの手を。

 コンコンと、扉をノックする音が尋問室に響き渡る。


「喜びたまえ。君の待ち焦がれた人間が来たぞ。気の済むまで存分に弁明をするがいい」


 部屋の隅の椅子に男が座り込み「入りたまえ」と声をかけると、扉が勢いよく開き、華世がよく見た細い目が顔を覗かせた。

 それは、華世が住む家の家主。

 今朝、スクランブルエッグを喜んで食べていた女性・内宮千秋その人である。


「華世、なんであんたが……って、何でウルク・ラーゼ支部長が尋問しとったんや?」

「ウルク・ラーゼ支部長? この仮面の男が?」

「このオッサンはコロニー・アーミィ・クーロン支部の支部長なんや。何でなん?」


「ええい内宮。私が担当している理由など、尋問担当官が午後勤務で未だ出勤しておらず、経験者が所内に私だけであったからに過ぎんよ。私など朝の8時から出向いているというのに……! 昼休憩も挟まぬ内からこのような凶行に出る、その少女こそが諸悪の根源なのだよ……!」


 やや苛立ちを含めたような静かに強い語気で、仮面の男……ウルク・ラーゼが部屋の隅で天井に向けて吐き捨てた。

 言葉遣いこそ大仰な悪の親玉と言った感じであるが、言っていることは中間管理職のひがみである。


「とにかく、や」


 華世の正面の椅子に座った内宮が、額を手で抑えながら華世を睨みつけた。

 その瞳の奥から見えるのは、困惑と失望、そして焦り。


「……まさか、家でて数時間でまた再会することになるなんて、思いもよらんかったわ」

「あたしもよ。できれば、厄介にはなりたくなかったんだけどね」

「何をやらかしたんや? コロニー・ポリスやのうて、アーミィにとっ捕まっとるってことは喧嘩や済まないことやと思うんやけど……それに、その格好」


 内宮が指差したのは、華世の服装。

 桃色を基調としたフリフリの衣装、朝の番組で放映されている魔法少女番組のコスプレのような服装。

 その服を着込み、軍たるアーミィに拘束されている理由など、常人には想像すらできないだろう。


「別に、あたしは市街地での発砲をとがめられただけよ」

「発砲やて? 拳銃でも持っとったんか?」

「違うわ。これよ」


 鋼鉄の義手、その甲にある銃口部分をコツコツと左手の爪でつつく。


「……その機構、護身用にやて付けてもろうたもんやろ? 市街地で発砲なんてただ事じゃあらへん。ああ……こないなことが大元帥に知られてしもうたら、うちはどうなってしま────」


「吾輩がどうかしたかね? 内宮千秋少尉」

「う゛っ」


 廊下から聞こえてきた、威厳ある低い声。

 冷や汗をダラダラ垂れ流しながらゆっくりと振り向いた視線の先にいたのは、大量の勲章を胸にぶら下げた軍服を身に着けた、初老の男性。

 立派な白い口ひげを蓄えた男が部屋へと入ると、内宮だけでなく隅に座っていたウルク・ラーゼ支部長も立ち上がり、ビシッと同時に敬礼をした。



    ───Gパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 街中での発砲で、捕まってしまい尋問を受け…… 家主の内宮さんに再開してしまう流れ、とても面白いです…! そして最後に登場した立派そうなお方…『大元帥』がとても気になります…! [気になる点…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ