表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/321

第17話「埋め込まれた悪意」【Gパート 紅蓮に染まる空】

 【7】


 ナインと内宮による飲みの席は2時間ほどで解散となった。

 疲れて眠ったリンをウィルと内宮に預け、結衣と二人で夜道を歩く。

 人気ひとけのない道を往きながら、夜空を見上げた。


「華世ちゃん、ありがとう」

「何が?」

「私に元気を出させるために今日、いろいろ気を使ってくれたでしょ?」

「別に……見ていて痛ましかったからどうにかしただけよ」

「やっぱり華世ちゃんって、優しいね」


 小高い展望台へと続く上り坂を、結衣が駆け上がる。

 その先の空に見えるのは、黒い夜空のキャンバスに浮かぶ、色とりどりの光を放つドローン群の芸術。

 百年祭のフィナーレであるショーが、まさに今盛り上がっているところだった。


「私、華世ちゃんのこと……大好きだよ」

「結衣……」

「変な意味じゃないよ? 華世ちゃんって、厳しいところもあるけど、心の奥が温かいもん」


 くるりと振り返り、満面の笑顔を見せる結衣。

 けれどもその眉は外側に下がり、彼女の複雑な心境を表している。


「内宮さんとナインさんみたいに、ずっと友達で……親友で居ようね、華世ちゃん」

「……そうね」


 手の一つでも握ってやろうか、と華世は結衣へと歩み寄る。

 祭りで盛り上がっている公園を見下ろせる高台から景色を眺めたら、結衣の不安も飛んでいくだろう。

 一日ムダなことに突き合わせてしまった償いとお礼。

 それを華世は、返そうとした。


 しかし、できなかった。



「あ、う……」

「結衣……!?」


 急に頭を抑え、苦しみ始める結衣。

 華世はとっさに手をのばすが、結衣は華世の手を振り払い、離れるように後ろへと下がる。


「やだ……なに、これ……!」

「結衣、しっかりして! 結衣!!」

「だ、め……来ないで……華世ちゃ……」


 結衣の肌に浮かぶ、幾何学的な線の光。

 幾重にも伸びる直線が、彼女の顔を、腕を、体全体を少しずつ蝕んでいた。


「わた、し……が……無くな……っちゃう……!」

「結衣!! うっ!?」


 結衣を包み込む、激しい光。

 華世が何度も見た光と、同じ輝き。

 少女が変身する、魔法の閃光。

 起こるはずのない光が、結衣を包み込んでいた。


「結衣ーーーっ!!」


 華世の叫びが、展望台に響く。

 しかし、その声を聞くものは……いなかった。



 ※ ※ ※



「……始まったか」

「おめでとうございます、ザナミ様。無事フェーズ2へと移行しましたよ」


 ザナミ前で拍手をする、黒衣に身を包んだアッシュ。

 その隣では、しかめ面をするフェイクと目を輝かせるバトウ。

 そして、少し離れた位置で無言で口をにやけさせるセキバク。 


 フェーズが進むことは、彼らにとって必ずしも得であるとは限らない。

 これから、生き残りを賭けた生存競争が始まるからだ。


「アッシュ、お前が仕込んだ種とやらは……どうなった?」

「フェーズの進行により、開花したようだよ。今まさに、鉤爪ちゃんの前で花開いているだろうさ」

「……そうか」


 笑いもせず、喜びもせず、ザナミは表情を変えずに目を閉じた。

 野望のために犠牲になる少女、その身を案じながら……。



 ※ ※ ※



 夜空に浮かび上がる結衣の姿。

 鮮やかな色の衣装に身を包んだその格好は、魔法少女そのもの。

 けれども、袖の先から見える腕、スカートの中から伸びる脚。

 そして、笑顔が眩しかったあの顔を支える首が、漆黒の膜に包まれ不気味な青緑色の線を発光させていた。


「結衣……うっ……くっ…………!」


 変わり果てた友の姿を見た瞬間から、華世の中に浮かぶドス黒い感情。

 初めてももと戦ったときにも現れた、自分じゃないような存在に思考を奪われる感覚。


(あいつは、敵だ。裏切り者だ)


「違う……」


(ツクモロズは敵だ。殺せ、殺せ……!!)


「あたしは……!」


(奴は、敵だ。殺せ!)


「うああああっ!!!」


 華世の意思を無視するように、呪文もなく変身が始まる。

 血走った目が、敵をうつす。

 全身をめぐる不快感が、斬機刀を握らせる。

 思考全体を覆い尽くす殺意が、大地を蹴った。


「くたばれぇぇぇっ!!」


 華世の放つ斬撃が、空を切る。

 魔法少女化した結衣の身体は、その背中から伸びる光の羽により、空へと逃れていた。

 彼女の手に握られた長いステッキ、その先から真っ赤な火の玉が放たれる。


 爆発し、えぐられる大地。

 展望台のベンチが燃え上がり、一瞬のうちに焼失。

 熱気を受けた金属のフェンスが歪み、崩れて消えていく。

 そんな中にあっても華世は、足を踏みしめ全身に力を込めていた。


「くだらない攻撃……! 逃がす……もんですか!」


 地を蹴り、跳躍する華世。

 宙を飛ぶ結衣の姿へ、刃を思いっきり振り下ろす。


「逃げるなっ!! 大人しく……始末されなさい!」


 回避しながら火球で反撃する結衣。

 その攻撃を斬機刀で切り捨てながら、背中のスラスターを全開にして肉薄する華世。


「捉えたっ!! 死ねぇっ!!」


(助けて……華世ちゃん!!)


 結衣へと刀を振り下ろそうとしたその時。

 華世の脳の奥へと直接響くように聞こえた結衣の声。

 助けを求める友の声。

 真っ黒だった思考が真っ白になり、空中で身体が動かなくなる。


「うっ……!?」

(怖いよ、苦しいよ。嫌だよ、華世ちゃん……!)

「結……衣……!?」

(お願い……助けて……華世ちゃん!!)


 クリアになる思考。

 正気を取り戻し、自分がしようとしていることに衝撃を受ける。


「あたしは……何を……ああっ!!」


 そんな華世へと無慈悲に向けられる、結衣のステッキ。

 その先端が輝くと同時に、華世の視界が真っ赤に燃え上がった。



    ───Hパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ