第18話「冷たい力 熱い感情」【Aパート 何度目かの病室】
何度倒れても、何度喪っても。
それでも華世は立ち上がる、戦う、大事なモノを守るために。
傷ついた身体を機械に代えて、科学の力で相手を倒す。
けれども決して魔法を頼らないのは、人の身に余る力を……使いたくないからだろうか。
俺は……華世を守りたい。
惚れた弱みもあるけれど、強く生きる彼女の力になってあげたいから。
でも、俺よりもよっぽど強いんだよね、華世は。
男として、悩ましい限りだよ……。
◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第18話「冷たい力 熱い感情」
◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
【1】
「うーん、華世はこれで喜びますかね?」
「どうだろう……それ以前に落ち込んでいるかもしれないし」
「華世が落ち込んでいる姿って、ちょっと想像できませんけど」
見舞いの品が入った箱を運びながら、ウィルはリンとホノカを伴いつつ病院の廊下を歩いていた。
百年祭の終わり際、別行動をとった華世が何者かによって攻撃を受けたのが昨晩。
その時に負った傷により、華世は右目を失明したという。
右腕、左脚に続いて3度目となる華世の身体喪失。
そして、行方不明になった結衣の存在。
それが華世の心に影を落としている……と考えるのが妥当であろう。
しかし、華世という人物が常識で測れないのも事実。
今までただの一度も弱音を吐いたところも、涙を流したところも見せていない華世。
少女の身には強すぎる精神を持つ彼女が、扉の先で特に落ち込んでいる素振りもしていなかったことは、半分予想はできたことだ。
「うーん……あ、おはよう」
「おはよう、華世。その……」
「ああ、これのこと?」
右目を塞ぐように身につけられた眼帯。
その下がどうなっているかは、気にはなるけど見たくはない。
ウィルは見舞いの品を棚に置いてから、華世ひとりだけの広い病室から来客用の椅子を探して並べた。
「思ったより元気そうですわね」
「やられたのは目だけだったからね」
「目だけ……って、華世は失明したのに」
「それよりも華世、さっきから何を見ているんだい?」
ウィル達が部屋に入る前から、華世は携帯電話の画面を顔に近づけたり離したりを繰り返していた。
その疑問に答える代わりに、華世は「ん」と一言だけ発しながらその画面をこちらに向ける。
「えーと……最新型の軍用義眼カタログ?」
「やっぱ片眼だけだと焦点が合わせづらいし、いい機会だからね」
「いい機会って……」
「済んだことは仕方ないでしょ。見てみて、先週から売り出されたこの最新機種……ネットから動画を脳内に送信する機能に、プロジェクター機能もあるんですって」
眼帯をした顔で、楽しそうにカタログを眺める華世。
その姿は、とても昨晩に片目を失った少女のそれではない。
「……何よ。あんたたち、あたしが悄気てたほうが良かったっての?」
「そういうわけじゃ……」
「……あんたたちには言うけどね、あの時あたしを攻撃したのは結衣だったの」
「……うん」
なんとなくそんな気がしていたウィルは、後ろの二人と違い華世の言葉に驚き一つ見せなかった。
華世が並大抵の相手に遅れを取るはずはない。
それなのに直撃を受けたのは、相手が友達だった……くらいしか思いつかないのだ。
「ウィルだけ、わかってたみたいね」
「華世と付き合いは長いから……長いかな?」
「まだ3ヶ月未満よ。ただ、わかってもらえるのは嬉しいわね」
今まで華世とひとつ屋根の下で共に暮らし、彼女の戦いをいつも見ていたウィル。
日数や時間は少なくても、戦友としての理解は深まっていた。
「あの時……とつぜん結衣が苦しみだしたと思ったら、魔法少女みたいな格好に変身したのよ」
「あの静さんが……どうしてですの?」
「知らないわよ。そしてあたしは結衣を……全力で殺そうとした。というか、させられそうになったわ」
「もしかしてそれって、杏の時みたいに?」
「ええ……まるで結衣がすごく憎い敵みたいに思えてね。けど、結衣から助ける声が……あれは思念波だったのかしら。とにかく声が聞こえてハッとしたら、撃たれてた」
「……そうかい、そんなことがあったんだねぇ」
突然、背後から聞こえた声にウィル達は一斉に振り向いた。
病室の扉を開けて立っていたのは、一人の老婆。
「矢ノ倉先生……」
華世に武術を教えたという、矢ノ倉寧音だった。
「近くを通りかかったから挨拶でもと思ったけど……私が来るたびに入院してるねぇ」
「恐縮です……」
「良いよ良いよ。話は一通り聞かせてもらったけれども……どうするんだい?」
「どうするって」
「居なくなった、あなたのお友達。このまま放っておくのかい?」
華世にとっては愚問な問いかけ。
このまま引き下がるなど、あり得ない。
事実、華世は大きく首を振り、片方だけとなった真っ直ぐな瞳で矢ノ倉女史へと眼差しを向けた。
「もちろん取り戻します。あたしには、その責任がありますから」
「責任ねぇ……あなたは若いんだから、もっとフランクでいいんじゃないの?」
「フランクって……」
「友達だから助け出す、って言っほしいんじゃありません? お婆様?」
リンの言葉にキョトンとする華世。
一方の矢ノ倉はうんうんと深い頷きを返していた。
「大人が言ったら青臭いけれども、あなた達はまだ子供ですからね。義務とか責任じゃなくて、感情に従うのは若者の特権ですよ」
「……肝に銘じておきます」
「よろしい。それじゃあ若人たちの邪魔をしちゃ悪いし、老骨はここで御暇させていただきますよっと」
花々が咲き乱れるバスケットを棚の上に置いてから、病室を立ち去る矢ノ倉。
華世はひとつため息をついてから、再び枕に頭を乗せ、携帯電話の画面を見始める。
「そういえば気になったんですけど」
ホノカが発した言葉に、華世が目線だけこちらに向けた。
「結衣さん、しきりに華世のことを親友って言いますよね」
「そういえばそうだね」
「わたくしは今年に入ってから華世たちと出会いましたから、それ以前のことは知りませんわ。よろしければ話していただけません?」
「しょうがないわねぇ。まあ……これから助けに行く相手のこと、少しは知っても損はないか」
そう言って華世は、ゆっくりと昔話を始めた。
───Bパートへ続く




